表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫と杓子がやたら強い。  作者: しゃもじ派
食の神 プウ
21/77

母親

……冷静になって考えてみるとまだしゃもじに害を為してないなこいつ。それ程強くないし。完全に頭に血が昇ってしまった。


どうしよう引っ込み付かないんだけど。しゃもじをバカにした……けど当然殺す程じゃない。


「ま、待ってくれよ!そうだ!アンタに俺が集めたコレクションをやるよ!!そ、それで見逃してくれ!?」


こいつの中で俺はテメエからアンタに昇格した……のか?


「コレクション……?」


俺が首を傾けて怪訝な顔をすると、何を勘違いしたのかパァっとチンピラの表情が明るくなり、答える。


「そうだ!俺の奴隷女コレクションからどれでも選んで良い!!好きなのを持って行け!」


……本物の下種だ。やはり力を持つ程に下種に落ちる種族が『人』か。俺が眉を寄せると、焦ったように続けるチンピラ。何故お前と義兄弟の契りを交わさなければならないんだ!!!断固断る!!


「2人……いや3人、5人までいいぞ!?」


何人居るんだよ……。俺はふと大樹、四葉、ジジイに視線を移すと3人共しゃもじの狐火を見た時と同じように絶句していた。その後ろの里の大衆も同じだ。


「めしじゃないのかなおとー?よつはがくれるのかー?」


あぁごめんね。本当は特大狐火を放つつもりだったんだけど……。とととと、っとしゃもじは四葉の下に走っていくと、期待はずれな事に抱き上げられてしまっていた。


「本当にとんでもない奴じゃな。悪魔を倒しよった。」


あぁそっちに驚いているのか。四葉だけは苦い顔をしている所を見ると、チンピラの悪趣味に引いているんだろうな。悪魔を倒す…か。前の世界の映画とかでは確かにとんでもない事だった。


ジジイが俺の肩に乗る。そういえば俺の肩に乗ったのは初めてだな。


「こいつ、どうする?」


「部外者の儂等が決める事じゃなかろうよ。まぁ契約悪魔がいなくなったからもう無害だろうが。……大樹!どうするんじゃ!?」


「……はい…。『人』は処刑するという決め事があります。」


大樹の喋りがゆっくりと冷淡だ。確かに生かして置けば同じ事を繰り返す可能性は高い。散々すすって来たであろう甘い蜜からは、逃れられないハズだ……でも。


「ちょっ!?ちょっと待ってくれよぉ!!」


泣きそうになりながらチンピラは必死に叫ぶ。さっきまでの威勢が嘘のようだ。


「……俺は反対だ。殺す事はないだろ。」


そんな後味の悪い事はない。こいつを無力化したのは俺だし。


「こいつは今まで大量の命を奪っておるぞ?それでも貴様はかばうのか?」


大樹が諭すように言う。その通りだ。「今まで命乞いに耳を貸した事があったか?」とチンピラに質問した所で、答えは容易に想像出来てしまう。正直俺も罪を犯した『人』は等価によって償うべきだと考えている節をある。だけど。悪魔にそうさせられていた可能性だってあるんだろう?


「じゃあ聞くが、こいつの無力化はお前等だけで出来たか?」


「うぐっ!?」


「…そりゃあ無理じゃろうなぁ。良くて相打ちが精一杯じゃな。」


痛い所を突かれたといった表情の大樹を見て、ジジイが代わりに答える。なんとなく察してはいたがやはりそうなのか。確か魔王子従属の上級悪魔だっけ?名前はかなり強そうだもんな。


「心を入れ替えるからよぉぉ!!助けてくれよぉぉぉ!!」


ついに泣き出してしまったチンピラは無視しよう。明らかに悪人が隙を狙う為に発する言葉だ。


四葉はただただ呆然としながら、胸の位置で丸くなって寝ているしゃもじを抱いている。俺も猫になりたい…と今思うのは不謹慎だな。


「あなた。四葉。」


里の門から落ち着いた女性の声が聞こえた。門に視線を移すと、ただ呆然と立ち尽くす里の男達を掻き分けて、前に出てきた一人の壮年の女性。一目で母親なのだろうと推測出来る程、四葉に良く似た声と顔。ただ髪の色は黒がかかった茶色で、四葉よりも背がかなり低い。おそらく150センチないぐらいだろう。四葉の白い着物とは違い、白衣に黄色の(はかま)といった格好だ。神社の巫女さんの格好に似ているが、確か巫女さんは赤だった気がする。


「風華…!?」「お母様!!」と四葉と大樹が同時に叫ぶ。四葉はどこか嬉しそうな声だが、大樹は怯えたような声だ。


大樹…そんなに怖いのかこの女性が。前の世界では壮年の美人女性を『美魔女』と呼んでいたが…まさか本当に魔女と呼ばれるに相応しい怖さがあるのか…!?


「里の守護者であるあなたが、里を飛び出して良いと思っているのかしら?」


ゆっくりと笑顔で話してはいるが…目が笑っていない!!ゴゴゴゴゴ…とか聞こえてきそうな殺気なんだけど!!大樹を見るとだらだらと汗を流していた。悪魔襲来より焦ってるじゃないか!!


「四葉…あなたはここで何をしているのかしら?」


母親なのに娘が助かった事を喜ばないのか?だとしたら好きになれないが…いや大樹と違ってゴゴゴゴゴがないな。女性はゆっくりと四葉に近づいて…涙を浮かべて髪を撫でた。


「この里は直に水竜様のお怒りによって滅ぼされてしまうわ。……でも……おかえりなさい。」


「お母様……。」


う~ん。感動シーンに悪いが、また水竜の(くだり)を話すと思うと少しげんなりするぞ?ジジイにでも説明させるか。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ