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5話 触手のなにがわるいんだ

☆17日目


今朝気がついたんだけど、鳥たちが卵を産んでたみたいだ。



放牧するために小屋の扉を開けたんだけど、一向に出てこない奴がいたから調べてみたら、中に敷いた枯れ草の中で卵を温めてた。



確認しただけでも、五つもあった。早速卵かけご飯・・・は無理だから、ゆで卵にしようと思ったんだが、子供を必死で守ろうとする親鳥の眼光と、あと主に俺の血で汚れた(くちばし)が原因で断念することに。



だって前からは母鳥、後ろからは間男を見つけたような勢いで父鳥の嘴が炸裂するんだぞ?



全身から緑色の血を流しながら退散する以外に俺にどうしろと。



しかし、ただ負けて逃げるだけじゃ俺のプライドに傷がつく。もともとあるか無いかもよく判らないものだけど。捨て台詞くらいはしてやろう。



―――――――フン。今回は見逃してやる。だが、覚えておくがいい!光があるところには必ず闇があるものだ・・・。次は、次こそは必ずやゆで卵を・・・・・・あ、痛い。痛いって。マジ痛いから。突っつくなよ。もう小屋から出てるじゃん。あ、イヤ、ちょっ、ごめんなさい。本当、ちょっと調子に乗ってたっていうか・・・。



再び全身から緑色の血を流す俺。鳥たちの容赦無い追撃は俺が柵から出て行くまで続けられた。



(ちな)みに全身の痛みが引くまで数分かかった。いつぞやの熊の咬み傷が数秒で治ったことを考えると、その威力の高さが判る。



俺の戦略的撤退はベストな選択だったと言えるだろう。むしろあんな危険な場所に身一つで入っていった自分の勇気を褒めてやりたい。



それに親から子供を取り上げるのも可哀想だからな。今回は見送って数を増やすことから始めよう。・・・別に、嘴が怖くて諦めたわけじゃないんだからなッ!



自己欺瞞(じこぎまん)は完了。



うん。やっぱり妥当な判断だ。



誰にとも無く言うが、当然返事は無い。



さて、気を取り直して今日は魔法の練習でもしよう。ダンジョンは昨日で一応の完成はしたし。



―――――上下10階層の、洞窟型ダンジョン。



内部に敵モンスターはいないが、構造が異常に入り組んでおり、ひたすら複雑で広大。宝箱等は一切無く徒労感だけが溜まるし、見取り図か、実際に掘った俺みたいに感覚で構造を覚えてないと、まず確実に迷う。



しかも、俺は最下層の大広間の天井裏に隠れてる。空が飛べるか、俺みたいに物理的に天井に空いた穴に届かない限り、入りようが無い。いや、それ以前に天井の穴に気付かない限り、見つかることも無いだろう。俺が隠れ次第、その穴の蓋も閉めるし。



そうして秘密の抜け穴から逃げ出した後は、洞窟の通風孔の前で生木に着火。勇者たちは内部に流れてくる煙の勢いに慌てて洞窟から逃げてくる・・・って寸法よ!



多少(けむ)いかもしれんが、不法侵入者にそれだけで許す俺の寛容さに感謝するんだな!



・・・ふははははは!我ながらなんて完璧なプラン!



え?正々堂々と戦わないのかって?



勝てばいいんだ何使おうが勝ち残りゃあ!!世紀末兄弟の三男もそう言ってるし!



実際、死んでまで守りたいポリシーもないしな~。



出来るとは思わないけど、殺すのも俺の精神衛生上、NOだし。



それに人間、生きててナンボでしょ。あ、お前触手だろっていう突っ込みはナシの方向で~。



そろそろ今日も魔法の練習をしてみるかね~。




☆18日目


珍しく、というのもアレだが、昨日の魔法の練習は全く進展が無かった。



成長現界に達したのかと思ったが、転生して一月と経たないうちに成長が止まるってどんだけ速成栽培なんだよ。



やり方が間違ってただけだと思いたい。



でないとこれから先、何回命が危なくなるのかも判らないのに、基本、戦闘に使える魔法がkill(殺るか) or die(殺られるか)だけのヤバいのオンリーになる。



出来ることならそれは避けたい。ガチで誰かとやりあうことになっても勝てないだろうし。



俺の基本はアウェー&アウェー。ともかく逃げて逃げて、相手が呆れるか諦めるくらい逃げ続ければ、怖い思いをする必要もないのさ!



下手に攻撃(ヒット)なんて考えてたら相手から痛い目に合わされるだけだしな!



とはいえ、現状逃げたり防御したりするのに適した魔法は覚えて無いから、どうにか習得したいもんだ。



そのための魔法の練習なんだが・・・、やっぱり今日も進展が無い。今までの経験上俺が強く何かを思うと、それに応じた魔法が出るみたいなんだが、さっぱり何も出てこない。



目ビームのときみたいに、触手を的にしたりんごもどきに向けてるが、一向に何も出てこない。



たしかに何かが出そうな雰囲気はあるんだけど・・・。



う~ん、強く考えても、『なんか出て来い!』じゃ具体性に欠けるのかな~?



イメージ、そうイメージすることが必要だ。ただ闇雲に命令するだけじゃ意味が無い。最強の自分を常にイメージしろ。赤い男前もそう言ってる。



出す?・・・出すためには何をする必要がある?魔法が出てこないっていうなら。



引っ張る・・・じゃない。



もぎ取る・・・でもない。



押し出す・・・・・・、これだ!



連想するイメージはところてん。あるものを後ろから押し出して形にする幻想。



出ろ、出る、出す、出れば、出るとき・・・!



そして俺の身体からは毎回唐突に出てくるあの光が・・・・・・・・・あれ?



出てこないよ?いや、今一瞬だけ出たような気がしたんだけど、いままでみたいに長続きせずに、すぐに消えたみたい。



・・・ところてんが拙かったのか?やっぱ定番のかめはめ波の方がよかったのか?



そう考えてると、触手の様子が少しおかしいことに気付く。



なんていうか・・・、俺の触手は普段から粘液に覆われてて、ズルズルとしてるんだけど、それが10割~15割増しされたっていうか、もはや液を(したた)らせるレベルだな、これ。



もしかして・・・と思って垂れている液を木に(なす)り付けるが、変化はなし。



・・・エイリアン先輩みたく強酸性ってことはなさそうだ。



まあ、そうなると逆に不便だったから良かったかもしれないけど・・・・・・、ってちょっと待て。



ということは、まさかこの魔法?の効果は粘液の分泌を良くするだけ?



・・・え、マジで?



はあぁぁぁぁぁぁぁッッ!!?



何の意味があるんだよ、それッ!?



効果は触手の見た目のキモさとズルズル感を向上させるだけ!



もしくは滑りをよくするんだろうけど、ドコでナニをするためなんだよ!?



さらに外見がもはやモザイクが必要な有様になってきてる。お茶の間に流したら確実に放送事故レベルだよ、これ。



助けを求めて羊漢たちを見るが、そろってこちらに尻をむけている。



ならばと正面に移動すると、今度は全員が他の方向に向きなおった。



・・・・・・ツンデレなんだよな?信じていいんだよな?



最近段々自分で自分を騙してるような気がしてきてるけど、気のせいなんだよな!?



聞きたいけど、聞けない。俺は最後の最後には必ず安全牌を選ぶタイプだから。



世間ではヘタレと呼ばれるタイプですね、わかります。



今日はもう休みたい。全身○ーションまみれだし。




☆19日目


目が覚めると、○ーションまみれだった。



いや、魔法の効果が切れてないだけか。しかし、自分の身体ながら、気持ち悪い。



最低の目覚めだ。前世で寝ゲロしたときよりも精神的のくるものがある。



保温性なんかは高いみたいだけど液体でありながら、水とは違った粘性があるというか。



とりあえず身体の表面についている感触はあまり良いとは言いづらい。物を掴むときも、滑るから不便だし。



洗い流すために行水しようかとも思ったが、なんか川の水がやけに冷たいんだよな。



時期的なものか、場所的のものかは知らんけど。



風呂があればいいんだけど、無いしな~・・・・・・って、自分で造ればいいじゃん。



とりあえず今日は風呂を造ろう。



一番簡単なのは、やっぱり五右衛門風呂だろうか。土をいじって木で底蓋を作ればいいだけだしな~。



そう考えて、まずは土の山を作り始める。直径1,5m、高さ1,5mくらいか。あんまり大きいと、燃やす薪が多くなるからね~。



そうして山が完成したら、目ビームで軽くまわりを石化。それを裏返せば、俺が入ることが出来るくらい大きな鍋が完成だ。形は円柱に近い。あとは、その下に専用のかまどを作ると、やっぱり目ビームで壊れないようにコーティングする。



底蓋はその辺の木を倒して削り取ってきた。ドリル触手まで○ーションのせいで滑りそうになっていたのには参ったが。



風呂が完成すると、今度は水を入れてかまどに火をつける。



あらかじめ乾燥させてあったお陰か、いつかのキャンプファイアーみたいに煙が出過ぎることも無い。



しばらくして、中身がお湯になってきたら、風呂の(へり)を持ちながら、中に入る。少し熱い気もしたが、中々気持ちがいい。○ーションも落ちてるみたいだし、造ってよかった。



そういえば、風呂に入るのも久しぶりだ。普段は粘液が表面についてるお陰で汚れも気にならないんだが、せっかく造ったんだし、これからは使っていくことにしよう。



やっぱり日本人は暖かい風呂じゃないとな~。



景色も中々良いし、鼻歌も出てくる。



・・・実際に俺の喉から出てくるのは相変わらず珍妙な唸り声だったけど、そのときの気分は悪くはなかった。




☆20日目


今日は果物がそろそろ少なくなってきたから、散歩がてら木のところまで取りに来てたんだけど・・・。



あわわわわわわわわわわわわわ!



どうしよう、どうしよう。



来た。来たよ。人間が来た。っていうか、待ち伏せされてた!



なんだよ、この超展開!?



いや、フラグは立ってたんだけどさ!



シリアスは無理だって言ったじゃん、俺!



どうする?どうしたらいい?追っ払うにしても、数が多い。むしろ逃げたいけどそれも出来ない。



10人て。なんでこんな弱小触手を相手に、そんな数をそろえてくるの!?前回は4人だったのに!



それに、普通、パーティーは3~4人だろ、常識的に(J)考えて(K)!!残りは馬車の中とかで待ってろよッ!



しかも、それぞれ弓矢とか短剣を持ってる。



ヤバイヤバイヤバイ。殺る気は満々だッ!



ダンジョンを使おうにも、今俺は果物を拾いに来てるから、無理だ。



逃げようにも囲まれてるし!



うわ。どうしよ、どうしよ、本当にどうしよ。汗まで出てきたよ。



触手が余計にズルズルになってきたし。また風呂に入らないと。



待て。テンパるな!考えろ。考えろ、マクガイバー!見たことないけど!



これは問題だ!この囲まれた状況から、どうやって逃げ出す?



3択――― 一つだけ選びなさい。

答え①(ある意味)ハンサムの触手Aは突如逃走のアイディアがひらめく。

答え②やっぱりツンデレだった羊漢や鳥達が来て助けてくれる。

答え③逃げられない。現実は非情である。



俺が○をつけたいのは答え②だが期待は出来ない・・・。悲しくなってくるけど。涙とか出そうだけど。



しかも・・・、ああ。本当にアイディアが浮かばないし。



ここまでくるとテンパるのを通り越して若干冷静にすらなってきたよ。



う~ん、俺がいる木を中心にして、10人が円を描くように配置されてる。



でも、全員が弓で俺を狙ってるってアリなのか?



外れたりしたら、仲間に当たったりとかしないのかね~?



ん?



あれ?よく見ると、こいつら、耳長くね?



いや、ファンタジー物のエルフほどじゃないんだけど、人間の耳を3cmくらい上に伸ばした感じっていうか。



まあ、それに気付いたからって現状、何の意味も無いんだけどね!



あっはっは。



「――――――総員、構えッ!」



リーダーっぽい美人さんが怖い目をして号令をする。この人もちょっと耳が長い。っていうか、全員がそうなのか。



それにしてもこの人、調教ゲーのヒロインっぽい人だな~。気が強そうだし美人だし。



本人はじっと睨みつけるみたいに見てるけど、そんな恨まれるようなことしたっけ、俺。



・・・今考えてることがバレてるわけじゃないよね?あくまで俺は紳士だから。



・・・・・・って現実逃避してる場合じゃねええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!



どうする?一か八か、魔法を使うか?



でも、どんな魔法を?失敗したら、まず死ぬぞ、俺!



「―――――――放てッ!」



リーダーの二度目の号令。そして放たれる矢。



ちょ、ま、せめて辞世の句くらい考えさせろよッ!



思わず目を閉じる。



今度生まれ変わったら、自転車のサドルになりたい・・・・・・、あ、男用だったら地獄だな、それ。



え~と、え~と、それじゃ、ブラとか。でも男用はカンベンな!



・・・ん?



なんか痛くないんだけど。



「馬、馬鹿な・・・!矢が効かないだとッ!」



リーダーがなんか焦ってる声。あれ、まだ俺生きてんの?



目を開けると、正面でリーダーの人がなんか驚いた顔をしてる。



その視線をたどると、自分の足元に落ちてる数本の矢が目に入った。



どれも(やじり)には血がついてないから、身体の表面で止まったのか?



でもなんで?首を傾げるが、よく判らん。



そもそも見てた方もよく判らんみたいだし。



「―――――――クソッ!総員、退避ッッ!」



リーダーさんが怒りに顔を歪ませたまま、号令を下す。



周囲の奴らは何かブツブツと言ってたが、そのままそれぞれの方向に走っていった。



追っかけられても被害を最小限にする知恵かね~。別に追っかけないけどさ。怖いし。



・・・っていうか、怖かった~~~!



うわ、俺死にかけたよ!



マジでまた死んだかと思ったッ!



へたり込みそう。うわ~~~、本当、助かったんだよな?



良かった。本当、生きてて良かった!



今日は・・・、今日はもう帰って寝よう。本当、疲れた。マジ死ぬかと思ったし。

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