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猫と杓子がやたら強い。  作者: しゃもじ派
食の神 プウ
18/77

翌朝

朝になっていた。俺が寝惚け眼をこすり辺りを見回すと、灰にまみれた焼け焦げた草原が飛び込んできた。


あぁ。昨日の事は夢であって欲しかった。10メートルくらい前に見える、黒い木がまとまって球体のようになっているアレはきっと違う。うん。死骸じゃないと俺は信じている。


四葉も大樹もジジイも寝ているな。毛布みたいのに(くる)まっているけど、どこから取り出したんだろう。しゃもじは……暴れている。


「でーーーーーーたーーーーーーーー!!!!!」


あぁ。トイレしたのね。えらいえらい。また『精霊の欠片』が増えたな。普通に考えたら貴重もなにも毎日取れるよな。





――矮小なる我の霊力を糧に九尾の名の根源たるその力の片鱗を貸し与えよ――


――千里眼――


四葉と大樹が使っている霊法を詠唱してみる。すると俺の周りをやはりぽやっとした光が包み込み、視界が恐ろしいまでに開けた。180°視認出来る不思議な感覚と、目を凝らすようにするとその部分がカメラのズームのように見える。それを続けて行う事で遠くまで見ることが出来るようだ。


身体機能強化の霊法か。……便利じゃないか。使えばむっきむきになれる霊法とかもあるのだろうか。


俺が千里眼を使った理由は水の散策だ。顔を洗いたいし、昨夜大変お世話になった四葉と大樹への御礼の為に水を汲みに行きたかったのだ。


杓子を鍋にするとその時点で湯になってしまう。ボウルにもなるのだが水が沸いてこない。ならば水差しだと思ったが、片手に持ちながら顔を洗うのは何となくすっきりしないので、近くに川でも流れていないかな、と思い立った。そう。要するに散歩がしたいだけだ。


「しゃもじ!行くよ!!」


「あっなおとがおきたー。どこいくのー?」


意外と近く、恐らく歩いて5分程のところに川が流れているのが見えた。千里眼の最大の利点は、上空からの視点にも出来る所だ。今度どこまで視界を飛ばせるのか実験してみよう。


真っ青な草原はかなり広範囲でその面影をなくしていて、土と灰になった元草原を歩いていくと、真っ白な50センチ程の大きさの石がごろごろしている幅が広く浅い川に着いた。朝日が煌く流れは、白い石と相まって極楽浄土を思わせる程に幻想的だ。行った事ないけど。


しゃきしゃきしゃきしゃき……


透明度が高く、冷たい川の水で顔を洗っていると何かを擦りあわせるような音が聞こえた。しゃもじは隣で水を飲んでいるし、川の音にしては不自然だ……なんだろう。


しゃきしゃきしゃきしゃき……


また聞こえた。……不気味だが、まぁ気にしても仕方がないので、杓子をタライに変えて水を汲もうとした時だ!川に優しく微笑むザルを持ったお爺さんが立っていた。身長は俺の胸くらいで、鼻の上に1センチくらいのイボがあり、髪の薄いしわしわの腰の曲がったお爺さんだ。


「ん。」


ザルを差し出された。えっと……?中には小さい朱色の粒が沢山入っている。


「えっ?くれるんですか…?」


「洗っといた。」


俺がザルを受け取ると、にこっと笑ってすーっと消えるお爺さん。何かかわいいけど…幽霊かな?





「ほ!!『小豆洗い』に会ったのかお主!!」


俺としゃもじが戻ると、もう皆起きていた。そしてザルを見てジジイが話しかけてきた。……さっきのお爺さんを見習えジジイ。お前にはかわいさの欠片も無いぞ?……あれ?でも『小豆洗い』って妖怪だよな?魂抜く恐ろしい奴だったような。


「へぇ。『小豆洗い』に気に入られたんだぁ。」


四葉もザルを覗き込みながら会話に参加する。……あ。水汲んでくるの忘れていた。


「『小豆洗い』って妖怪の??」


「妖精じゃ!!!!全くお主は、そんなに良い物をもらっておいてもそんな事をいうのか!!」


前の世界の妖怪がこの世界では妖精なんだろうか。『がしゃどくろ』とか『ぬりかべ』とかが妖精って嫌だな。


「そもそも妖精ってなんだ?」


「妖精っていうのは、私達と同じ生物だよ?ただ私達は『神の創造物』と考えられていて、妖精達は『自然の創造物』と考えられているの。」


「そうじゃ。儂等の体は自然そのもの。つまりこの姿も自在に変えられるぞい?ただ今の体がしっくりくるだけじゃ。お主が望むなら女体になってぽぺっっっっ!!?」


ふざけた事を抜かしそうになったので恒例の『蹴飛ばし』だ。恐らく人体を骨・筋肉・血液・皮膚等々、メカニズムと称しながら解析する前の世界とは全く違い、自然物+霊力で動いたり、喋ったり、が当たり前の世界なのだろう。そうなると獣人である四葉と大樹の身体構造も、俺やしゃもじと違うのかもしれない。……まぁ考えても仕方が無いな。解剖する訳にはいかないし。『医学』よりも『霊法』で病気や怪我を治しそうな世界だしな。


「……そろそろ出発するぞ。」


大樹の言葉にハッとして、すぐに準備をして歩き出す。…とはいえ俺の荷物は皮袋と杓子とザルだけだが。風呂に入りたい。せめて水浴びとかしてくれば良かった。


「昨日は悪かった。助かったよ。俺は蜘蛛だけは苦手でね。」


小走りで大樹に追いつき、昨夜の事を詫びる。思い出すとかなり恥ずかしい。


「気にするな。貴様のおかげで霊力がかなり上昇したからな。楽に倒せた。……しかし……。」


何かを言いかけた大樹が口元を押さえて震えている。周りを見ると四葉もジジイも震えている。まさか……蜘蛛の毒か!?


「あはっ!あっごめんなさい。あははは。」


と四葉が笑い始めると、それに釣られて大樹もジジイもくつくつと笑い始めた。


「とんでもない霊力を持つお主がっっ!まさかあんな中級悪魔を見て失神するとはのっっ!」


「しゃもじ。」


「なんだー?」


「この植物であそん…」


「あーーーーーー!すまんすまん!それは勘弁してくれい!!」


そのやり取りを見て四葉は手を叩いて笑う。ツボに入ってしまったようだ。くそう。かっこわるい。


「毒蜘蛛だったら厄介だろ!?」


「ほ?どくぐもとは何じゃ?」


「毒を持った蜘蛛の事だろうが!まだ馬鹿にするのか!?」


「どく…?何じゃそれは??」


今のジジイは特にふざけた様子は無い。ん?どういう事だ?



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