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猫と杓子がやたら強い。  作者: しゃもじ派
食の神 プウ
15/77


3メートルの鹿丸々一頭は3人で食べるには大きすぎる。が、面倒なのと、材料の種類がないので手っ取り早く焼肉にした。皿は木を削って大樹が作ってくれた。


砂糖・醤油・コチュジャン・胡麻油等を混ぜた物に、肉を漬け込む。『韓国風焼肉スタイル日本人向け』だ。杓子は知っている調味料なら全部出してくれるようだ。胡麻油はいつもの三角柱のような形で、コチュジャンは壺の形になったのは面白かった。


勿論しゃもじに、高たんぱく低脂肪のモモ肉を独占させる。あまりあげ過ぎはダメなので、大半は干し肉にして、皮袋にしまう。


ホルモン・肉を合わせると軽く20人前ぐらいはあるが、まぁご飯ないし大樹がいっぱい食うだろ。脳味噌も食えるらしいが、気持ち悪過ぎるので止めた。


「あっ大樹。まき拾って来てよ!」


「随分馴れ馴れしくなったもんだな貴様も。」


「娘の命の恩人の『契約者』を殺しかけたくせに?」


「ぐ……。わかった。行ってこよう。」


「ついでに4つ同じくらいの大きさの石もよろしく!!」


この方法なら大樹を暫くこき使えそうだ、けっけっけ!


「まだかのぉ。腹が減って腐ってしまいそうじゃわい。」


もうとっくに腐りかけだろうが植物ジジイ!!肉を食えるのか?


「めし〜!めし〜めしめしめしめし〜〜!なおとーなおとーなおとーめしーめしーめしーめしぃぃぃぃいいい!」


しゃもじの要求吠えも喋れるとこんなに鬱陶うっとうしいとはな。俺は飯じゃない。


ぐぅぅぅう。


四葉の控え目なお腹の虫の要求も聞こえて来る。赤い顔して俯くなよ、かわいいだろ。


しばらくすると、ドスンドスンと俺の周りに石が飛んできた。まだ俺を殺す気なのかアイツは!?ついでにジジイも飛んできて「これ大樹!!儂が肩に乗っとる事を忘れおって!!」と切れていたが、無視した。


石を四隅に配置し、大樹が拾ってきた薪を並べる。


「大樹、火。」


火を着けてもらう為、霊法を促す。「む……。」と眉をしかめたが無視だ。


――矮小なる我の霊力を糧に九尾の名の根源たるその力の片鱗を貸し与えよ――


――狐火きつねび――


あれ?非契約者の詠唱だ。『契約者』は両方使えるのか。お得じゃないか。野球ボールぐらいの大きさの火の玉が勢い良く薪に飛び込み、燃えていく。俺に最初に放った霊法だな。


そして杓子を焼き網に変えてセッティング完了だ。大きさは自由だし、汚れないから網の交換の必要もない。素晴らしいぞ杓子!!



恐らく火が無くても杓子の事だからきっと焼いてくれるが、こういうのは形が大事だ。大樹の霊法を見てみたかったし。


霊法は手からポーンと出るものかと思っていたが、手の前で霊力がシューっという音と共に渦を巻きながら収束し、野球ボールサイズの弾になって飛んでいった。その間1秒と経ってない気がするけど。


そういえば中華鍋で止めた――焔監獄――とやらも、いきなり俺の地面から発現したな。霊法の種類によって違うんだな。


杓子網の上でいい匂いを漂わせながら、肉が焼かれている。箸も人数分大樹が作ってくれたが、箸を使う文化とは驚いた。かなり元居た世界に近い。


ジジイは網の上で焼かれながら取るのかと思ったが、四葉が取ってあげていた。焼かれてしまえばいいのに。


「で、ジジイ…さん。水竜の事聞かせろ。」


「おぉそうじゃったの。湖から顔を出した水竜の首にズバーンと獣神様が体当たりをしてな、そのままドーンと通り過ぎたんじゃ!ありゃ早業じゃったぞい!」


沈黙……大樹も四葉も網の上を無表情で一点に見つめている。しゃもじは別に茹で上げたモモ肉に夢中だ。俺は無言でジジイをつまみ上げ、網の上に置く。


「あっつい!あっついわ!!何をするんじゃ!」


しゃもじと同じレベルじゃねぇか!!何にもわからねぇ!!そもそも首に傷があったのは確認済みだしな。……いや、とりあえず瞬殺だったのはわかった。


「しゃもじ。何であの蛇殺したんだ?」


「うまー!!にくうまー!!」


聞いちゃいねぇ。まぁ恐らく四葉と一緒に並んでいた飯を食う邪魔をしたから…だろうとは思うが。だとしたら危機一髪だったな四葉。


「痛みを感じぬよう、里の者らで睡眠霊法をかけていたからな。四葉は知らんだろう?」


「はい……。」


真相は獣神のみぞ知るってやつか?まぁ別に知った所で、どうって訳じゃないんだけど。睡眠霊法って、そんな事も出来るのか。


「と、とにかく水竜はあのまま行けば間違いなく悪魔化しとったから、早々と片がついて良かったんじゃよ。」


しわしわなジジイが、しわしわな木の根のような足をフーフーしながら言う。いや…花の根か。


「悪魔化…?」


「そうじゃ!あれだけ巨大で強力な霊力を持つ存在じゃ。魔王にそそのかされ、霊力が魔力へと変わり、悪魔になってしまうのじゃ。」


「はぁ。もう悪魔みたいだったと思うが。」


漆黒の体躯に紅い紋様。そして100メートルはあろうあの巨大だ。悪魔だろうあれは。


「お主は本当に何も知らんのぉ。『悪魔化』すると残虐性は増し、『人』と契約出来るようになってしまうんじゃ。水竜ならば中位にはなったじゃろ。」


確かに……何よりも『人』と契約してしまう厄介だろう。魔王クラスとも契約できる『人』と、焔のような中位の精霊としか契約出来ない獣人とでは、明らかに戦力の差が生まれる。


悪魔は『契約者』の命を喜んで吸い取るが、精霊は『契約者』を大切にする、という違いがあるのだろう。


強大な魔力+残虐性+人の頭脳。最悪、という言葉がこれ程当てはまる足し算を俺は他に知らない。


「まぁそれについては考えても仕方あるまい。悔しいが、この料理は旨かったぞ。」


「本当!凄く美味しかったよ直人!ご馳走さまでした。」


「そうじゃな。今は美味を楽しませてもらった余韻に浸りたいわい。」


「うまーうまーうまー。」


「すっげー旨……美味しいぞ……です!!」


なん……だと……?


皆の賛辞に驚いている訳ではない。俺唯一の自慢と言えるのが料理だからな。


そんな事より……肉がない!!!いつ焼いた!?いつ食った!?あんなにあったのに!?俺の分は!?…………うぅ。泣ける。


俺の手元に残ったのは綺麗な木皿と、干し肉だけ。


しゃもじごめん。ちょっともらうよ干し肉。……まぁこれもこれで……ううう。



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