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猫と杓子がやたら強い。  作者: しゃもじ派
食の神 プウ
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狐の精霊

結果的に俺の言葉を誤解してくれたお陰で男が怒り、早々と霊力を消費して倒れてくれたらしい。攻撃する手立てがないのがキツイな。どう考えても包丁であの尻尾剣には勝てないし。


ただ中華鍋に隠れてただけで「勝ちました。」みたいなこの流れは自分でやっといて何だが違和感がある。


「こ…これは……?」


鯖蟹を食ってスクッと立ち上がった男が、目の前で両手を閉じたり開いたりしながら呟く。


「ほっ!回復だけではなく、霊力の器も広がったかの?儂もこやつの飯を食って驚いたわい……。」


ジジイが男に話かけた。何か自然にここに居るのが腹が立つなこのジジイ。あ、頭の花がちょっと大きくなってる。


「あぁ…力が沸き出してくるようだ。お前は妖精か?これはどういう事だ?」


「左様。妖精じゃ。良く掴めてはおらんが、こやつの飯に何かがあるようじゃな。」


と2人同時に俺を見た。いやいやいやジジイは妖怪です。


「あははは!どうしちゃったの!?大樹だいじゅの霊力が上がってるねぇ!!」


突然、小学生の男児のようなおちゃらけた声が聞こえた。と思ったら男の毛皮のベストが白銀の毛並みで尻尾が2本あるキツネの姿に変わり、男の横に降り立った。デカイな。男と並んでも遜色そんしょくない程の大きさだ。


……男は上半身裸。改めて見るとすげぇ筋肉だ。大樹という名前だけあって身長も2メートルくらいはある。……勝てる気がしない。


「どうやらコイツを食ったせいらしい…。」


男は頭と骨だけになって地面に散らかる鯖蟹を視線で示しながらキツネと話している。馬鹿野郎!頭と骨も旨いのに!!


「へぇ~~~!ふっつうの蟹魚かにうおだけどねぇ?ふぅぅん。」


と、残骸をスンスンと嗅いでいる。蟹魚って名前だったか。惜しいな。キツネが残骸を食うと、ポンっと尻尾が1本生えて、計3本になった。


「あっっ!?やったぁ!大樹!三尾になったよ!!」


「なん……だと……?」


驚きっぱなしだなこの男。整った顔が腹立つ。金髪が似合うぞコノヤロウ。

「俺の作る料理には、霊力を高める作用がある…ぐらいしか俺は自分の事を知らない。契約精霊は、お前の娘とあの台の上で寝ている。」


……。ジジイも男もキツネも首を傾げて何かを考えているようだ。俺が喋った後に沈黙とかやめて!?


「ほほほっ!まぁ良い!契約者のピンチに駆け付けないとは、随分ぐうたらな精霊じゃの!どらどら、一目見てやるかのぉ。」


沈黙を破ったジジイ。只でさえ細い目を更に細めて、にまにましながら台の方へ歩き出した。


「ジジイ…さん。その頭の花、取った方がいいぞ?」


「ほ?何故じゃ?目障りかの?」


「いや…目障りではないけど……。」


「じゃあ問題ないじゃろ!長い事擬態していたせいで、上手く戻れんのじゃ。」


……まぁいいか。ん?戻る?あぁ、妖怪の姿にか。


「『契約者』?しかも精霊と…だと?」


怪訝な顔をする男を無視して、俺は台に向かうジジイを追う。1人と1頭も着いてくるようだ。


台の上を見ると、穏やかな陽に照らされて気持ち良さそうに寝ている。……あれだけの物音が近くでしていて、まだ寝ていられるアイツらは何なんだろうな。「おやめ下さいお父様!」な展開だったろうが。実際期待してたし。……まぁいいか。四葉の寝顔も、隣に寝るしゃもじも息を飲むほどかわいらしいし。


「「「獣神……!?」」」


妖怪と男とキツネが同時に同じような顔で驚く。さっき見たからもういいよその反応は!



お?しゃもじが起きた。寝惚け眼で伸びをするうちの猫は異常な程かわいい。


「なんかふえてるー。」


人数の事か?まぁ急に増えたよな。3本尾のキツネと比べると大分小さいよなうちの猫。キツネの顔ぐらいの大きさしかない。


あ、しゃもじが瞳孔を開き、一点を見つめながら、伏せて尻尾を振っている。……これは獲物を見付けた時の猫の習性だ。やっぱりな。


「しゃもじ。一応生きているから手加減しろよ?」


「……。」


聞いちゃいねぇ。大丈夫かな。


「何の話をしてるん、びゃ!?」


一瞬だった。台から飛び降りてジジイを右前足で横薙ぎに払うしゃもじ。……だから花取れって言ったんだ。ユラユラと猫じゃらしのようだったから。


「ふべっ!ぎゃっ!びゃあ!?…バタ。」


湖の上を3回水切りし、対岸へ飛ばされ倒れたジジイ。さすがに死んだか?


あ…起き上がった!すげぇ。不死身かあいつ。湖を半周し、戻ってきた。良い感じに花が取れたじゃないか。


「ぜぇぜぇ…。何なんじゃ!?今日は厄日か!?」


「いや…なんでお前生きてるんだ?すげぇな。」


「儂は腐っても花の王じゃった男じゃ!衝撃で死ぬ事はないし、回復能力は誰にも負けん!…だが痛い事は痛いんじゃ!」


「あぁそうなのか。しゃもじ。謝れ。」


「ごめんなさーい。」


謝る気ねぇな。しかし、衝撃じゃ死なないし、回復能力が高いのか。便利な能力だ。「じゃあすりおろして食ったらその能力もらえたりするのかな?」


「お主……。」


しまった口に出ていた。


「冗談だ。それより花の王って何だ?」


「ふぅ。まぁ良い。妖精は花・樹・草の三種族が居てな。儂はその中の花を統べる王じゃった。」


「……じゃった?」


「あぁ。忌々しい『薔薇ばらの女王』に、不意をつかれてな。『王の種』を取られてしまったんじゃ。」


ホントかよ……。柿の種の間違いじゃねぇか?


「いつか『王の種』を取り戻し、『薔薇の女王』をぎゃふんと言わせてやるんじゃ!!今に見ておれ~~~!!」


闘志を燃やしてるジジイ。……にはあんまり興味がないので、しゃもじに視線を移すと、キツネに話しかけようとしていた。



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