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猫と杓子がやたら強い。  作者: しゃもじ派
食神と獣神と死神
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空間圧縮袋

「なるほどねぇ。それで霊都に来た訳かぁ。まりちゃんの意見聞かなきゃ!これ借りていって大丈夫?」


「良いけど…。」


「あはは。大丈夫だよ。もう君ら2人が害ないのは霊都中に知れ渡ってるから!さっきのは冗談!」


獣人に認められた証の腕輪。


そんなブレスレットを持って行かれて、変な因縁をつけられても堪らない。レラの懸念は当然と言えた。


たまちゃんから返って来た言葉は安心していいという保障。「信じて大丈夫か?」という疑問の目を四葉に向けると、静かに頷き


「たま様は、まり様の側近だよ。」


と応えてくれた。


それを聴いたたまちゃんは一瞬にこやかに微笑み、ドンっという音と共に、たった一足で城の頂点に飛んだ。


彼女が今まで立っていた地面を深く抉らせながら。……凄過ぎるぞウサギ。見た目は着ぐるみの少女なのに。


わざわざ王様の側近が何故俺等の道案内に来たか、は考える必要もない事だ。


俺とレラはあくまでも『人』で、警戒するべき相手。まして獣神の『契約者』と『愛されし子』だからな。


ジジイの話では北兎族は元々耳が良く、霊術によって更にその能力を強化しているようだ。


そしてその身体能力向上の霊術は脚力にも使われていて、高さ数十メートルにも及ぶ城への一足飛びを可能にしている。


「まぁ確かに直人が霊力を開放した時は私も驚いたよ。」


「確かに凄まじかったからのぉ。北兎族が警戒するのも無理ないじゃろう。」


霊術により強化された聴覚は、『目標の会話のみを捕捉する。』に留まるらしい。つまりは俺の周りの会話を聞いていただけ。全ての音を拾ったらただうるさいだけの能力だしな。


そしてここからかなり遠くにある九尾の里まで聴覚を伸ばす事が出来るのは、まりちゃんと呼ばれた王様のみ。


「まり様とは現獣王じゃ。正確にいえば『王女』なんじゃが、獣王は皆『王様』と呼ばれているからの。」


あぁ良かった。『マリオ』とかだったらちょっとショックを受けていた所だ。


塔のような城は要するに見張り台か。治安を守るという点では確かに獣王に向いている。


視覚の強化のほうが良いのでは?とも考えたが、見た目は簡単に変えられるし、仮に『革命軍』とかが居た場合、『見える』よりも『聴く』方が情報量が多い。


「さて。…ごめんね直人、レラ君。私ちょっと用事があるから。すぐ戻るね。」


と言い残して四葉が走り去っていった。神妙な顔付きをだったので、止められなかったが…少し心配だ。


俺等は何をしていようか。がむしゃらに野牛族への援軍を探すより、獣王様の意見を待った方が良さそうだし。…まぁ歩きながら観光でもしようかな。







俺としゃもじとレラが街を歩いていると、ひそひそと話す声がそこらから聞こえる。同時に恐怖・興味・嫌悪等の感情が混じった目に晒される事になった。


「居心地悪いな。」


「そろそろめしにするかーー」


いやさっきお前は変な物を食べていただろうが。それに…もうこの世界の飯屋には入りたくない。


「れらもはらへったよなーー」


「まぁ。うん。そうかも。」


「ほほ!観念して飯の準備をせねばかのぉ直人や。」


いやいやいやいや。流石にこの人通りの中料理は出来ないし、出来れば杓子も抜きたくない。


「じゃあ食材でも見に行ってみようか。ジジイ…さん。良い店知らないか?」


「食材なら、この先に『食品街』があるが…金持っとるのか?」


言われてみれば確かに金はない。さっきの団子屋はたまちゃんの驕りだったし。


「僕、ちょっとなら持ってるよ。」


子供の金を当てにしなきゃいけないのは気が引ける。そうだよな。金は大事だ。


「しかし金を稼ぐにしてもなぁ。そうそう旨い話が…」


「あるじゃろうが。ほれ。」


ジジイが指差した先で、しゃもじが尻を落として固まっていた。…あぁ。そうかなるほど。


「でーーーーたーーーー」


出たね。『精霊の欠片』だ。大樹曰く、これを売れば1000万だっけか?






木で出来た大きな看板に『よろずや』と書かれている店に行くと、


「悪いがうちにはそれを引き取れるような金はない。」


と言われてしまう。ならば…と物々交換の話を振ると、「そういう事なら何でも持っていって構わない。」食いついてきた。本当にどれだけの価値がついたんだ。糞なのに。


しゃもじが出した糞…基、『精霊の欠片』は今手元に4つ。首都滞在中の買い物には事欠かなそうだ。


よろずやに並べられた品々は、武器・防具・農作業具、食料等色々。中には尻尾の穴が空いていない『人』用の衣類などがあったりした。


「『人』との貿易品を扱うとはのぉ。高級店じゃなぁ。」


陳列された商品を、レラの肩から眺めながらジジイがぼやいている。


今の『人』の在り方に疑問を抱いている『人』もいれば、単純に商売として『金』がほしいだけの奴もいるのだろう。この世界は『人』も獣人も同じ通貨を使用しているらしいし、貿易ぐらいはする。


確執が深い間柄で、同じ通貨を使用するとは随分と変わった世界だ。何でも昔、世界が『獣世界』と『人世界』と海とで三分化されていなかった時の名残だそうだ。


とある商品が目に止まる。『空間圧縮袋』という40センチ×20センチ程の小さな袋だ。


天の精霊の『精霊の欠片』に霊力を込めて糸状にし、それを紡いだもの。青く輝く石のついた紐で縛られた青白い袋。その袋は異空間へと繋がっていて、かなりの量を収納できるという最高に便利な品だ。


価格も700万デル。だが原石の方がまだ高い。恐らくは原石があれば幾つかは作り出せるという事なんだろうな。


俺はその袋をもらい、レラは短剣をもらう。しゃもじには…何もない。飯は俺が作るし、おもちゃも霊力で作ることが出来るからな。


ちなみにジジイは腐葉土をもらっていたが…何に使うのかは聞かないでおこう。多分ベッドか何かだろうなぁ植物だし。



店を出て、食品街に向かおうとした所で、背後からドンっという大きな音が聞こえたと同時に


「まりちゃんが城まで来てくれってさ!」


と、たまちゃんの声がした。


四葉がまだ戻っていないが…まぁ少し話を聞いてもらうだけだし、このまま行くとしようか。



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