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猫と杓子がやたら強い。  作者: しゃもじ派
食の神 プウ
20/77

急襲


老人の周りに野球ボール程の大きさの青白い光の玉が無数に浮かぶ。――狐火――だ。


あれ?詠唱していないぞ?四葉いわく大樹以外『契約者』はいないはずなのに。……霊具の効果か?便利じゃないか。


「焼かれ死ねぃ『人』め!!」


老人が杖を振りかざすと、浮かんでいた光の玉が一斉に俺に襲いかかる。……が、俺の10センチ程前で見えない壁に阻まれたかのように弾けて消える。


うわぁ。霊力を感じないから大丈夫だと解っていても凄い怖い。


「なん……だと……?」


流行ってるのかそれ!?

老人の後ろの大勢がざわっとして焦っているのが解る。


「怯むな!!皆で一斉にやるぞ!!」


――矮小なる我の霊力を糧に九尾の名の根源たるその力の片鱗を貸し与えよ――


「もうやめて下さい!!」


――狐火――


四葉の叫びもむなしく20人同時の霊法が発動する。老人の霊法と相まって、数百の狐火が俺を襲う。


人によって形が異なり、ピンポン玉サイズだったり、ラグビーボールのように長球だったり、と面白い。……そんな場合じゃないけどな。


やはり俺の前で見えない壁に阻まれたかのように全て弾ける。霊法が弾ける瞬間は線香花火のようで綺麗だ。


俺は狐火を弾かせながら、両手を上げ、ゆっくりと老人に近付き、杖を掴んで、出来る限り静かに言葉を発した。


「やめろ。害意はない。」


「く……。九尾様……。」


呟く老人の目は諦めの光に侵されてかけた。その時だ。


「あれれぇぇ?先を越されたかぁぁ?」


若いチンピラ風な男の声が耳につく。


「んだよ!折角魔力消して来たのによぉ!」


俺等が今いる場所は九尾の里の門の手前、門の前には里の男達が立ちはだかっていて、後方は地平線さえ見える草原が広がる土地。


何もないハズの後方から突如現れた、耳も尾もない、少しだけ青白い顔色をしている『人』。短い銀髪を立て、耳には肌が見えなくなる程のピアスが下がっていて、頬はこけている。レザースーツを素肌に着ているが、青白い肌の痩せた男なので、お世辞にも似合うとは言えない。


パンツのポケットに親指だけを突っ込み、他の指はだらしなく脚に伸びて、膝を菱形に開いている。昭和のチンピラ、といった感じだろうか。


「『人』の『契約者』か……!?」


何故解るんだジジイ。普通の『人』と何か違う所があるのかな?


「何の用だ『人』!!」


大樹の顔が鋭くなり殺気がこもる。俺と初めて対峙した時もこんな表情だった。里の獣人達は……状況に追い付けていないな。


「はっ!!何の用……?『肉』が口を聞くのが気に入らねぇから狩りに来たんだよぉぉ。」


にやぁと口を歪ませるチンピラ。邪悪な笑みとセリフが良く似合う。『肉』とはまた調子に乗っているな。


「あれがお前らのいう『人』か?あんなのばっかじゃないぞ『人』は。」

……この世界では解らない、がな。


「解っておるわい。儂等がいう『人』とは、『魔導師』を指すんじゃ!……まさかお主…あの魔力も感じんのか……!?」


魔導師…魔法使いの事だろうな。つまり『契約者』か。魔力は感じないなぁ。(いき)がったガキが大人数十人に喧嘩を売っているようにしか見えない。


「つーかテメエは誰だぁ?俺と同じ種族が何仲良くモンスターと話してんだよ!?」


俺を指差して俺の全身を舐めるように見回すチンピラ。モンスターだってさジジイ。まぁ……見えなくもないけど、モンスターにしては小さ過ぎないか?


「俺の勝手だろ?お前こそ誰だよ。」


チンピラの眉がイラついた様子でピクッと動く。


「はぁぁ!?なんだテメエその態度は!!虫けら程の魔力もねぇくせによぉぉ!!」


あいつも俺の霊力を感じないのか。魔力だから?……いや違うな。


気が短過ぎるチンピラの下種げすな笑みを見るからに悪人だ。というより、悪魔との契約の為に残酷な性格になってしまっているのか?


大樹と四葉を見ると、頬から汗が滴っている。毅然とした態度だが、恐らくチンピラは強いと解っているのだろう。


「しゃもじ。おいで。」


「めしかー?」


緊張感の無い奴だ。最近「なんだー?」か「めしかー?」しか聞いてない気がする。


「は……?ギャハ!!何だそのチンケで汚ねぇ悪魔は!!それじゃベリアルの腹の足しになんねぇが……テメエは殺す。」


「ベリアルじゃと!?魔王子従属上位悪魔か……!?」


「モンスターのくせに良く知ってるじゃねぇかぁ!正解だぜぇぇ。テメエ等はもう全員死んだんだよぉぉ!」


両手で拳を作り、腰に当てて、気を練るような格好をしているチンピラ。それに対し、「くっ……。何て魔力……。」と言いながら防御の体制を取る大樹と四葉。


だが、俺は何も見えない、感じないので、児戯じぎにしか見えない。後ろの大衆は完全にこの状況から置き去りにされている。いやそれよりも。


「なんだぁ?メスが居るじゃねぇか。テメエは少しだけ長生きさせてや……」


言葉を止めるチンピラ。


――鮪包丁まぐろぼうちょう。巨大な鮪を切る事に特化した非常に長い包丁。ほぼ反射的、というように変化した杓子の1メートル半にも及ぶ刃の鋒が、チンピラの首を切り裂こうとするが、紙一重で止まる。


「2つ……忠告しようか?」


自分でも驚く程に冷淡で低い声を発し、チンピラを睨み付ける。何が起きたか、を数秒遅れで理解したチンピラの頬から汗が滴る。


「ベリアル!!」

チンピラが悪魔の名前を叫ぶと、隣の地面に魔方陣のような模様が紅い光と共に浮かび上がり、その光が柱のように天に伸びたと思ったとほぼ同時に、ベリアルと呼ばれている悪魔が現れた。


炎が燃え上がるような赤く、肩まで伸びた長い髪の間から、同じ色の角が一本正面に突き出た人型の悪魔。およそ3メートル程の体躯は引き締まり、肩から下、腰から下は赤い体毛で覆われていて、猿に近い顔をしていて、手には蛇が三匹絡み合ったような造型の三又銛さすまたを握っている。


無言無表情で三又銛で俺を突き刺そうとするが、俺の霊力の壁から先が通らない。それでも尚、何度も何度も突き刺そうとしてくる。ガキンガキン、という金属音がこだまする。


「1つ目。しゃもじは悪魔じゃない。俺に笑う事を教えてくれた天使……だ!!!」


鮪包丁をチンピラから引き、そのまま腰を落としてベリアルを斜めに切り上げる。


「ひゃは!バカめ!!悪魔に物理攻撃が効くわけねぇだろうがぁぁ!!」


「……バカはお前だ。忠告が3つになった。」


ベリアルは変わらず俺に攻撃を加えようとしているが……ようやく胴体が斜めにズレていくのに気がついたようだ。


「ガ!?ガガガァァァァァ!!!」


木製の床に置いた椅子を引いた様な断末魔だんまつまだな。ただ音の大きさは比べ物にならず、耳の痛さで顔が少しだけ歪む。ベリアルはそのまま空気中に霧散していく。


「2つ目。これは膨大な霊力を蓄えた霊具だ。」


「クソがっっ!!《スパイラルファイヤー》!!」


恐らく魔法を放とうとしたのだろう。……が、源たる悪魔が居ない今、具現化される訳もない。


「3つ目。しゃもじに害を為すモノは、何であろうと……殺す!!」


唖然とした様子のチンピラに再び鮪包丁を突き付けた。



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