霊化
「精霊の霊力を借りるという事は、自分の霊力に足されるという意味じゃないの。」
精霊にとって霊力とは食事のようなもの。つまり「お前のご飯を用意するから、お前の力を一時的に俺に貸せ。」だな。で「ご飯が無くなれば、力は貸さねぇよ」だな。
俺の給料でしゃもじの飯を買って与えている。だから癒しを下さい。的な感じか?財布の中は戻って来ないけど、プライスレスは手に入ると。財布の中が無くなれば、プライスレスもそっぽ向くと。
「他の精霊や生物を捕食すると契約の必要は無くなるんだけど、それが可能なのは三大精霊以上の存在だけなの。」
で、出した糞が『精霊の欠片』って訳か。
草食獣に肉をあげても消化出来ないのと同じ様に、生物を介した霊力じゃないと消化出来ないんだな。
『契約者』は
――契約せし我の霊力を糧に○○の名の根源たるその力を貸し与えよ――
と、詠唱する事で精霊と繋がる事が出来る。当然その他に、日常的に渡す霊力もある。
『契約をしていない者』は
――矮小なる我の霊力を糧に○○の名の根源たるその力の片鱗を貸し与えよ――
と、詠唱する事で遠くにいる上位の精霊の力を借りる事が出来る。但し2割程の力しか行使出来ない上、一回毎の詠唱が必要になるし、霊法を発現する言霊を予め知っている必要がある。
「俺にそんな教えて大丈夫か?」
「うん!だって直人は私達を信用して、霊力料理の事を話してくれたもん!」
……いや考えなしだっただけだが。そう思って貰えるならありがたい。そして秘密にしといて欲しい。
「俺の場合は――契約せし我の霊力を糧に獣神の名の根源たるその力を貸し与えよ――かな?」
その言葉を発した瞬間、俺の身体に柔らかな光が纏う。と同時に、力が湧いてくるのを感じる。
「おぉ。」
つい声が漏れた。これは『借りている状態』だよな?
隣のしゃもじを見てみると、俺と同じ光が纏っていて、舌をペロペロさせている。
「うまー!うまっ!」
馬?いやいや旨いだよな。俺の持っている霊力をしゃもじが食っている訳だ。便利過ぎるぞ!!しゃもじの飯を用意しなくても……
「めしはほしいー……。」
なるほど。心までリンクするらしい。はいはい。ちゃんとあげるから悲しい顔するな。
しゃもじは……飯の事しか考えてないな。
「……まさか訓練無しで出来るなんて……。」
ここに言霊を乗せると霊法が発現する訳か。……で言霊は?
「しるかー。」
だよね!どうしようもないな。
「四葉。これどうやってやめるんだ?」
「え……あ……。解除と念じれば……。」
どうやら絶句していたらしい。解除、と念じて状態を解くと四葉が羨ましそうに、または恨めしそうにこっちを見ていた。
「お父様でも契約から『霊化』出来るようになるまで半年かかったのに……。」
「『霊化』?」
「精霊と繋がる状態の事……。」
口を開けて目を見開いている四葉でも、垂れ目な事には変わらない。それに少し癒されているのは秘密だ。
「大樹は里の中では強い方なの?」
「それ所か獣人の中でもかなり強い方なんだけどなぁ……。」
しかも今は三尾になった焔がついていると。強いのはドデカいつる草を3本も切り倒した時から知っていたが。今なら5本ぐらいはいけるのかな?
「九尾と契約している奴は居ないの?」
「えぇ!?とんでもない事を言うね直人は!?まず九尾様に見合う霊力を持っている獣人が居ないよ!!」
確かに九尾が個人に要求する霊力って想像もつかないな。非契約者からの詠唱でかき集めるぐらいだし。
「焔の他に、キツネの精霊はいる?」
「キツネ!?……えっと、九尾様のご子息様で、焔様、紅蓮様、業火様の3名の『妖狐様』がいるよ!!」
『妖狐様』と強調して言われた。キツネって呼び方が気に入らないのか。気を付けよう。明らかに業火とやらが一番強そうだ。紅蓮って花の名前だしな。
「一番霊力が高いのが五尾の業火様。次いで紅蓮様が四尾、焔様は先程三尾になってたね!」
一番弱いじゃん焔!!確かに弱々しい話し方だったな。しゃもじにビビり過ぎだ。
「霊力を増やす方法は『精霊の欠片』を取り込むしかないんだよ!大体尾を1つ増やすのに5つは必要なんだけど、獣神様は凄いよね!!」嬉々とはしゃぐ四葉。相変わらず感情の移り変わりが激しい。
しゃもじの糞を褒めるのは獣医以外いないと思っていたが……そうか。あの時四葉は寝てたから、『精霊の欠片』によって焔が三尾になったと思っているんだな。
え……?そんなこの世界では貴重な物より俺の料理が勝っているの……?
「と、とりあえず他に妖孤の『契約者』はいる?」
「いないよ!いる訳ないじゃん!!四尾の紅蓮様と契約するのだってお父様の3倍の霊力が必要なんだから!!」
という事は、俺もしゃもじと一緒で、もの凄い霊力を持っているという事だけど。全く実感はないし、霊法を使う為の言霊が解らないのが痛い。
「言霊……本当にしゃもじわからない?」
「しるかー!」
「しゃもじ……飯抜きな?」
しゃもじが目を見開いて「マジか!?」な顔をした後、必死に俺の裾にすがり付いてきた。もぉホントにかわいいなぁぁしゃもじぃぃ!!!!
「なおとぉぉおおー。」
はいはい。本当にわからないのな。
「ウソウソ。ちゃんとあげるよ。」と俺がしゃもじの頭を撫でるのを見ている、微笑ましいといった顔の四葉が横目に見えた。
「じゅ…獣神様ならきっとどんな霊法でも使えると思うよ…です。」
突然焔が話しかけてきたと思ったら、大樹も遠くに見える。どうやら狩りを終えたみたいだ。大樹の左手は、全長3メートルぐらいの鹿のような動物を引き摺っていた。大げさに枝分かれした巨大な角はむしろ体よりも大きく見える。何より特徴的なのは毛の色だ。白と黒でシマウマのような模様をしているが、顔は明らかに鹿だ。
どんな霊法でも使える……?気になる所だが、それは食事の時にでも聞こう。
「捕ってきた。ついでにシメておいたぞ。」
と言うと、その獲物を俺の前に置く。ドサッという音が生々しいが、シメておいてくれたので、血はあまり出ていない。流石見るからにアウトドアな男だけある。
山の民宿で住み込みバイトをした事がある俺は、獣の解体も経験がある。が、慣れた手付きで捌いてくれるのは大樹だ。流石見るからにアウトドアな男だけあるよ本当に。
次々にスーパーマーケットで見るような肉の姿になっていく鹿を横目に見ながら、調理を始めていく。
折角だから野菜も欲しいな。ジジイでも入れるか……?
「これ!お主は何を考えておる!!」
チッ。バレたか。