8話 平和に暮らしてるだけだと思ってみてる
☆27日目
そうだ、フィギュア作ろう!
さっき京都行こうくらいのノリで思いついたのはそれだった。
唐突すぎる?だって洞窟が前も中も殺風景なのが気になってきたんだもの。仕方無いじゃん。
同じ三次元でも生身じゃなければ問題無いし、インテリアとしても(俺が)楽しいものだし。誰に理解されなくても俺の気持ちは渡辺流星さんなら判ってくれるはずだ。あれほどの猛者なら確実に・・・。
それに、まだジョジョは眠ったままだしダンジョンの拡張も終わってるから他にするべきことも無いし、構わないだろ。
なんかそう考えたら、自然と頭の中にワイヤーフレームっぽいものが浮かんできたわけなんだが、なんぞコレ?
いつの間に正義の味方スキルを手に入れたんだろうか?
・・・ま、いっか。解析じゃなくて設計みたいだから違うっぽいし。この程度でアタフタしてたら、触手になった時点で完全に人生が『詰み』になってただろうし。
ものは試しでとりあえず、洞窟の外で土をこねて小山を作って石化させると、それを設計図通りにドリルで削っていく。
考えてみれば俺って彫刻とか初めてだったはずなんだけど、不思議と触手が動くな~。しかも、設計図通りに一分の狂いもなく。
あれか。眠ってた才能が開花したってことか?この前狙われた弓矢が実は隕石で出来てたのかもしれんね~。
王には王の、料理人には料理人の適材適所があるなら、俺のはコレなんだろうか。前世じゃ知らんままだったけどさ。
まずは大雑把にポーズを決めて削ると、そこで次にどうするか考えてみる。
う~~ん。とりあえず、モデルはこの前見た調教ゲーのヒロインっぽい美人さんにしよう。怒られると嫌だから、顔は多少変えるけど。
そんで、鎧を着て、剣を構えさせてみたらどうだろ?
そこまで考えると、また頭の中により詳細になった設計図が浮かぶ。うん、便利だこれ。
彫刻ってのは最初から彫るべき形が素材の中で決まってるのサッ!歴史上の偉人もそんなことを言ってたような気がする。
そうして1時間もすると、完成。タイトルは『勇ましく前を見つめた重装甲の女戦士』だッ!・・・ビキニアーマーじゃないところは単純にイモ引いただけです。
どっちかっていうと、そっちの方が良かったんだけど・・・。とりあえず、髪をクルクル巻かせたのが精一杯でした。
しかし、1/1フィギュアの原型を作る手間としては、ありえないくらい短時間だな~。しかも、完成度もかなり高い。今にも動き出しそうな生命感?だか躍動感だかがあるっぽいし。
じっとフィギュアを見ていると、なんだか心の奥が暖かくなってきたような気がする。そう、この気持ち、まさしく愛だッ!
ふふ。他にもアイディアは『跪き懸命に祈る女僧侶』とか『杖を持った魔女』『冷たい目をした魔族の女』なんかもあるぜ!
・・・とりあえず、全部作ろう。
材料はいくらでもあるし。ホラ、あって困るモンでもないし。
誰に言っているのかよく判らない言い訳をすると、俺は再び作業の手を動かせ始めた。
☆28日目
洞窟の外が1日で随分にぎやかになったが、今日はどんなフィギュアを作ろうかと考えていると、ジョジョが目を覚ました。
それはいいんだけどなんかやたらと怒ってるように見えるのは気のせいだろうか?
思い当たる部分が無いでもないので、とりあえずコンタクトを取ってみるべきか?
・・・けっして忘れてたわけじゃ無いヨ?ただ、今朝はご飯一人分だけしか作らなかったし、俺もお腹空いてたし。
弁明しようとするが、問答無用!と言わんばかりの勢いでジョジョが俺に飛び掛ってくる。俺は洞窟の中だったせいで、逃げることも出来ずに、体当たりを食らう。
そこまで怒るほど空腹だったんだろうか。
しかし、うう、痛い。なんでこんな元気なんだよ。まさか波紋で回復してやがったのか?
しかも、それだけでは飽き足らず、ジョジョは俺の触手に噛み付いてくる。
だ、大丈夫だ。俺には固有スキル:カリスマAがあるはず。
ほら、怖くない。怖くない。ほらね、怖くない。
ねっ?怯えていただけなんだよね?ウフッウフフ。
・・・うん。だからさあ、いい加減痛いから。痛いし血も出てきてるから。離してくれよ。
風の谷の姫っぽく言ってみたが、ジョジョの噛む力は弱まらない。むしろ強まってる。そろそろ肉が噛み千切られそうだ。
痛い痛い痛い!マジ痛いって!助けてユパ様ァ―――――――ッ!
しかしモヒカンは近くにいなかった!
本日の教訓:ペットにはリードをちゃんと着けましょう。
考えてみると色々とヤバい状況だが、段々ムカついてくる。なんであんなに治療してたのに、一回ご飯忘れたくらいでここまでされるんだ?
俺はあんたの母ちゃんですかッ?チャーハン作れなきゃ用無しですかッ!?
意味不明な怒りと共に噛まれていた触手をフルスイングすると、ビタン、と音をたててジョジョを振り落とす。
うわ、痛そうな音。痛みが消えたことで素になるが、既にジョジョは壁にぶつかった後だからあとのまつりだ。
しかも一瞬目を回していたようだったが、すぐに起き上がる。そうして、今のうちに逃げるべきかどうかを考えてる俺の傍に今度はのそのそと歩いて近付いてきた。
どうするつもりだ、と考えているとジョジョは今度はさっきまで噛んでいた触手の傷を舐めている。
・・・・・・もしかして、コレはアレか?
敵対的だった奴が、頭を強く打ったことで一転して友好的になるっていう・・・、伝説の、カカロット症候群かッ!
まあ、こいつも猿だし共通する部分もあったかもしれないな~。
とりあえず触手を舐め終わったジョジョを身体の上に乗せると、洞窟の外に出る。
ジョジョは不思議そうに昨日作った12体のフィギュアやら羊漢たちを見ていたので、桶から水を鍋に注ぐと、もう一回料理を作り始めた。
山菜のスープが出来ると、お椀によそって渡す。最初はそれを見てきょとんとしていたが、俺が触手であおるジェスチャーをすると恐る恐る食べ始めた。
空腹もあったのか、すぐに1人前食べてしまうと日向で寝転がる。う~~ん、自由な奴だな~。
爺さんの方の孫悟飯さんもこんな気分だったんだろうか。
とりあえず、今日はフィギュア造りは止めておこう。作業に熱中しすぎて放置したせいでまた噛み付かれたらかなわんし。
機嫌を取っておいた方がいいのかね~?
洞窟の中の保存庫から紅バナナを取ってくると、ジョジョに渡してやる。ジョジョが不思議そうにそれを見ていたので、仕方無しに俺が食べ方を実演。毒が無いことが判ると、遠慮無しに食べ始めた。
やっぱ猿にはバナナがいいのか、次から次へと食べている。
このペースで食べられると、すぐにまた取りにいかないといけなくなりそうだ。面倒くさいので、本人に取りにいかせようかな~。
そんなことを考えながらジョジョの隣で寝転がる。まだ日が高い時間帯だから、草のベッドも寝心地が良い。
幸い、と言うべきかジョジョは羊漢たちとは違ってツンデレじゃないみたいだから、俺の言うことも聞いてくれるだろう。多分。恐らく。
そうしてひとまずジョジョに話しかけようと横を向くと、そこには白い猿はいない。
あるぇ?
いつの間に?と首を捻っていると、「ウキャアッ!」と声が聞こえる。
ああ、物珍しくてその辺を見てたのか、と思って振り返ると、そこには地獄絵図があった。
・・・・・・ジョジョさん、柵の中で両手に一匹ずつ鳥の脚を持って逆様にぶら下げてるのはなんでなんですかネ?あと、羊漢の背に乗って猛烈なスピードで走らせてるのは何故なんでしょうかね~?
さらにその手前に見える砕けた石の塊は、なんなんだろうネ?
俺にはさっぱり理解できないヨ?
・・・もしかして俺の力作の成れの果てなのか?あはははは。まさかな~。そんなことはあるはずが無いよな。うん、無い無い。ジョジョがいきなりそんなことする理由が無いもん。
とはいえ、とりあえず自分を落ち着かせる意味でフィギュアの数を数えてみよう。ええと、1,2,3・・・9。
・・・おかしいナ。12体あったはずのフィギュアが、なんか9体までしか数えられないよ?
ああ、そうか。蜃気楼か。俺は幻を見てるんだね。そうだね。そうに決まってる。・・・段々自分を誤魔化すのが難しくなってきたから、そろそろ現実を見るべきだろうか。
羊漢や鳥の悲鳴も聞こえるし、見たほうがいいのかもしれないな。
とはいえ。それには、まず精神的苦行を行う必要があるんだけど。
ああ、ヤダなぁと思いながら視線をむけると、やっぱりそこには粉々にされた石像・・・いや、フィギュアがあった。
・・・なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!?俺の『フィギュア』が『フィギュアだったもの』にいいぃぃぃ!!!
ジーパン刑事の最期並に衝撃を受けているんだが、しかし下手人はまだ柵の向こう側を爆走してる。つーかあの短時間で3体も壊したのかよッ!
う~ううう、あんまりだ・・・HEEEEYYYY!あんまりだァァアア!
俺はあまりのショックに腕を切断された壁の男みたい慟哭するが、当然ジョジョは気づかない。
野郎・・・!
何の恨みがあってアスタロット(女魔族)とミント(女僧侶)とティファ(女格闘家)に手を出しやがったあぁぁぁぁぁぁッ!?
怒りの化身と化してジョジョを追い始めると、奴は俺に遊んでもらっていると思ったのか、鳥と羊漢は放したものの、今度は柵の外に逃げていく。
待てやゴルアァァァァァァァァァ!
貴様はッ!やってはならんことをしたのだということを!たっぷりと教育してやるうぅぅぅぅぅぅッッ!!
完全に頭に血が昇った俺と、ジョジョとのチェイスは実に1時間に及んだ。
脚の速さは俺の方が上のはずだが、木を使って三次元的に逃げられるせいで、中々捕まえられなかったことが、そこまで長引いた原因だろう。病み上がりでここまで逃げることが出来るジョジョが凄いのもあるんだろうけど。
どうにかジョジョを捕まえると、次はどんな遊びをするのかキラキラした目でこちらを見ている破壊魔を、どうやって恐怖に染め上げるか思考する。
カベルナリアか、あるいはタランチュラか、それともロメロスペシャルか。
考え込んでいると、ふと何かの音が聞こえた。この森に俺たち以外に何かいたっけ?と思って振り返るが、色々と遅かった。
「だからさ、アリアの奴最近生意気だからさ、一回痛い目を・・・」
「止めとけって。お前この前もそんなこと言って洒落にならないことになりかけたんだからさ・・・。」
「ベリスに同感だね。今そんなことをしてる余裕があると思ってる時点でクルドは状況を見る目がないと思うよ。」
ぱきり、と木の枝を踏み折って出てきたのは、金髪イケメンの3人組だった。タイプもそれぞれ正統派とクール系、ショタ風と分かれているし、こんな場所で何をしてるんだろう?
何故か見てるだけで呪詛が浮かんでくる見た目のそいつらは、俺の方を見て口をパクパクと開けている。
それに対する俺は突然ここまで人が近付いた緊張のせいで、動くことが出来ない。コミュ能力が低い者にとって5メートル以内に他人がいるという事実は辛い。かなり辛い。
新聞勧誘には毎回居留守を使ってた俺のメンタルの弱さを舐めないでもらいたいねッ!正直、今すぐ逃げたいがこんな時に限ってガチガチになった触手は動かないし。
てかどうする?どうする?下手すりゃここで殺されるぞッ!!?
考えろ、考えろ。・・・いや、前回それでどうにもならなかったし。それに、先人もこう言ってる。「Don't think,FEEL(考えるな、感じるんだ)」って。そのアドバイスに従って現状を感じてみる。相手は3人。こっちは非戦闘員の俺とジョジョ。うん、無理。QED。
結局何も変わらないまま、緊張感だけが大きくなっていく。
「・・・どうするリーダー?とりあえず俺は逃げに一票。」
「武器はほとんど無いんですから、戦うんならリーダーだけでどうぞ。僕も逃げに一票。」
「おい、お前らッ!・・・オレを置いてくなよ!多数決だからなッ!仕方無いからな!」
何かを早口で相談した後、3人はそれぞれの方向に走り去っていく。
なんだったんだろ、あれ?はぐれメタルごっこ?
ジョジョの方を見てみるが、奴はアメリカ人並みのリアクションで肩をすくめただけだった。なんかリアクションがやけに人間くさい奴だな。
とりあえず、お仕置きとかの気分じゃなくなったし今日はもう帰ろうか。
そう考えてジョジョを身体の上に乗せると、俺は洞窟に帰ることにした。