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猫と杓子がやたら強い。  作者: しゃもじ派
食神と獣神と死神
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四葉の契約

霊力で作った大きめの器にお湯を張り、無数の小さい穴を開けてシャワーにしてレラの体を流す。


うん。やはり綺麗にするとびっくりする程の美少年だ。左目は正直ちょっと不気味だが。


「ここでしたか。九尾様が呼んでいますよ。」


風華が呼びに来た……ってえぇ!?俺ら裸なんだけど!!


「ふうぅぅぅ。」


いやいやふうぅぅぅ。じゃないぞ大樹。お前の嫁が俺の裸を見てるんだ!


……いや。この世界ではこれが普通なのかもしれない。この里の男性はみんな上半身裸だし。


女性は毛皮みたいな服だったり、四葉や風華みたいに巫女さんみたいな服を着ているけど。


「…………あっ。」


顔を赤らめて目を逸らす風華。あっやっぱり普通じゃないんだ。


「ワカリマシタ。スグニイキマス。」


片言になりつつとりあえずそう返しておく。女性に裸を見られたのなんてしゃもじがうちに来て以来1回もないからな。くそう。


いや違う。モテない訳ではないんだ。ただしゃもじ中心の生活だからさ。女なんて別に…。


「お兄ちゃん……?」


「あははは。どうしたレラ。別に何も考えていないぞ。」


「ううん。ちょっと桃色の気配が見えたから。」


……桃色!?見られて興奮したとでも言うのか!?失礼な子供だなレラは。俺は露出狂ではないぞ断じて。確かに風華は四葉の母親だけあって妙に色気が…。


「お兄ちゃん……。」


呆れた顔するなレラ!その恐ろしい目を閉じろ!!


「なおとはすけべー。」


どこでそんな言葉を覚えたんだしゃもじ!!悪い子だな。


「なおとははだかのおんながす……」


「しゃもじ。お前飯抜きな。」


「やだーーーー。」


一人暮らしを良い事に、そこらに積まれた大人の本や映像資料をよくスンスンと嗅いでいたからなしゃもじは。…くそう。喋れる猫に欠点があったとは!!






風呂から上がって里の中央、皆が宴をやっているはずの広場に来ると、もう既にお開きとなっていて狐姿の業火、イケメン紅蓮、風華、四葉が待っていた。


あれ…九尾は?


「まずは礼を言おう。……無理矢理とはいえお前のおかげで八尾になれた。地亀様も、我が九尾を継ぐ事を承諾したしな。」


業火が偉そうに頭を下げる。確かに尾が9本になっていて、体の大きさも九尾に引けを取らない。


「あの料理は、霊力を上げるものではないのですね。」


紅蓮が俺に耳打ちをして来た。やはり杓子を使わない限り『霊力を上げる料理』にはならないらしい。実験は成功だな。


「直人あのね…!」


もじもじと四葉が俺に話しかけてきた。くそう。かわいい。


「私も連れて行ってください……!!」


横で留めた長い髪を垂らしながら、某テレビ番組の告白をしてきた四葉。


四葉の髪にはバレッタのような髪飾りがついていた。…似合うな。


「はぁ!!!!?」


と驚いた声を上げたのは俺じゃなく大樹だ。


「な、な、な、何を呆けた事を……」


「あなたは黙っていなさい。」


「うぐっっ。」


狼狽(ろうばい)する大樹に、ぴしゃりと風華が言い放ち大樹が押し黙る。どれだけ怖いんだろう風華が。


「ついて来るって…。行き先決まってないよ!?」


「何じゃと!?じゃあ儂と共に『王の種』を…」


「いや……『人』の世界に行って大丈夫なのか四葉?」


ジジイは無視だ。そういうのは誰かに頼ったらいけないものだろ?


「うん。一応耳と尻尾を見えなくする霊法はあるから。」


そうなのか。本当に万能だな霊力ってやつは。


「そして私もついていくの~~!!」


四葉の髪飾りから九尾の声が聞こえた。…マジか。


「四葉お前……!!!」


大樹が青い顔で四葉の肩を掴み、髪飾りを見つめると


「『契約』しちゃいました~~。」


と九尾の声が返す。


―――精霊契約。


精霊と霊力を交換する事で成り立つ儀式だそうだ。


契約が結ばれると


『契約者』は精霊の求める量の霊力を支払い


精霊は『契約者』が身につける道具に姿を変える。


これは紅蓮が使う『変化術』とは違い、契約によって成り立つ生物界への『干渉』の一種らしい。


『契約者』の霊力が充分にあれば、精霊の意思で自由に元の姿に戻る事が出来る。


焔は普段、大樹の上着の姿をしているが


大樹の霊力に余裕があるから自由に狐の姿になれるのはそういう事らしい。


「直人についていって、料理を食べ続ければ、四葉もすぐに私を『干渉』させる霊力が身に付くはずだもの~。」


俺が毎日料理を作るとは限らない…事はないな。


九尾の策通りなんだろう。四葉程の美女に頼まれて、断れる程恋愛経験を積んでいないからな。


まぁしゃもじも四葉に懐いているようだし、四葉自身もかなり強いからな。蜘蛛退治してくれたし。


断る理由がない。


「ところで…。そこの『人』の子は……?」


風華がレラを見ながら言う。やっとそこに触れたか。『人』が怖いんじゃないのかお前ら。


「どうやら野牛族(やぎゅうぞく)に認められているようですね。」


そう言いながら紅蓮がレラの右手を持ち上げると、青く輝く宝石を繋げたブレスレットがついている事に気付く。


「借りても良いですか?」


「うん…。」


紅蓮がブレスレットを持つと、ぽうっと青白い光が浮かぶ。霊法の光だ。


「……なるほど。では兄さん、風華、大樹。これに触れて下さい。」


言われるがまま業火と風華と大樹がブレスレットに触れると、やはり青白い光が浮かぶ。


そしてみるみるうちに、険しい顔付きになった。


…なんなんだ?


「レラくん…だったかな?詳しい話聞かせてくれるかな?出来れば、その目の事もね。」


「うん…。」


少しだけ頷いて、瞳に力強い光を宿しながら、レラはゆっくりと、故郷の事から語り始めた。



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