※青年アシベル
サブタイトルに※がついたのは別視点です。
修正しました。
俺の名前はアシベル・グラン。
女帝テレサ様が統べるテレサ帝国で生まれた。初代のテレサ様は200年前の『人獣対戦』の功労者で、契約魔は対象を石化させる魔法が得意なメデューサ。髪の毛の代わりに大量の蛇が生えているらしい。ちょっと気持ち悪いよな!
城には入った事はないけど、城門を潜った所に『人獣対戦』の時の戦利品、1000体の石化した獣人が並べられているらしい。恐ろしいよな!
俺は生まれつき高い魔力を持っていたおかげで、5歳の時に『魔法学園』に入学。6歳の頃には『天才』と呼ばれていた。
『魔法学園』では、魔法を放つ為の『詠唱』や簡単な道具等を呼び出す『召喚』の他に、歴史やこの世界に関する事も教わる。
例えば
・俺等の住むこの世界『プレート』は、平べったい地面が長い年月をかけて球体になったとか。
・獣人が巣食う領地を奪う為の『人獣対戦』により、獣人や魔物達が巣食う『ブルーグラス平原』と、人々が暮らす『グリーングラス平原』と、海で、分けられた世界だとか。って言っても『グリーングラス平原』にもまだまだ魔物は住んでるし、『ブルーグラス平原』には魔物が多すぎて人は住めないらしい。
・ブルーグラス平原に足を踏み入れる為には、『人獣対戦』跡地である『ブラックデザート』と呼ばれる、黒い砂漠を越えなければならないとか。
そこ以外は魔物が蔓延る海だからな。海の魔物はマジで厄介。人は船の上でしか戦えないし。
・精霊とか魔族とか曖昧な存在がいるとか。
・強くなる為には魔族との契約が必要だとか。
まぁ色々教わったけどあんまり覚えてねぇ!筆記テストは万年最下位だからな!!
まぁでも『魔法学園』では実技が大事だ。生徒の中でも圧倒的な魔力を持っていた俺は、学園長から魔法陣が描かれた布を渡される。
『魔法学園』主席卒業生にのみがもらえる『契約魔の儀式魔法陣』。
「帝国の為、人の為のみ力を使う事を願う。」
そんな学園長の言葉を聞きながら、主席卒業生の『契約儀式』が卒業式となる。
父が帝国騎士だったお陰で、俺も成人したら帝国兵士になろうと思い、日々魔法や剣の腕を磨いていたから、俺の力は帝国の為に使うと決めていた。
儀式は正常に執り行われ、俺が『契約者』になったのは12歳の時だ。
炎が燃え上がるように赤く、肩まで伸びた長い髪の間から、同じ色の角が一本正面に突き出た人型の魔族。でっけえ体は赤い毛で覆われていて、猿に近い顔をしている『ベリアル』。
学園長ら教師陣も「まさか魔王子従属の上位クラスが出てくるとは!?」と驚いていた。
俺は最強だ。そう思ったね。
だってそうだろ?魔法が使える程の魔力を持って生まれてくる子供は1万人に1人って言われてるし、その中で『契約魔』を持つ『魔導師』になれるのは更に1万人に1人なんだぜ?
で、その『契約魔』も上位クラス。
俺は選ばれし者だとしか考えられないよな。
ただ『契約者』には禁忌があった。それは『命魔契約』をしてはいけないという内容。つまり、自分の寿命を引き換えに魔力を借りるなって事だ。それをしてしまうと、魔族に身体を乗っ取られるらしい。
別に俺の魔力だけでも強力な魔法は使えるし、そもそも『従属契約』だから魔族の魔力は自由に使えるし?そんなんする訳ねぇよ。ってこの時は思ってた。
まぁ最強である俺とはいえ、帝国の決まりで成人するまで帝国騎士にはなれないから、18歳になるまでの間は、『ギルド』と呼ばれる職業斡旋所で金を稼ぐ事にしたんだ。
職業斡旋所とはいえほぼ日雇いで、例えば『近くの山に出没するストレイシープの討伐』とか。これを引き受けると、ストレイシープ一頭につき5万デル貰えるとかね。
最強の俺には魔物の討伐とか持ってこいな金稼ぎだよ。あぁちなみにストレイシープは楽勝に殺せた。ストレイシープは山に入った人を迷わせてしまうってだけの羊だから、俺の得意魔法“スパイラルツイスト”で一発だ。
40頭分のストレイシープを狩って、証拠品であるツノをギルドに提出し200万デルを得る。
200万デルだぜ?200万デル!!たった1日、これだけで父の2年分の給料と同額だ。魔導師様々なちょろい世の中だよな。
本当ならギルドカードっていう会員カードのレベルがAにならなきゃ受けられない依頼も、魔導師なら免除!調子に乗った俺は次々に魔物を狩って金を稼いでいた。
ある時はさ、『ミノタウロス殲滅』っていう帝国騎士団からの依頼があったりしてさ。ミノタウロスってのは牛面の体が無駄にデカイ獣人な?
何でも帝国騎士団が新たに屯所を構えたいけど、ミノタウロスが邪魔をしてくるもんだから、巣ごと殲滅しようって話だ。
いざ帝国騎士団と共にミノタウロスの巣に行ったらさ、それが結構強いんだわ。順調に“スパイラルツイスト”で炎の槍をミノタウロスの頭に貫通させてたら、たまに防ぐ奴とか出てくるし。
まぁそんな奴は“イグニートフレア”で、消し炭にしてやったけど。“イグニートフレア”は放つと、対象を燃やし尽くすまで消えない炎に包まれるって魔法なんだけど、燃え尽きるまでの断末魔がうるさいし、涎とか垂らしまくりでさ。
姿形は人に近いのが獣人だけど、やっぱ魔物なんだなって思った。
巣の地下にメスや子供を隠してたようだけど直ぐに見つけて殲滅。あ、一頭だけまともな見た目のメスが居たから、それは俺の奴隷にした。牛の獣人だけあって乳がでけぇんだよ。顔も人に近い奴を選んだけど、まぁ不細工には変わらないんだけどな。
奴隷が逆らわないように、背中に『隷属の魔法陣』を刻み込むんだけど、本当なら魔物屋行って10万デルぐらい払わなきゃいけない。けど俺は自分で出来るからタダ。
そんな感じで着々と奴隷と金を増やしていった。
で、17歳になった先日の話だ。ギルドに『バラゴクの山消失の詳細調査』ってのがあってさ、レポート提出するだけで300万デルって言うから受けたんだよ。バラゴクの山はブラックデザートの中にあるから、『魔導師』以外は引き受けられない。何故?そりゃ普通の剣士とかが言っても死ねだけだからだろ?
テレサ帝国から見える大きな山が……っても100キロぐらいは離れてんけど。
それが夜中の内にでっけえ音を立てて消えちまったんだよ。
バラゴクっていう蜘蛛の魔族の巣らしくて、玉子が魔道具生成の材料になるから、無くなると困るし、何か良からぬ事が起きてんじゃねぇかって教会の連中が心配しているらしい。
って訳で出発。これが人生の分岐点になるとは思わなかったよ。
ブラックデザートに踏み込んでちょっとしたら『ヘルスコーピオン』っていう大型のサソリの魔物に襲われてさ。油断してたんだよね。俺なら楽勝だと思って近寄り過ぎた。
“スパイラルツイスト”も“イグニートフレア”も全く効かねぇんだよ。召喚魔法で大剣『クレイモア』を出して、何とか二匹ぐらいは倒したんだけど、50匹ぐらいに囲まれちゃってさ。ついつい使っちゃったんだよね『命魔契約』。
そもそも『命魔契約』ってのはさ、安定したモンじゃねぇんだわ。人の命を代償にして魔神の道具を引き出す『魔具召喚』が出来るようになるんだけど、何が出るかはわからない。まぁこの時は『魔神の槍』が出てくれて、ヘルスコーピオンの大群は一瞬にして塵になったからラッキーだった。まぁ『魔具』は一度使うと消えちゃうんだけどな。
『命魔契約』を使ってからすげぇハイになっちゃって、バラゴクの山に到着した時にも『魔具召喚』しまくっちゃってさ。ベリアルも腹減ったっていうからバラゴクを全部食わせたんだ。
それでも何か殺し足りないからさ、魔物の巣を殲滅させようと思って、ブルーグラス平原に入ったんだ。
真っ青な草原がすげぇ不気味でさ。それでもハイになってたからガンガン進んでたら獣人を見つけたんだよ。すぐに拷問かけて巣を吐かせた後はベリアルの胃袋行き。
念の為魔力を極限まで抑えて、気配を察知されないようにして、情報を頼りに獣人の巣に着いたらもう既に人が戦っててさ。先越されたかって思ったのは一瞬だった。魔物と仲良く喋ってやがったから間違いなく敵だろ。両脇に獣人連れているしな。
「んだよ!折角魔力消して来たのによぉ!」
そんな言葉が口から漏れた。だってここにいる奴等全員俺より圧倒的に魔力低いし。ベリアル様々だぜ。
「『人』の『契約者』か……!?」
モンスターが喋りやがったのには驚いた。まぁ未踏のブルーグラス平原だしな。そんな事もあるだろうさ。
「何の用だ『人』!!」
今度はむきむきの獣人が喧嘩売ってきたから
「はっ!!何の用……?『肉』が口を聞くのが気に入らねぇから狩りに来たんだよぉぉ。」
と喧嘩を買ってやった。すぐにこいつら皆ベリアルの腹に収まっちまうからな。そんな事より。
「つーかテメエは誰だぁ?俺と同じ種族が何仲良くモンスターと話してんだよ!?」
そうだ。獣人の巣に変な格好で立っている人族の男。こいつの意味がわからねぇ。ここはブルーグラス平原だ。人族が居るわけが無い。
「俺の勝手だろ?お前こそ誰だよ。」
返された言葉にイラっとした。虫けら程の魔力もねぇくせに。そうしたら男が『契約魔』を呼んだ。「おいで。しゃもじ。」って何だよ!!聞いた事ねぇそんな魔族!!
「は……?ギャハ!!何だそのチンケで汚ねぇ悪魔は!!それじゃベリアルの腹の足しになんねぇが……テメエは殺す。」
この言葉を発した後を俺はよく覚えていない。追い詰められるまで一瞬だった。『魔具召喚』も出来ないままベリアルは男の持つ長い剣に切り裂かれ
「3つ目。しゃもじに害を為すモノは、何であろうと……殺す!!」
そんな言葉を聞いた時には、男の剣は俺の喉元を切り裂こうとしていた。
『契約魔』を殺されて、反動で体は言う事を聞かない。
俺は必死に命乞いをした。
でも獣人は俺を殺す気だった。終わりか……と諦めかけた時、
「……俺は反対だ。殺す事はないだろ。」
男がそう言ったんだ。
甘っちょろい奴だよな。俺なら確実に殺してるよ。生かして置いたら復讐とかダルイし。
しかもその後獣人達は縄を解いてくれた。
「悪魔との契約は切れたんだ。後は帰るなり、野垂れ死ぬなり好きにしろ。」
だってさ。しかも飯まで出してくれた。その飯が最高に美味かったんだ。
俺は涙を流しながら食った。食って食って食いまくった。食う度に心が洗われる気がしたんだ。
食い終わった後、魔力が回復しているのが解かった。多分ここで採れる食材は多くの魔力を宿しているんだろう。これで『契約魔』がいなくても何とか帰るぐらいは出来る。
男の名前は『ナオト』というらしい。変な名前だ。
けどこのすげぇ美味い飯を作ったのもナオトだと聞いた。俺はナオトをアニキと呼ぶ事に決めた。
師匠とか先生とかでも良かったけど、アニキが一番しっくり来た。なんとなく接しやすい雰囲気があったしな。
今まで俺が殺してきた獣人は、ここの連中みたいに悪い奴等じゃなかったのかもしれない。
先入観で恐ろしく沢山殺した。魔物もだ。
「この事実を人々に伝える義務がある。」
一晩寝ずに考え抜いた結果、俺はそんな使命感に駆られた。虫が良い話だが、例え俺が自殺したとしても、殺した者は還らない。
魔物の巣……、いや獣人達の里を出る前に、アニキに挨拶していこうと思い、俺は歩き出した。
とにかくお礼が言いたい!俺が変われた事を伝えたい!!
暴走する気持ちを抑えながら俺はアニキが寝ているという部屋の前に着き、ノックした。
とんとんっ
…………………へんじがない。いないのか?
とんとんとんとんっ
「なんだこらーーー!!!」
すげぇ高い声が聞こえたぞ!?
まさかお楽しみの邪魔をしてしまったか!?そりゃそうだ。アニキ程のお人がモテない訳がないからな。
…………………。
とんとんっ
「アニキ…?」
「おれはしゃもじだぁぁぁぁ!」
あぁ。契約魔か。って事はアニキは中に居るんだな。
契約魔を常に出して置くとは。アニキの魔力量は半端じゃねぇな!!
ドンドンドンドンッ
「アニキ……!アニキ!起きて下さいアニキ!」