後片付け
獣王の霊術って、凄い音を出して、耳から脳を刺激して立てなくするとか?三半規管的なアレに作用するとか?
単純に音に霊力を乗せて、特別な力を発揮させたとか?
俺としゃもじには効果なかったから、霊力を乗せた、もしくは霊力を変化させたが正しいのかな?
まぁ俺の知識で当てはめようとする事自体がおかしいか。
ジジイはまりちゃん、たまちゃんに連れていかれ、霊都の何ヵ所かに小豆の花が咲かせて呪いを解いて回った。
何個くすねたんだろうあのジジイ。お陰で助かったけど。
「……。」
呪われた時の記憶があるのか、と四葉に聞くと、うろ覚えだけど、と返ってきた。そしてそのまま俯いて黙ってしまっているのを、被害者のレラが慰めている。
「なんかへんなにおいー」
しゃもじは目をショボショボさせて、花の香りを変な臭いだと訴えていた。
寝てたくせに……。呪いに対してだと獣神様も良い所無しだ。
「全部燃やすしかないよ……。」的な状況なら大活躍だったろうが、そんな事はさせたくない。
そんな事よりも四葉だ。さっき霊力手で拘束した時に解ってしまった。
合流した時に感じた違和感。そして俺達がまりちゃんと謁見している時に何をしていたか。
下着、だ。今まで走る……いや、歩く時も官能的な『揺れ』を魅せていた四葉だが、それが無くなっていたのだ。
解ってない。解ってないよ四葉。
折角巫女さんのような和服を着ているのだから、下着はナンセンスじゃないか!?
恐らくは『人』との貿易品だろう。獣人にそんな文化があるとは思えない。……くそう。『人』め。
四葉が俯いているのを良い事に、胸を見ながらそんな事を考えていると、レラがジトッとした視線を俺に送る。
……レラももう少し大人になればきっと解るさ。
「本当にありがとうございます。あなた方が居なければ、対処出来ない所でした。」
北兎族の城、王の間でまりちゃんが頭を下げた。
「ホントにねー!魔王子が絡んでるとか。貿易がーとかそんな問題じゃなかったよ。」
そしてそれにたまちゃんが賛同する。
「まぁそれほどでも……あるのぉ!!」
褒められているジジイがにょほほ〜っと調子に乗った笑いを見せている。あの小豆は俺が貰ったんだ!
レラの目が見抜いて、俺が貰った豆で、ジジイが対処した。中々バランスが良い組み合わせなのかもな。
「……申し訳ございませんでした!!」
「いえ。魔王子の呪いなら仕方ありません。例え私とて、あの団子をもし食べていたなら危うかったでしょうし。」
四葉が勢い良く頭を下げた所を、まりちゃんが慰める。レラも許した、というより最初から怒ってないし、気にし過ぎだ。
「しかし、これは急いだ方が良さそうですね。」
「そうだな。『聖域』が奪われているなら、すぐに取り返さねばならん。」
稲実と大隈が危惧するのは尤もで、魔王子が絡んで来た以上、野牛族の問題も早々に解決するべきである。
もし仮に今、聖域が『人』の手に落ちている場合。
ゴーマンが望んだ通り、それを取り返す為の戦争が起きるのだろう。
「『人』との戦争になったら、直人はどうするの?」
と、隣にいる四葉が小声で聞いて来たので。
「そもそも戦争なんてしたくないよ。殺すも殺されるも勘弁だ。」
と答えておいた。戦争を停める、が俺にとって最善だが、俺にどうこう出来る問題じゃなさそうだし?
そりゃあまぁ、逃げるよ。
「ところで、さ。」
いつの間にか俺と四葉の間に顔を挟んできたたまちゃんに驚いてしまう。
こいつら耳良いんだった。小声意味ねぇ!
「直人の料理についてちょっと聞きたいんだけどー。」
明らかに「知っているんだから~。」という顔をしているたまちゃん。
まりちゃんも、稲実も、大隈も同じ様な顔をしている。
「はぁ……。あんまり言いたくないんだけどなぁ。」
当然杓子の事は伏せながら、霊力を上げる料理について白状すると、流れで俺が料理を作る事になってしまった。
「早く野牛族の件を対応しようよ!」と言った所で、「お前が料理している間に決めておく。」と大隈に言われてしまった為、観念する事にした。
「ねぇねぇ。たまちゃんの大好物なのこれ。美味しく出来る?」
とたまちゃんが差し出して来たのはニンジンっぽい形の緑色の根菜。味は……ニンジンだ。
基本的に獣人は、味覚は『人』に近いし、雑食だ。ちなみにジジイも雑食だ。
でもこうしてキャラみたいなものを守ろうとしている……ってのは考え過ぎなんだろうなぁ。
たまちゃんに城の厨房まで案内され、何を使っても構わないから、とまで言われ。
結構本格的な厨房でテンション上がったり。大した料理もしないくせに、と思ったりしながら料理に取りかかる。
ちなみにしゃもじは四葉とまりちゃんに見てもらっている。
ニンジンと言えば、ニンジンシリシリ。
マグロの赤身を、油で1時間極弱火で茹でてツナを作り。
細切りにしたニンジンとツナを炒め、何から産まれたかも分からない玉子を割り入れ。
塩・胡椒で味付け、醤油をひとたらしして香り付け。
何かの調理器具にシリシリ(すりすり)して、ニンジンを下拵えするからこの名前だそうだが。無いから仕方無いだろ。
後は、千切りにして片栗粉と塩を混ぜて焼く『ニンジン餅』。じゃがいもモチの要領で作ってみたら結構イケた。
そしてきんぴらニンジンとニンジンのナムルだ。ちなみに俺のナムルは、軽く茹でてから、胡麻油・醤油・酢で『炒める』タイプのもの。粉ダシがあれば完璧だったのに。
緑色のニンジンという中々の違和感のせいで、グラッセは止めておく。
ついでに足イワシの煮干を発見したので、猫用スープ(味無し)を作るついでに、味噌汁も作ってみた。
「食材をこねくり回して、何のつもりだ!!」と怒ってきた厨房長であるネズミの獣人に味見をさせた所、土下座して謝ってきた。
味は解るのに、何で料理しようとか考えないんだろ。そして土下座って文化があるんだな。
レラの話だと、『人』の世界にはパンがあるらしいが。何か期待出来そうにないなぁ。
何て事を考えながら、ツナ作りで余ったマグロを唐揚げにした。まぁこんなもんでいいよな。




