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猫と杓子がやたら強い。  作者: しゃもじ派
食の神 プウ
22/77

転移

「お母様…もう水竜様はいないの。獣神様が倒してくれた。」


四葉が腕の中のしゃもじを見せると、女性は目を丸くして驚く。大概皆同じ反応だ。まぁうちのしゃもじは最高にかわいいからな。


「あそこで『人』に刀を突きつけている『人』は、直人。獣神様の『契約者』だよ。」


なんて最悪な紹介だ四葉!!良い印象を持たれる訳がない状況だぞこれ!!そんな予想に反して女性は俺に優しい笑顔をくれた。


「先ほどの一部始終を『展望台』より見ておりました。あなたは…悪い『人』ではないのですね。」


女性は展望台を視線で示す。ただ少し大きな極普通の木にしか見えないが…確かに上の方に板が張られているのが確認できるな。


「不思議な『人』。『人』なのに精霊と獣人と妖精を連れているだなんて。」


とりあえず軽く頭を下げておく。だがジジイは妖怪だしモンスターだぞ?なぁチンピラ?…視線を移すとチンピラはボーっと女性を見ていた。こいつ…まさか熟女好きか!?熟女というには見た目若すぎる気がするけどな。


「大樹の奥方かの?ほう…四葉に良く似ておる。間違いなく水竜は討たれたぞい!妖精は嘘はつかんよ。」


「えぇ。獣神様がいらっしゃるのなら、そうなのでしょう。……今夜は宴ね。里の女衆は忙しくなるわ。里長!!!!!!いつまで呆けているのです!!!!」


今までと打って変わって怒号のような声を里長に向ける女性。うわわ。怖い。


「こいつはどうするんだ?そろそろ腕がつらいんだが。」


杓子自体には然程重量はないが、伸ばした腕をそのまま動かさずにいるのは疲れる。誰でも良いから、いい加減縛る物とか持ってきて欲しい。


「妖法【蔓のつるのまい】」


ジジイの手の平から緑色のツルが3本出て、手、足、口を縛る。……ジジイこのやろう。最初からやれよ。


「儂より霊力の低い者には絶対に切れないツルじゃ。これで一先ず逃げられないじゃろ?」


杓子を元の形に戻して鞘に入れる。妖法って……完全に妖怪じゃねぇかジジイ。【蔓の舞】とかちょっとカッコイイし。


「いや……誠に失礼致した。水竜を屠っただけでなく、悪魔からも里を守って戴けるとは……。」


里長はぎこちなく言葉を発する。別に守った訳じゃないけど、まぁ言わない方が良いな。


「皆!宴の準備だ!恩人をもてなすぞ!!」


「「「お、おー!」」」


里の男達はいまいち納得していない様子。まぁ水竜の詳細は自分で確認出来ていないからな。悪魔を倒した時点でかなり信憑性は稼げたみたいだけど。


「本当にありがとうございます。……九尾様が礼を言いたいと仰っておりますが、恐縮ですが、ご足労願えますか?」


四葉の母が耳をピクッピクッっと動かしながら言ってきた。……念話ねんわか何かだろうか?電話は持ってそうにないし。


「めしくれるならいくー」


「なおともー?」


しゃもじも耳を動かしながら一人で喋っている。何故俺には聞こえない!?


「……まさか念話を占拠されるだなんて。流石獣神様……。」


四葉の母が目を丸くしながらしゃもじを見ている。電波ジャックみたいな!?何やってんだあいつ!!やがてしゃもじが四葉の腕から飛び降りて、俺の足下に来た。


「めしくれるからいくぞー!」


「お…おぅ。行くけど、どこに居るんだ?」


里は入り口の門からギリギリ見回せる程の周囲しかないし、九尾が居そうな建物や洞窟はない。


「どこだー?」


いや知らないよ。俺は視線を女性に送ると、にっこりと微笑んで手の平を天に向ける。


「ご案内します。四葉も同行させて戴きますね。…………あなたもよ。」


「あなたもよ。」の部分がとてつもなく太く低い声になった。大樹はそれを聞いてコクコクと何度も頷く。…なんか……がんばれ。


実は門の罠の問題が全く解決していない。今俺が通ると大量の狐火に襲われる事になる。…まぁ問題ないだろうけど。里の男達の霊法は全く効かなかったし。でも気分は良くない。


という訳で、この場所から直接『転移』すると四葉の母は言う。…『転移霊法』か。夢が広がるが、運動不足になりそうだ。


――矮小なる我の霊力を糧に九尾の名の根源たるその力の片鱗を貸し与えよ――


――移転・携送(けいそう)――


――「直人様」「獣神様」「大樹」「四葉」――


四葉の母が詠唱すると、名前を呼ばれた順に足元が光り、同時に柱となり包まれる。さっきの悪魔の時も同じような感じだった。あれは転移『魔法』か。…まぁ似たようなもんだろう。


目の前の白い光りが治まると、見えてきたのは土壁。単に山を掘った、という形の洞窟の中のような空間だが、天井には幾つか火が灯っているので明るい。火は奥に進むに連れて明るくなっていき、土を盛られた高台の上に丸まっている大きな毛玉を視認する事が出来た。


近付いてみると毛玉の中心に顔がある事に気付く。台から垂れ下がる9本の尾。立ち上がれば全長10メートルは軽く超えそうな体躯。……九尾だ。煌々と揺らめく明かりがその全貌を映していた。


「九尾様。お連れ致しました。」


いやいやわざわざ声をかけなくても分かるだろう。別に忍び足できたわけでもないのに。…というツッコミはきっと無粋なんだろうな。


「ようこそ。九尾の里へ。この里に巣食う脅威、水竜の討伐及び、『人』急襲の阻止。返し切れない程の御恩を戴きまして、里を代表し御礼申し上げます。」


大きな口を少しだけ空けて発した声は以外にも小さく、高い声だ。ハスキーな女性の声と言えばいいだろうか。


「いいからめしー。」


こら!!空気を読みなさいしゃもじ!!俺は慌ててしゃもじを抱き上げるが、やたらと暴れる。


「はなせーーー。」


「礼には及びませんよ。ただ俺等はそこに居た敵を屠ったまでですから。」


暴れるしゃもじをなんとか抑えながら答えると、四葉が助けに来てくれた。……いや待て!四葉がしゃもじの猫パンチを食らったら上半身が吹っ飛ぶ……事はなかった。四葉に抱かれたら急に大人しくなりやがって。胸か!?コノヤロウ!!お前も所詮はオスなのかコノヤロウ!!!!



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