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猫と杓子がやたら強い。  作者: しゃもじ派
食の神 プウ
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夕飯食べたら

携帯から書き込んでいるので、連載ペースは本当にゆっくりですし、1話2000字程度になってしまいます。


何かおかしかったり、変だったりしたらご教授戴けると嬉しいです。


ーーーーーー朝。


瞼を透かす眩しさから逃れるように寝返りをうつ。


目を瞑っていても隣に愛猫である『しゃもじ』がいるのが解るのは、彼の尻尾が俺の顔をくすぐっているからだ。


朝に俺が寝返りをうつ。それは彼が行動を始める合図。


俺が起きる事、それは彼が待ちに待ったお楽しみである『ご飯タイム』だと理解しているからである。


うちの猫が居れば目覚まし時計は要らない。


夜明けと共に、彼は俺の顔に乗る。


それでも起きなければまずは足の指、次に鼻を噛む。


それでも駄目ならば、彼の鋭い犬歯が俺の耳の閉じかけたピアスホールを抉じ開けるのだ。


そうまでしてようやく目を開けた奴隷……基、飼い主が俺だ。


重い瞼を上げると、いつもの様にしゃもじと、真っ青な草原が広がっているのが見え……。


………………え……草原?








まず初めに断って置く。


俺は生粋の犬好きだった。


俺が小学生だった時分に、親戚が旅行に出掛けるというので犬を預かった。


何故かそのままうちの犬になり。


友達と遊ぶよりも、勉強するよりも、スポーツをするよりも、何よりも犬と一緒に居る事を選んだ。


「うちの犬の方がかわいいんだからな!」と、同級生とケンカしたりもした。


そんな生粋の犬好きは猫が苦手であるという推論は、おおよそ間違ってはいないと思う。


事実、俺は猫が苦手だったし、俺の周囲の犬好きもそうだった。


ーーーそんな俺が猫を好きになった理由。それは単純に猫を飼ったからである。




今から6年前の事だ。


俺は何気無く立ち寄った大型ショッピングモール内にある、ペットショップのケージに入れられた猫に見惚れてしまった。


それまで頑なまでに犬好きだった俺の21年間を覆す出会い。


耳が反り返り、赤みを帯びた黒と灰色の体毛に包まれた、くりっくりの丸い目をした子猫。


『アメリカンカール』と書かれた値札には、会社勤めを始めて間もない俺の2ヶ月分の給料でも足りない額が掲示されている。


俺はペットショップが嫌いだった。動物を見るのは好きだから、冷やかしには行くが『生き物を買う事』にとてつもなく抵抗があった。


そんな葛藤をしながら目の前の猫に見惚れていると、店員がその猫を抱いてきやがったんだ。


そんな目敏い商売人が俺の腕に猫を乗せてから、満面の作り笑顔でゆっくり語りかけてきた。


「月々でのお支払も可能ですよ。」


―――それから先はあまり覚えていない。


気が付いたら大量の猫グッズと共に、ペットショップに居たはずのその可愛らしい猫が俺の家に居た。


幸い父が道楽で買った一軒家に一人暮らしをしているので、猫を飼うには丁度良かった。


仕事で家にいない時間が多い中、犬を飼うのは厳しかったし、一軒家に一人暮らしというのは思いの外寂しいものだ。


早速大きな袋と段ボールに入った猫グッズを取り出し、その中にあった猫じゃらしのような玩具を振ってみた。


―――じゃれるじゃないか。


前足で申し訳なさそうに肉球を上に向かせながら、掬うように下から上へと玩具を弄る猫。


まるで炊けたご飯を混ぜる時のように懸命にじゃれている。


後で知った事だが、この様に遊ぶ猫は珍しいらしい。猫パンチと言えば上から下に降り下ろす、またはサイドから回し込む猫フックが一般的だ。


「決めた。お前の名前は『しゃもじ』だ!」


俺が突然発した言葉にビクッとする『しゃもじ』。


そんな姿もとても可愛らしく、心の底から虜になるまでそう時間はかからなかった。


それから、しゃもじとの遊びに夢中になり過ぎ、寝るのが遅くなってしまう毎日を送る。


そのツケが回って来るのは当たり前で、仕事に遅刻するようになり、ついに解雇されてしまったのは2年前。


今はバイトで食い繋いでいて、今日も朝早くからバイトのはずだったのだが、どうも様子が違っているみたいだ。






朝、いつもの様にしゃもじのぷにぷにの肉球の感触を顔で感じる。


それでも中々起きない俺の鼻に噛みつくしゃもじ。


痛みで目を覚ますと、強い太陽の光に眩む。……寝る前にカーテンは閉めたハズだが。


いやいやそもそも俺の部屋は午後にならなきゃ陽は差し込まない。


違和感を感じながら上体だけ起き上がり、しゃもじの背中を撫でるが。


目の前の光景はまだ夢の中に居るのだと錯覚させた。



ーーーー家がないのだ。


それ所か何処までも続くであろう真っ青な草原の中に、ポツンといつも寝ている布団だけが敷かれていて、その上に寝惚け眼を見開いた俺と、ご飯を求める上目遣いを俺に向けたしゃもじが居る。


……とりあえず二度寝しよう。と決意して布団に潜り込んだ俺の足をしゃもじが噛みつく。


うん。痛い。とりあえず夢から覚めたようだな。痛いし。


「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや。」


痛みが、しゃもじの手触りが、現実だと知らせてくれる。変わらず真っ青な草原の中に俺らはいる。


緑じゃない。青い草が芝生のように一面に生えている。触ってみても確かに草だ。青いけど。


青い空と青い草が地平線を作っていた。……遠くの方に森が見えるな。


「め~~しぃ~~。」


突然後ろから甲高い声がする。が、振り返っても誰もいない。


「め~~し~~は~~?」


めし?飯か!?……下だ。しゃもじがいる場所から声がした……?


「めし~~。はらへった~~。」


待て待て待て待て待て待て。痛みを感じるタイプの夢かこれは。


「しゃもじ……?」


「なに?……いいからめし!!」


間違い無く喋っている。鳴き声そのままの甲高い声だ。


……とはいえ口が動いている様子がない。俺の脳に直接話し掛けている、そんな印象を受けた。


とりあえず枕の下に仕込んで置いたラップとビニールに包んだドライフードをしゃもじに与える。


皿は……ないな。まぁいいか。


朝ギリギリに起きる俺はいつも、寝る前に枕の下にしゃもじの朝ご飯を仕込んでから寝ていたので助かった。


うちの猫はお腹がすいてると際限無く要求吠えするからな。





ドライフードにがっつくしゃもじを見ながら、何でこんな事になっているのか、状況を整理する。


……昨日はバイトから帰って来て、ちょっとしゃもじと遊んでから、自分の飯を作り、しゃもじと共に夕飯を食べようとリビングに行った。


リビングのテーブルに何故か、中華レストランの厨師服のような白い服を着た、如何にも中華レストランの料理長です!と言いたげなふくよかな腹をしたおっちゃんが座っていた。


目は細く垂れていて、終始笑っているように見える、七福神にいそうなおっちゃんだった。


玄関の鍵は閉めてるし、まぁ妖怪ぬらりひょん的な感じか、と受け入れてしまっていたけど、今考えたらオカシイよな!!


いや何でその時受け入れたんだ俺は!?


俺の作った飯を勝手に全部食ったおっちゃんはブツブツと何か言ったな。「汝……いこっか?」とか何とか。


……まさかアイツが何かしたのか……と考えていたら、さっきまで誰も居なかったハズの目の前にそのおっちゃんが立ってるし。


俺はまだ布団の中で上体だけを起こした姿勢でいる。隣では突然現れたおっちゃんにびっくりして目を見開いてるしゃもじ。


「私は食の神、プウ。」


はぁ!?蜂蜜でも食ってろよ。


「蜂蜜は好きだ。」


マジか!?ってか心読んだの!?


「心ぐらい読める。神だし。で、この世界は初めてだよね?」


「初めてだよ!?『当店のご利用は…』みたいに言うな!!ってか何なの!?」


「汝…昨日『猫が喋れるようになって欲しい』って願ったよね?」


……確かに昨日「願い事が叶うとしたら何が良い?」

って聞かれてそう答えたわ。


「それで、代償は『死ぬ以外なら可。』って言ったよね?」


……あぁ。確かに言った。


「ってな訳で、この世界で料理を作ってもらうよー!まぁ厳密に言えば猫が喋ってる訳じゃないけど、ちゃんと対話出来るでしょ?」


何だそりゃ!?


「何で!?何でわざわざ料理を作る為にこんな事になってんの!?」


「ただの料理じゃないよ。霊力がみなぎる料理だよ。」


「……霊力!?あれか?霊的な何かと闘う為の、『喝ーーっっ!』的なあれか!?」


「いやいや精霊の力を借りて人が特別な能力を使う為に消費する体力みたいなものだよ。霊力の器の大きさは、個体によって生まれつき決まってるのね?そんな器を大きくしたり、伸ばしたり強くしたりする料理だよ。猫と対話出来るのも、その霊力のおかげって訳!」


「そんなん出来ねぇから!大体お前が食ったのも極普通のトンカツだったろうが!?」


「いやぁ……昨日のトンカツは絶品だったよぉ。食の神を驚かすなんて凄いんだからぁ。」


「あ……ありがとう。じゃなくて!!そんなん作れないって!!」


「汝には神の霊具を授けといたから~。それで普通に料理すれば霊力がみなぎる料理になるし、狩りにも使えるよ!」


「は?」


そういえば服装が変わってる。目の前のおっちゃんと一緒だ……うわぁ。厚手の白いワンピースみたいで、スリット入って黒いズボンがのぞいてる。中華料理屋の厨房服だ。


そして腰のベルトの左側に、幅が15センチ、長さ30センチぐらいの白木で出来た鞘に、柄の部分にサラシが巻いてある木刀のようなものが刺さっているのに気がついた。


こんなのが腰にある状態で良く寝れたな俺。


『霊具』……ちょっとカッコイイじゃないか。期待しながら鞘から引き抜くと。


……しゃもじ、だな。何だったら木ベラとも呼べる40センチ程のしゃもじ。またややこしい霊具をくれたな……ってかしゃもじかよ!?


「……いやってかしゃもじじゃん。せめて包丁とかさ……。」


「なに?なに?まためし?」


……今はお前の話じゃない。ややこしいから、これは杓子しゃくしと呼ぼうか。


「その霊具凄いから!絶対に壊れないし汚れないし、持ち手の思いに呼応して姿を変えてくれたりするんだよ!」


ほう。そうなのか。


試しに包丁になれと思ってみたら、確かに杓子は包丁の形になった。


……40センチは、でかすぎるな。と思ったら18センチの家庭用包丁のサイズに縮んでくれた。便利じゃないか。


……ただ材質はそのまま。切れるのかこれ。どう見ても木だし。


「いや木じゃないよ!?もの凄い霊力を蓄えた神木だよ!ちゃんと切れるし、鍋にしても燃えたりしないんだってば。」


プウが補足した。心読まれるのって結構気分悪い。と、また読まれたか?プウが俯いてしまった。


「……ごめん。まぁよろしくね。当然汝の契約精霊はその猫だから、まず死ぬ事はないよ。」


プウの姿がぼやっと曖昧になり始めた。……消える気か!?


「え?いやいや待て待て。契約精霊って?どこ行けばいいの?狩りって?霊力ってどうやって使うんだ?」


プウは俺の言葉を無視して、しゃもじを見る。


「しゃもじくんだっけ?…あれ?汝の名前何だっけ?……まぁ彼をよろしくね。私は長く現世に留まれないのだ。」


「まかせろー!」


尻尾を高々と上げて応えるしゃもじ。そのまま煙のようにプウは空気に霧散していった……じゃねぇよ!!どうすんだよこの状況!!


「しゃもじ……?」


「ん?なんだ?めしか?」


「そればっかだな!この状況が何だかわかるのか?」


「しるかー。」


「まかせろーって言ってたのに!?」


「まかせろー。」


まぁそうだよね。基本的にバカだもんなこの子。俺がしっかりしなきゃだな。


…………とにかく食い物と水は必須だよな。


いやしかしここの食い物って何だ?というよりここは何処だ?真っ青な芝生とか見た事ないけど……。


今が朝という事だけは解るけど、何時なんだろうか。


朝飯位は我慢出来るけど、流石に何日も飲まず食わずっていうのは経験がない。


しゃもじの飯が一番心配だ。キャットフードとか売ってたとしても金無いぞ?そういえば財布とか……は気にしたらダメだよな多分。


……そういえばこの杓子は狩りにも使えるとか言ってたな。


杓子を鞘から抜いてそんな事を考えていたら、形状が矢に変わる。


弓は!?用意しろと!?いやいやまず無理だよ狩りとか。俺、動物殺せる気がしないんだけど!……でも食う為だから覚悟決めなきゃだよね……。


ふと横のしゃもじに目をやると排便の真っ最中だった。……布団に。


「おまっっバカしゃもじ!!そこ布団だぞ!?」


制止の言葉を無視し排便を終えるしゃもじ。例に漏れず本能的に出した糞を隠そうとして布団をかく。無論隠れる訳がない。


「でーーたーーーーー!!」


猫は排便をすると、テンションが上がって走り回る。これは野生の本能が残っているからだそうだ。


排便時は動けない故に外敵から襲われる可能性が高いが、まさか巣穴を汚す訳にもいかないので外でする。そして排便終了と共に、全身全霊を込めて巣穴に逃げ込む、という習慣がそうさせているらしい。


見える範囲……とはいえかなり広いが、草原を叫びながら走り回っているしゃもじを見ながら、俺はゆっくりと布団から立ち上がった。



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