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猫と杓子がやたら強い。  作者: しゃもじ派
食の神 プウ
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失神

しばらく沈黙し、最初に立ち直ったのはジジイだ。やはり長く生きているだけあるな。


「100年生きてきて、こんな霊法は初めてみたわい……。」


想像より生きていないな。もっとこう、千年とか生きていると思っていたのに。


次いで焔が立ち直り目を輝かせている。


「すっっっっっげぇぇぇぇええ!!!!」


これを素直に称賛できるお前がすげぇよ。


大樹と四葉は同時に。


「「低級霊法で……あの威力……」」


霊法もクラス分けされているのか。低級・中級・上級・特級かな?なんか醤油みたいだな。


まぁあの山には誰も住んでいないと信じる事にしよう、と同時にしゃもじに霊法を使わせる時は細心の注意を払わなければ。


「なおとーきつね……」


「あ゛ぁーー!!しゃもじ!!飯の時間だぞ!?」


「めしー!!めしくうー!!」


ふぅ。危ない。抱き抱えていたしゃもじを降ろし、蛇肉を細かく切って渡す。


「うまうまうまうま。」


とりあえずは大丈夫か……?怖いよ!大量破壊兵器だようちの猫!!


って事は『霊化』すれば俺も使えるのか……?今は試してみる気にはならないけど。


「そういえば、九尾に水竜をどうにかしてもらえなかったの?」


「確かに九尾の狐が本気を出せば水竜ぐらいはどうにかなったろうが、精霊は生物と契約しない限り生物界に干渉出来んのじゃよ。そんな事も忘れてしまったのか?稚児でも知ってるぞぃ?」


あぁそうか。記憶がない事になってるんだよな。嘘はこれだからツラい。言った事をつい忘れてしまうんだ。


九尾の契約者に足る者が居なかったから水竜に対抗する手立てがなかったんだな。


「三大精霊と悪魔は、『干渉霊法』『干渉魔法』が使えるからの。その限りではないがのぉ。」


「生物界って事は、悪魔界と精霊界もあるのか?」


「左様。じゃが実在の確認は出来ておらん。あやふやなもんじゃ。のぉ焔。」


「うん!聞いた事はあるけど行った事はないよ!母様も行った事はないよ!」


未開の地か。生憎俺は冒険者じゃないから、あまり興味は沸かないな。



「う……そ……。」


後ろの方で聞こえた、消え入るような女性の声に視線を移すと、青い顔をして震える四葉の肩を抱いている大樹がいた。


「どうした?」


「千里眼で確認しましたが……半壊の山は……バラゴクの巣です……。」


「なん……だと……?」


「なんじゃと!?また厄介な……」


「えぇぇ!?僕あいつら嫌いなんだよなぁー。」


四葉の言葉を聞き、大樹も同様顔を青くする。ジジイは驚いてはいるが、顔色は変わらず茶色だ。焔は頭を垂れて心底嫌そうな雰囲気を醸す。バラゴク?何か不吉な名前だ。


「バラゴク?」


「大型の蜘蛛くもの悪魔じゃ!!巣に害がある者を、一斉に攻撃する習性がある。その数は地を埋め尽くす程じゃ!!」


なん……だと……?蜘蛛だと……?俺は蜘蛛が苦手だ。苦手という言葉では足りないくらい嫌いだ。嫌い過ぎて家には蜘蛛用殺虫剤が常に8本あった程だ。


「大群がもの凄い速度で押し寄せて来ます……およそ……3分程で……ここに。」


四葉が方角を指し示す。ヤバイヤバイヤバイヤバイ。どうしようどうしよう。恐らく見ただけで失神する!!


「よよよよ四葉!!ななななんか良いほほほ方法はないのか!?」


四葉に向かって叫ぶ。震えが止まらない。


「ほほほっ!なんじゃお主、獣神を連れて何をそんなに怯えておる?霊法でどかーんとやってやれぃ!」


あぁ。そうだな!!俺にはしゃもじがいる!!先程と同じ様にしゃもじを抱き抱えて、前足を四葉が指し示す方角に向ける。


「ききききつつつつつねねねね……」


ダメだ!!震えて言葉を発する事が出来ない。だって蜘蛛だよ!?大型だよ!?


「なおとー?さむいのかー?」


しゃもじが俺の服の中に入り込んでくれた。あ……ありがとう。でも今は違うんだ!!


「な……!?何をしとるんじゃ!?お主が頼りなんじゃぞ!?」


そんな事言われても……。俺は大樹に助けを求める視線を送る


「俺と焔の霊法は広範囲には意味がないしな。逃げるにしても追い付かれる。……貴様はろくな事をせんな。」


すみません……。いやでもやったのはしゃもじだし……。


「霊力が上がった今なら……。私がやってみます!!」


四葉が前に立ち、長い髪を揺らす。おぉ……女神だ。視認出来ない内に頼む……!!


「引き付けてから放ちます!お父様、秒読みをお願いします!」


「解った。」


――矮小なる我の霊力を糧に九尾の名の根源たるその力の片鱗を貸し与えよ――


――千里眼――


大樹の体がぽわっとした光に包まれる。……いやいや引き付ける!?ダメだよダメ!!でも声が出ない!!


「およそ……30秒……。」


遠くに地を覆う程の紅い光が見えてきたと同時に、ドドドドという地響きと、ガサガサガサガサという草をかき分ける音が聞こえてきた。どこの風の谷の何とかシカの虫だよマジで!赤い光が真正面に集まり、俺等を狙って来ているのがわかる。


見えてきたよー!!危険だよー!!もうヤバイよー!?


「来るぞ……!およそ10秒!!9……8……7……6……」


――矮小なる我の霊力を糧に九尾の名の根源たるその力の片鱗を貸し与えよ――


――紅蓮炎壁ぐれんえんへき――


刹那せつな、四葉がかざしている両手から前方約3メートルの地から炎が溢れ出す。それはおよそ20メートル程の幅で、5メートル程天に向かって伸びる炎の壁。空気をごっそり取り替えたかのように充満する生き物が焼ける臭いと、天に舞い上がる大量の灰が、蜘蛛がそこに突っ込んでいる事を示している。


「兄様の得意なやつだーー!あれ?でも兄様の方がすっごいよ!!」


いいんだよ焔!!身内自慢は後でしろ!!


「ん……。もうダメ……かも。」


早いよ!!セクシーな声だけど早いよ!!しゃもじの干し肉あげるから頑張って!!!


干し肉を取り出し四葉の口元に差し出すと、それを(くわ)えた途端に明らかに元気になった。


「あっありがとう!これでもう少し頑張れる!!」


干し肉咥えながら両手を前にして踏ん張っている感じの美人さん……。うん。何かイイネ!!……攻撃してきているのが蜘蛛じゃなかったらな!!


それから数分で舞い上がる灰が無くなり、四葉は霊法を解いた。ふう。跡形もなく焼き尽くしたらしい。蜘蛛の死骸とか目に毒でしかないしな。


「うむ。後は俺が引き受けよう。」


大樹がふらつく四葉を抱き抱えてゆっくりと座らせた。……「後は」って何!?


「来たぞ……!糸に絡め取られないように下がっていろ!!」


さっきの四葉の放った特大霊法よりも明らかに大きい蜘蛛が迫ってきていた。俺の腕くらいの太さがある毛がびっしりと生えた8本の足は異常に関節が多く、同じく毛に覆われた丸い体の上部にはバスケットボール程の大きさの不気味に光る紅い目が点々と一周している。


それを見てしまった俺は、全身に鳥肌を起こし失神した。


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