道すがら
そういえば四葉・大樹・焔という名前は会話の中で解ったが、ジジイの名前はなんだろう。と思い、聞いてみたら
「今の儂に名前はない。生まれた時から花の王じゃった。皆からは『花王』と呼ばれていたがな。」
と返ってきた。よし。洗剤役はコイツに任せよう、と思うのは必然である。そういえば何でジジイも一緒に里に向かっているんだ?まぁ良いんだけど。
やっと陽が傾いてきた。湖から伸びた道を歩くと、直ぐにまた真っ青な草原に出た。今朝と違うのは、道がある事。案内札がある事。
↓水竜の森・泉
←大狸の里
→九尾の里
という案内札に導かれ、三叉路を右に曲がる。俺、しゃもじ、四葉、大樹で夕焼けに染まる道を歩いている。キツネは再び男のベストとなり、ジジイは大樹の肩に乗ったままだ。…大狸の里、気になるなこれ。
「で、『人』は何なんだ?いい加減教えてくれ。」
再びジジイに尋ねてみると、大樹が怪訝な顔をして俺を見る。
「貴様も『人』だろう?逆に聞くが、何故何も知らないんだ?」
お前に聞いてないっての。…しかしどうするか。「食の神に連れて来られた。」と言った所で、信じてもらえる可能性は低そうだ。
とはいえ「記憶を失っている」は、あまり乱用は出来そうにない。
「記憶を失ってるんだよね?」
四葉が口を挟む。あぁ…言っちゃった。
「それはつまり、こいつが『人』側の考えを持っている可能性があるという事だろう?」
そういう事だな。俺も逆の立場ならそう考える。少なくとも大樹は、出会い頭に殺しにかかる程、『人』を憎んでいる。
「お父様!」
四葉が制止したが、大樹の言っている事は正しい。『獣神を引き連れた敵』なんて脅威でしかないだろうし、信用なんてするもんじゃない。
「ほほっ!大丈夫じゃろうて。精霊と契約出来るという事はつまり、慈しむ心を持っているという事じゃからのぉ。」
「ですが、老師……。」
老師!?いつからそんな師弟関係になったの!?『人』の契約は悪魔と、だったな。
悪魔と契約って確かに邪な響きだけど。精霊とは違うのか?
「悪魔を知れば自ずと『人』を知れる。悪魔とは……」と話し始めたジジイの話をまとめると
・悪魔とは、全ての個体が例外無く膨大な魔力を持っていて、契約によってそれを自分の霊力と変換する事で、強力な魔力による力『魔法』の行使が可能になる。
・悪魔にもやはり上下階級はある。魔王と、その息子達、六天魔王子と呼ばれる存在があり、以下眷属も多数。
・精霊との契約は『精霊が提示した量の日常的な霊力の譲渡』が条件なのに対し、悪魔は『黒く染まった魂の譲渡』が条件だ。
・悪魔の『契約者』は、殺した者のあらゆる負の感情を魂に刻み込み、黒く染まりきった『契約者』の魂を、寿命と共に悪魔に譲渡しなければならない。よって『契約者』は快楽的で残虐な殺戮を好むようになる。
「と、まぁこんな所かのぉ。『人』は心が脆い。故に悪魔は『人』としか契約しないのじゃ。」
確かにどんな『人』でも残虐な部分を心に秘めている。ゲジゲジとか、何もしてなくても殺すしな。
「『人』は霊法を使えないのか?」
「そうじゃのぉ。強い精神が無ければまず精霊が気に入らんしなぁ。」
強い精神を持った『人』も中には居そうだけどな。
「『人』は元々持っている霊力が低い種族なの。だから言霊でも霊法の行使は難しいんだと思う。」
四葉が補足した。霊力が低いと変換する魔力も同時に低くなるんじゃないか?
「その少ない霊力を魔力に変える訳だが、寿命と引換に悪魔から魔力を借りる事も出来るのだから厄介なのだ。」
大樹も加わった。要するに、『人』は強くなる為に、魂と寿命を悪魔に明け渡す、と。何の為に……は聞く必要がないな。
「悪魔との『契約者』が王国を建て、他の『人』や『生物』を蹂躙する…という事か?」
四葉が一瞬驚いた表情を見せ、俯いて答える。
「そう…良く解るね。貴方も『人』だから?」
「そうだな。『人』だからこそ、『人』のそういう部分を良く見てきた。」
『人』は恐ろしく簡単に、他の命を軽んじる。快適を求めるが故に他の命を軽んじる。『自分さえ良ければ』という考えが、既に正義と化していた世界から俺は来た。
「お主はそういう風にはならないように見えるがのぉ。本気で獣神様の霊力を使えば、片手で街1つを消し飛ばせるぐらいの力はあろうにのぉ。」
そんなに凄いの!?でも確かにしゃもじが水竜とやらを殺して俺の所に引き摺って来るまで、15分くらいだった気がする。
「水竜を屠った時も凄かったぞい?一瞬だったわい。」
「見てたのかジジイ…さん。ついでに話してくれ。」
「ほほ!それより腹が減ったのぉ……。飯を食いながら話そうぞ?そうは思わぬか大樹よ?」
「いや…それほど…」
「そうじゃろぉ。そうじゃろぉ。四葉とやらも腹が減ってるよなぁ?せっかくじゃからお主…作ってくれい。」
お前が食いたいだけじゃねぇか植物のくせに。
「めしかー?めしかー?めしぃぃぃぃいいい!!!!」
しゃもじも便乗しやがった。しかし……材料がない。
「では狩りに行くか。」と溜め息をついた大樹が道から外れて草原を駆け出す。
「私も直人の料理食べてみたい。」
と目を輝かせる四葉に観念し、俺は飯を作る事にした。




