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猫と杓子がやたら強い。  作者: しゃもじ派
食神と獣神と死神
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愛されし子

紅くなった左目に戸惑っているレラの背中を押して、とりあえず里に向かうように促した。


すっかり暗くなった草原を歩く。月が2つあるお陰で足元に困るという事もないのでゆっくりと進んでいる。


「そういえばお兄ちゃんの霊力って?魔力じゃないの?」


少し落ち着いたレラが話かけてきた。


「魔力っていうのは、悪魔の力の事だろう?俺は悪魔と契約してないから。」


「え?じゃこの子は魔族じゃないの?」


しゃもじを指差しながら首を傾げるレラは、中々かわいい。身なりを整えたらすごい美少年になりそうだ。左目が紅い石と変わってるけど。


「おれはしゃもじだー」


「あっごめん。しゃもじって名前なんだよね。」


「しゃもじは精霊だよ。」


「精霊!?しゃもじが!?へぇぇ。絵本でしか見たことないけど、ほんとにいるんだぁ。」


絵本に出てくるのか。あぁ確かに前の世界の絵本……というより童話にも出てきたりしてたな。


悪魔と魔族。呼び方は違うが意味は一緒なのかな?『人』の場合、自分が頼っている相手を『悪』だなんて言いたくないのかな。


「精霊と契約しているから、『霊力』らしいよ。」


「らしい……?」


しまった。口が滑った。まだまだ慣れそうにないなぁ。


「まぁ色々あってさ!!ところでその左目は?」


「あ。え?お兄ちゃんは『人族』なのに知らないの?」


またまた失言か。こんな時にジジイは色々知っている分便利なんだけど。「記憶を失っている」は墓穴を掘るからあまり言いたくないんだよなぁ。


「えっと、この目は生まれつきで、『神の義眼』って呼ばれているの。石みたいだけど、ちゃんと見えるんだよ?すごく貴重な存在だってパパが言ってた。」


『神の義眼』か。そりゃまた大層な物を持って生まれたんだな。魂を奪っていたし、邪気が見えるとか言っていたけど……それが神?


まぁいいか。それよりこの世界でもお父さんをパパと呼ぶんだな。


「お父さんはどこに居るんだ?」


「……。」


口をつぐみ俯いてしまうレラ。何かあったのだろう。ボロボロの恰好が切実に物語っている。


「探しましたよ。直人さん。」


「紅蓮!迎えに来てくれたんですか?」


「えぇ。母が話があるとの事なので。……おや?ふっ。また可笑しな仲間が増えたのですか?」


レラを見た紅蓮が口元を綻ばせて言う。そういえば紅蓮は初めから『人』に対する警戒心がない。いつも爽やかでイケメンな雰囲気を醸している。……今は狐姿だが。


「紅蓮さん」と呼んだ時だけは、物凄い嫌そうな顔をしていた。『人』から敬られるのは不本意らしい。なので九尾も業火も焔も呼び捨てにしている。


……良く解らん。精霊の固有の風習のようなものだろうか?


後で聞いた話だが、紅蓮は大昔戦争が起きた時、『人』と契約した事があるらしい。


故に『人』に偏見がない。良い事だ。


「あ……あ……。」


紅蓮にスンスンと嗅がれているレラが怯えている。精霊とはいえ、『初対面はとりあえず嗅ぐ』という獣にありがちな行動は微笑ましく思う。


怯えさせる必要はないと思うが。


「大丈夫だよレラ。紅蓮は味方だ。」


「え……うん…………。」


慣れてもらうしかない。何なら俺だって戸惑いたいわ。


「まぁとにかく帰りましょう。宴も貴方の料理が無ければ始まりませんから。」


俺ゲストじゃなかったっけ!?あ……。そういえば里の住人に『霊力が上がる料理』の口止めしてない。


「そう心配なさらず。里の者には、『母が手向けにと里の者全員に霊力を分け与えた』という事にしておきましたから。」


顔に出ていたか。でかしたぞ九尾!『手向けに』って所が気になるがな。










紅蓮の転移霊術で里に戻ると、至る所に篝火(かがりび)が焚かれ、照らし出される食材と里の住人達の期待の眼差しを目視できた。


……おぅ。旅の料理人だしな俺は。そうとも。料理を作る為にこの世界に来たんだ!!


足鮪(あしまぐろ)を捕まえたのか……!?」


俺の霊力手で運んだ足鮪を見て大樹が驚いている。名前正解だった。足鰯がいるぐらいだしな。


このマグロは、見つけるのは簡単だが、とてつもなく素早く、捕まえるのが困難なのだそうだ。捕まえたのは俺じゃないけど。


「この子が捕まえた。ははっ。大樹より狩りの才能あるよなぁ?」


レラの紹介をしつつ、大樹に嫌味を言ってやった。すると唇を噛んだ大樹が無言で槍を持ち出し、狩りの行くと言い出した。


おい。もう夜だぞー?本気にするな!!……あーあ。行っちゃったよ。割りと子供っぽいな大樹。


でも大樹が何か獲ってくるなら、楽しみがあっていいな。この世界には駅前の魚屋さんがないから、見栄を張れないので大変だよな。


霊力手でマグロを調理しつつ、他の食材にも手をつける。杓子を使わない調理の実験だ。


霊力をまな板と包丁に型どり、霊力手で調理を進めて行く。便利だ。便利過ぎるぞこの世界。


色々と試したが、霊力手は4本動かすのが限界だと判明した。それ以上増やすと頭が追いつかず、動きがめちゃくちゃになってしまう。


緑の葉が丸まって出来たキャベツのようだが、頭の部分が白菜のように黄色くなって広がっている野菜。『丸菜(まるな)』というこの野菜はやはりキャベツと白菜の中間のような味としか形容出来ない。鍋物に活用する事にする。


紫色のぶつぶつとした長球の、見た目は茄子(なす)胡瓜(きゅうり)の合の子って感じの野菜は『球菜(たまな)』。これは歯触りが茄子で味は胡瓜だ。浅漬けにしようと思う。


他にごぼうのように細い大根に、にんじんのように赤いじゃがいもなど。……めんどくさい。


「くちゃーい!!!」


しゃもじが匂いを嗅いで悶えている真ん丸の黒い物体は、レモンのような柑橘類だ。猫は柑橘の香りが苦手だからな。


「お主…更に化け物めいてきおったな。」


妖怪に言われたくねぇな!!


ジジイが俺を見てそう言った理由は、恐らく俺の霊力が見えないからだろう。


俺の周りで浮いている食材が、独りでに切れて、焼けて、皿に盛り付けられているように見えるはずだ。


「お兄ちゃん……僕は何をすれば良い?」


「ひょ!?ひょひょひょ!?」


レラが俺に近付いて来たのを見たジジイが、奇声をあげて驚いている。気持ち悪い驚き方しやがって。すりおろしてやろうかな。


「……『愛されし子』かいな!?」


「あ……?え……?花がしゃべっっ……!?」


そうだ。これがかわいい驚き方ってやつだ!目を見開き、片手で口を抑えて、空いた口を隠している。ジジイがやったら気持ち悪いだけだがな。


「レラ。これが終わったら一緒に風呂に入ろう。ちょっとしゃもじと遊んでてくれ。」


「うん。わかった。」


「しかたないからあそんでやるかー。」


素直なレラを見習いなさいしゃもじ。お前が遊んでもらう側だからな。


「ジジイ…さん。妖法とやらで小屋みたいなの作れるか?」


「まぁ可能じゃが。何をするんじゃ?『ふろ』とは何じゃ?」


風呂を知らないか。確かにこの里にないし、植物妖怪は水溜まりで充分だろうからな。


まぁいい。料理ももうすぐ出来るし、後でゆっくり話そう。


『愛されし子』の事も聞きたいしな。



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