豹双牙
「にんじんしりしりって面白い名前だねー。だけど美味い!!」
「本当ですね!あ、たまちゃん、食べ過ぎです!!」
「えへへ、早い者勝ちだよー。」
城の食堂の、木で造られたやたら長いテーブルに並べられた俺の料理を食べている。
うさぎさん達はやはりニンジンシリシリを気に入っているようだ。
「むぅ。食材にどういう風に手を加えると、こんな繊細な味になるんだ……。」
「……ですね。忠太に作り方を教えてもらえませんか?」
大隈が唸り、稲実が賛同する。忠太……はまぁ十中八九、厨房にいたネズミの獣人だろうなぁ。
「そっちのほうがうまいかー?」
しゃもじ用に作った煮干スープは全て飲み干し、上目遣いでレラに話しかけている。
ふはは!うちの猫はテーブルの上に登ったりしないんだ!お利口さんだぞしゃもじ!
「お兄ちゃんに、人の食べ物食べちゃダメって言われてるでしょ!!」
その通りだ、レラ。……だが、お前ら仲良過ぎじゃないか?
四葉ともすぐに仲良くなっていたし。……俺がしゃもじと仲良くなるのにどれくらいの時を費やしたか解ってんのか!
「にんじんしりしりの作り方が知りたいでちゅー。」
おい!キャラが安易だぞ忠太!!第一何で料理人が王様と一緒に飯食ってんだよ!?
「とりあえず、味を自分の舌に覚えさせろ。『調味料+調味料=この味』という方程式を、刷り込むんだ!」
「ちょうみりょう…ほーてーしき?何でちゅーかそれは?」
1からか!上等じゃねぇか。教えてやろう!!
何でこいつが料理担当なんだ……。
「『虎伏術』師範、胡桃、入ります!」
「あぁ。どうぞ。」
俺が忠太に料理を教えていると、突然ハスキーな女性の声が食堂に響き渡り、稲実が応じる。
扉の向こうから現れた声の主は、リスの獣人だろう。茶色くぽわっとした尻尾が上に伸び、先端が丸まっている。
身の丈は140センチ程だろうか。かなり小柄だ。
頭には申し訳ない程度に存在する三角の耳、明るい茶髪、目鼻が通った中性的な顔立ち。
質感的に麻布で造られたであろう、緑色のTシャツ。ベージュのズボン。腰からは短めの日本刀が下げられている。長さから見て脇差し、いや小太刀だろうか?
「とりあえず胡桃に視察に行ってもらおうと思ってな。」
跪いた胡桃と呼ばれた女性を、大隈が偉そうな態度を崩さずに見下ろす。
熊さんがどれだけ強いかは知らないが、何でこんなに偉そうなんだこいつは。
「ねぇ。虎伏術って?」
レラが俺と同じ疑問を四葉に投げかけると、
「剣術だよ。私達九尾族の『尾剣術』と、白鹿族の『突砕術』で、『三獣剣』と並び称されているの。」
と、返していた。
リスなのに伏せた虎?良く解らん。
この世界は動物にエラがついてたり、魚が陸を走ったり、狐と牛が亀の眷属で、兎、鹿、熊は狼の眷属だったり。
どうしても前の世界の常識を当て嵌めてしまう自分が居て混乱してしまう。
「あくまでも他の2つは虎伏術の分派だがのぉ。いずれも強力な剣術である事には変わりないからの。」
ジジイの補足で少しだけ腑に落ちた。
特に種族と関係しない宗派である虎伏術。
種族の特色を濃く反映させた分派である尾剣術と突砕術。
つまりどんな獣人でも虎伏術を習得出来るが、尾剣術は九尾族、突砕術は白鹿族しか習得出来ない。
別に今の師範がリスの獣人なだけであり、熊でも兎でも良いわけだ。
「って事は、やっぱり大樹も強いの?」
「一応お父様が尾剣術の師範で、獣剣五指に数えられる程なんだけどなぁ。」
「こやつには悉く通じてはおらんかったわな。」
呆れながら俺の疑問に応える四葉とジジイ。
俺から見れば天然な部分が目立つ大樹が、獣剣の五指に数えられる程に強いのか。
あぁでも確かにあの馬鹿デカイつる草をなぎ倒していたな。
「胡桃は虎伏術歴代1位と称される程の剣腕だ。しかも『豹爪牙』にも選ばれたしな。」
「豹双牙?」
「霊刀だ。」
霊刀か。なるほど。ってなるわけがない。どうやら大隈は見た目通り大雑把な性格の様だ。
「ほれ。腰から下げておるあの小太刀じゃ。」
補足係のジジイによると、
豹、という伝説の獣の牙を原料に創られたと言われている神々の武具。
刀自体に高い霊力が込められていて、霊力や魔力さえも切り裂いてしまう。
刀に気に入られない者が持つと、とてつもなく重く感じるそうだ。
豹ってあの豹だよな?猫が獣神な世界だし、豹が伝説なのも頷けるけど。
牙で創ったって。動物虐待反対!!
「胡桃さんが行けば恐らくは安心かと思います。あぁそうだ。『人』である貴方に腕を試してもらいましょうか。」
という稲実の発言により、胡桃さんと手合わせをする事になってしまった。
「獣神様の『契約者』と聞き及んでおります。……全身全霊を持って、殺らせて戴きます!」
ギラギラとその茶色い瞳に闘志を燃やす胡桃さん。
いや怖いし!殺らせてって何だ!?霊力切り裂かれるとかやばいじゃん!
「寸止めだよね?俺が負けても殺さないよね?」
「はは!ご謙遜を。私もまだまだ修行中であります故に。」
あ、駄目だ。言葉のキャッチボールが出来ないやつだ。
……どうしよう。




