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猫と杓子がやたら強い。  作者: しゃもじ派
食神と獣神と死神
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呪われた獣人


白い煉瓦(レンガ)のような素材で作られた城の中の王室に通された。


移動方法は、たまちゃんに抱えられて1人ずつジャンプだ。


安全性を高める為に、入口は地上から離しているとの事。


下から崩されたら終わりだと気が付かないんだろうか。


ちなみにしゃもじだけは尻尾をくるくると回して、ヘリコプターのように飛んできた。……うちの猫はこの世界では何でもありだ。


「こんにちは。獣神様。ナオトさん。レラ君。花王様。茉莉(まり)と申します。」


にこやかに微笑む玉座に腰をかけている北兎族の女性。俺等に頭を下げてくる姿勢は、いい意味で王様らしくない。


こういう時どの様に挨拶をすればいいのかよくわからないので、とりあえず頭を下げておいた。


年の頃は26~29ぐらいだろうか。まぁ前の世界の基準だが。


たまちゃんと違う所は圧倒的なまでに大人で。


人の肌が露出している所だ。


――スイートなバニーガール。


そんな印象を受けた。


脚は完全に覆われているが、そこから両脇腹に伸びた茶色の体毛は、程好く膨らんだ胸を上手く隠すかのように交差し、首の後ろに回る。両腕とへそ周りと背中は、白い柔肌が露出している。


ピンっと立ったウサギの耳と、真ん丸の赤い瞳とアヒル口…いや、ウサギ口は、可愛さと妖艶さを際立てている。


まるで可愛さの中に詰められた、甘美なクリームが官能的なシュークリーム。


誰からも愛されるようなその容姿は、ついつい見惚れてしまう。


それで言うなら四葉はプリンだろうか。


その癖になる舌触りを堪能してしまえば、その濃厚な甘さの虜になり。


(さじ)を軽く受け入れるその柔らかさと、広がる香り。


ほろ苦いカラメルが飽きさせず、一段と深い魅力へ導いてくれる。




……個人的にはプリンの方が好きだ。あ、いやいや食べ物の話だ。例え話じゃなく。


「お兄ちゃん……。」


呆れた顔で声を発するレラ。


はっ!?まさかまた桃色か…!?


本当に恐ろしい目だ。





「頭が高いな。(ひざまづ)くのが普通だろう。」

偉そうな態度でこちらを睨むのは、たまちゃんの隣に立っている大男。


熊の獣人だろうか。熊の毛皮を着た粗暴な狩人といった印象を受ける。ワイルドなオッサンだ。


「まぁまぁ。『人』とは文化が違いますから。それに…本来跪くのは私達の方ですよ。」


そう言い、両手をパタパタさせながら熊男を止めるのは鹿の獣人の男。幾重にも枝分かれした短めの角が逞しく伸びた優男だ。青年になったばかり、という印象。


獣人である以上、確かにしゃもじに頭を下げるべきなんだろうなぁ。


だが、城の王室ではそれは出来ない。とたまちゃんからあらかじめ説明を受けていた。王族の決まりなのか、俺が『人』だからか。細かくは追求しなかったが。


…どれだけ崇めたとしても、猫はそんな事に興味ないんだけどな。


「野牛族の件は承知致しました。ただ…。大隈(おおくま)。」


「はっ。…野牛族より戦闘に向いている者は中々いなくてな。」


熊の獣人の名前は大隈というらしい。名字っぽいけど…まぁいいか。


護衛隊の総隊長で、天の精霊の眷属。…というより、ここにいる北兎族、山熊族(やまぐまぞく)白鹿族(はくかぞく)は皆そうらしい。


「野牛族に『聖域』を守護する役割を与えているのは、単純にその戦闘力が高いからなんですがねぇ。」


白鹿族の優男の名前は稲実(いなみ)。宰相だそうだ。獣人の男は大概上着を着ていないが、この2人は毛で覆われている部位が多いので、九尾族みたいに上裸には見えない。


野牛族が使う霊術とは、身体を強化するというもので、元々強靭な肉体を持つ野牛族が強化すれば、ある程度の攻撃は弾き、素手で岩を砕く程の力を得る。


地は攻め、海は守り、天は癒しに向く。戦闘能力の高い野牛族が『聖域』の守護をしているのだが、野牛族だけでは『魔導師』一人にすら歯が立たない。


野牛族が望んだのはここだ。助けて欲しいのは『今』ではなく『これから』という事。


仮に『聖域』に近い『人』を殲滅させるのだとすれば、それは獣神だけで事足りる。


多分しゃもじに上級霊法を詠唱してもらうだけ終わるだろうな。


だがそれは『人』と同じだ。獣人達が好むべくもない。


「援軍を遣したいのは山々なんですが。実は呪いを受けた者がこの国に侵入したようでしてね?その処理に追われているんですよ。」


「まりちゃん!!」


「あら。たまちゃん。良いじゃないですか。折角だから手伝ってもらいましょう?」


呪いか。『人』や悪魔が使う魔法によって呪われた物を身に着けたり食べてしまったりすると、苦しんだり命を落としてしまう事もあるってやつだよな?呪いっていうぐらいだから『操る』とかも出来るのかな?


国の問題だからな。俺等に言って良い事じゃない。まして俺とレラには特に。


「……『人』の国と貿易をしている事は知ってる?一応信頼出来る国としかしていないんだけど。」


「なるほど。その時にこちらの情報を流してしまっている…という事じゃな。」


「流石花王様。その通りです。実はこの野牛族の一件、その者が絡んでいる可能性がありましてね。」


「確かに『聖域』の存在は奴等にとって有益じゃな。『人』が聖域の存在に気付いたとしたら厄介じゃ。」


野牛族が守る聖域に、『人』が価値を見出してしまったのが事の発端のようだ。そしてそれは、呪い侵された獣人が情報元となってしまったと。


「そもそも聖域とは何なんだ?」


「霊力の溜り場。といえばわかり易いか?三大精霊様が作られた、この世界に幾つかある場所の一つだ。」


大隈さんが応えてくれた。うん。よくわからない。


「それが『人』に使われるとまずいと?」


「そこに溢れる霊力を、魔力に変えられてしまうのがまずいんだよ。」


呆れた顔付きで言われてもなぁ。


「つまり、じゃ。三大精霊様が生物界に干渉出来ぬようにされてしまうんじゃ。そうなれば世界は完全に『人』と悪魔に落ちてしまう。


『聖域』に、悪魔との『契約者』が踏み入るだけで、魔力に代わってしまうんじゃ。」


なるほど。って事は『聖域』は『人』の為にも働くって事か。


まぁ霊力も魔力も差して変わらないしな。


「じいさん……中々話せるじゃないか。」


「まぁ150年も生きとるしのぉ。」


お前この前100年って言ってたじゃねぇか!!適当かこのやろう。


ジジイとオヤジだし気が合うのかねぇ。このまま酒とか飲みに行きそうだ。


要するに、だ。純粋な戦力で劣る限り『人』は迂闊(うかつ)に獣人達を攻め入れない。


が、『聖域』をとってしまえば著しく獣人達の戦力を落とせてしまうし、しかも『人』の戦力は上がり、戦局はひっくり返る、と。

だからこそ『聖域』の存在を知った『人』は、多大な犠牲を覚悟して野牛族を攻めた。……可能性がある。


まるでオセロだ。精霊が作った霊力場が利用されるとなると、まぁ避けたいよな。


「ん?三大精霊は『干渉』出来るんだろ?じゃあ自分で守ればいいんじゃないか?」


「「……はぁ。」」


む。溜め息ついたなジジイ。お前もか大隈。


「……三大精霊様が仮に、じゃ。『人』に殺されたらどうなる?最悪なのは囚われる事じゃがな。」


「そんときはおれにまかせろー!!だからめしよこせー」


ははっ。うちの猫は前向きだ。飯を食いたいだけなんだろうけど。


そういえば飯を食う前だったっけ。確かにもうすぐに昼飯って時間だろうな。


「獣神様がこっちにいるなら大丈夫だろうけどさ!!でもナオトは『人』じゃん!!」


恐らく獣人側の意見なんだろうなぁ。たまちゃんが代表して言った感じだ。


「俺はしゃもじ……獣神には逆らわないよ。で、多分こいつは、今飯を食べたいぐらいにしか考えてない。」


しゃもじの背中を撫でながら言っておく。真ん丸の目で飯を要求するしゃもじはとてつもなくかわいい。


霊力圧縮袋に干し肉とか大量に入れておこう。この世界は栄養価とか考えずに済むのが楽だ。


「僕も正直、人の味方はしたくない……。」


レラが俯きながらボソッと声を漏らす。まぁ聞く限り『人』に苦しめられ続けたみたいだしな。そんなレラの頭も撫でながら、笑顔でたまちゃんを見る。


「……だってさ、たまちゃん。とりあえず、その呪われた獣人を探せば良いんだな?……レラ。左目使えるんじゃないか?」


「うん。多分『見える』と思う。……紅いから能力は使えないよ?どうなっちゃうかわかんないから。」


「ふふふ。……私は首都全体に耳を傾けましょう。情報があればお伝えしますね。たまちゃん。」


「……わかった。もし見つけられたら信用する!」


疑り深いなぁたまちゃん。どこか悔しそうな顔をしている。


まぁとにかく呪われた獣人を見つけない限りは話が進まない訳だ。


「護衛隊を総動員してそいつを探しているが、未だに見つからん。お前に出来るのか?」


大隈さんが訝しげな視線を俺に向けてきた。レラが居れば大丈夫だと思うが。


「どうやって探しているんだ?」


「直接的な聞き込みだ。心を呪われた者を探すのは外からじゃわからんから、それしか方法がない。」


…………。


貴方は呪われていますか?


ノー。私は呪われていません。


ってか?見付かる訳ねぇだろそんなの!!



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