4話 ダンジョンつくってます
☆15日目
見る見るうちに増えていく山菜を見ていると、魔法の反則さがよく判るな。
なにせ、俺がすることは土地がやせたウネに肥料を混ぜた後、山菜の種を植えて水をかけるだけだ。
あとはなんか俺の身体から染み出す緑色っぽい光が勝手にキモい速度で生長させてくれる。その繰り返しで俺の周囲にはすぐに山菜が出来る。開始半時間も経ってないんだが。
食糧危機?なにそれってな具合。
出来上がった山菜は自分が食べる分と種用を残し、残りは刻んで羊漢と鳥達用の餌に。
相変わらずコイツらは俺が近寄ると逃げていくが、餌の入ったバケツには突撃してくる。
ほぼ一日中草とか虫を食ってるのに、そこまで腹が減ってるのかね~?
考えていると、ふと洞窟が目に入った。
そういや、一旦中を拡張してからは全くいじってなかったが、また施設を大きくしてみようか。
既に俺が暮らす分には充分過ぎるくらいの広さにはなっているから単純に暇つぶしのためだ。
暇なものは暇だからしょうがない!!
とある理由があって断念をしていたが、それを解消できる目処もたったことだし。
それに、毎日適度に身体を動かすのは健康に繋がる。前世でも、ひとりでジョギングやら筋トレやらしてたっけ。友達いなかったし。まあその辺は今も変わりないんだけど。
・・・考えないようにしよう。それが誰にとっても幸せな選択だ。
洞窟の中に移動すると、少し入ってから数日前活躍したっきりだったドリル触手を持ち上げる。
一発ネタ?
え、何のことですか?伏線ですよ、ちゃんとした。(しれっ)
まずは、すでに掘った場所の成型から。そう考えて、ドリルを回し始める。
ギュイイイィィィィィィィィィィィンッッ!!!
相変わらずロボの腕についてないのが残念になってくるくらいの回転数だ。
ドリルはガリガリと音をたてて丸かった穴を、四角い通路に成型していった。だいたいの大きさは2,5m×3mくらいか。丁度、俺が触手を縮めなくても楽に行き来できる大きさだ。
1時間くらいで通路と小部屋の成型を終えると、次は別の魔法の出番だ。
そう、石化ビームの。
2日前に覚えたこの魔法(多分)の使い方をしばらく考えてたんだが、ふと、今朝どこからともなく電波がやってきて『別に戦いだけじゃなくて生活に使えばいんじゃね?』とコロンブスの卵的な発想をすることができたのさ!
ありがとう、電波!すごいぞ、電波!
ただ、あんまり頼りすぎると窓に鉄格子のある病院に入院することになりそうだから、それ以降は受信しないようにしたよ。
レオ様みたいにテロとか殺人とかマジ勘弁だし。
気をとりなおし、四角い通路を順次目ビームで照らしていくと、なんてことでしょう!
あんなにでこぼことしていた丸い通路が、コンクリを使ったかのような石造りの美しい通路に。匠渾身の作品です。
ふむ。これで崩落の心配は無えだろ。目ビームで作った石は俺が全力で締め上げても中々壊れないし。
そうして粗方石でコーティングすると、次は装備 触手→つるはしをして、新しい通路を作り始める。
元々が一本道だったから、色々と複雑な構造にしてみよう。下手すりゃ、ここに篭城することになるかもしれねえんだし。
備えあれば憂い無し。例え勇者がくることになったとしても、準備さえしっかりとしておけば、恐るるに足らず!
くくく。
ボスが何処にいるか判らない上、異常に複雑なダンジョンなんて誰も攻略できまい!宝箱も設置しないしな!
電波は俺に柔軟な発想をもたらしてくれた・・・。そう!戦うのが嫌なら、戦わないまま有耶無耶にしちまえばいいんだ!
旨味の一切無い、本当の意味での迷宮・・・。
俺なら、まず放置するね。っていうか、相手しないよね?普通。
そうしてザクザクと掘り進めて行くと、また例の岩が出てきた。
表面には、やっぱり鉱石が埋まってるし。そういや何なんだろ、これ?
前に掘った岩は、面倒くせえから今も小部屋の中に放ったらかしにしてるけど。
う~~ん。そういや、この洞窟って元々誰かが掘ってた跡だったけ?もしかしたら、この岩を採るための鉱山だったのかなぁ。
・・・・・・あるぇ?
それって拙くね?いや、待て。マテマテ。今の俺の客観的な情報を考えてみろ。主に人間とか、人間とか、人間とかから見た俺の像を。
①元々近所の村の住民が掘ってた坑道に棲みついたモンスター。うん、これは間違いない。ってーか、否定のしようが無い。
②見た目的に明らかに人類っていうか女の敵っぽい。・・・うん。これも、仕方無い。ホイミンの一種ですって言うには俺の触手はエグ過ぎる。同じ『ゲーム』でもこっちは「ひぎぃ」とか「らめぇ」が標準装備の18歳未満お断りのアレだし。
③何度か人間が近寄ったが、その度に威嚇してくるから少なくとも、友好的ではない。・・・・・・うん。これも、見かたによっては、仕方無い・・・かも。だって知らない人って怖いんだから、しょうが無いだろ!?
④巨大な木を育てたり、家畜を飼ったりと段々とその縄張りを広げてる。・・・・・・・・・見えないことは無い・・・か?家畜はともかく、樹は付近の名物レベルだからなあ。
以上から導き出される答え→今のところ大丈夫だが、将来的に侵攻してくる可能性を考えると村のためにはいてもらっては困る、つまり居ないほうが良いモンスターということ。
そして、危険なモンスターだと判断されたら、村人か、それに雇われた一行が退治しにきたりするのが普通・・・だよな?
―――――――洞窟の奥で、なんか玉座に座って一行を待ち受ける俺。
―――――――ホイホイと洞窟に入ってきた殺る気満々のご一行。明らかに勝てないし、武器にビビッてヘタレる俺。
―――――――当然命乞いのコンボに「世界の半分をやろう」・・・って俺人間の言葉喋れねえや。そもそも世界征服なんてしてねえし。
―――――――命乞いを失敗した俺に、振り下ろされる伝説っぽい剣。躊躇ゼロの攻撃魔法。
―――――――そして俺は勇者の踏み台へ・・・。
おいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!?死亡フラグいつの間にか立ってるしいぃぃぃぃ!!!
絶望した!自分の立ち位置に絶望した!
俺に、正義のための犠牲になれと!せめて性戯の方が良かったッッ!
それなら、まだ納得できたのに!触手だから!自分の存在意義に関わることだからッ!
クソ!負けん、俺は負けんぞ!
ただ死ぬだけだったらビビるだけだっただろうけど、誰かの踏み台とかは拒否するッ!
アッガイやドムなんてお断りだッ!
・・・だからって戦うのはカンベンだけどな!
だからせめて、複雑すぎるくらい複雑なダンジョンを作って、諦めさせてやるわあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!
☆16日目
昨日、日が暮れてからどうにか正気に戻ったが、気がついたら全5階層のダンジョンが完成してるってどういうことだろう。
とりあえず、ドリルで整地してから目ビームでコーティングしておいたが・・・。
そういえば、また小屋に連れて行くのが遅くなったせいか、今度は羊漢に蹴られるわ鳥共につつかれるわと、容赦無い折檻をされました。
俺のメンタルを慮ったりとかは全く無い、素晴らしい攻撃でございました。普段は餌を奪い合う仲なのに、なんでそんなとこだけ協力しあうんだろ。
だが・・・、知ってるぞ?その行動が、本心の裏返しだってことくらいは。
『忘れられたかと思っちゃったじゃない!ちゃんとお世話してよね!』って言いたいんだろう。本当は。
・・・フッ。ツンデレか。そう考えると、不思議と可愛く見えてくるものだ。
しかし、羊一頭と鳥15羽にいきなりツンデレされるとは、もしかしてモテ期だろうか。触手のモテ期って陵辱物語以外に知らなかったから、新鮮だ。
よしよし。俺はデレるまで気長に待つタイプだから。
じっとりと生暖かい視線を向けると、鳥達も羊漢も視線を合わせないまますぐに俺から離れていく。
・・・・・・ツンデレだよな?
若干不安になってきたが、応えてくれる者はいない。
気をとりなおして、ダンジョンの拡張を再開する。
そういえば、昨日掘った場所だけでも、数十個の岩が出てきたが、あれって結局何なんだろ?
宝石?・・・にしては、俺が住み着いてからものんびりしてんだよな。価値が高いものなら、すぐに排除されてただろうし。
つってもここが鉱山だってことは、多少は価値があるものなんかねえ?
ま、いっか。考えるの面倒くさい。
とりあえず、1つの部屋じゃ入りきらなくなってきたから、別の部屋に押し込んでおく。
また暇を見つけて研磨しておこう。
しいて言うなら毎日が日曜日だけどね!今も昔も!
前世では、よくNEETと呼ばれてました!
違うモン。引きこもりとニートは同じわけじゃないモン。でも俺は両方に該当してたよ~な?
まあいいさ。俺が本気を出すほどの場に恵まれなかっただけだ。・・・・・・と思えたらどれだけ幸福なんだろ。
若干鬱が入りながら、つるはしを持つと、俺は洞窟の地下に潜る。
地下四階までくると、つるはしをふるって土を掘り始めた。昨日は気にしてるほどの余裕が無かったけど、やっぱり簡単に掘れる。
ゴリゴリと掘ってしばらく進んだら、ドリルで整地してから目ビームで固める。その繰り返し。たまに例の岩が出てくる。
そ~いやRPGとかのダンジョンってやっぱ俺みたいな低級モンスターが酷使されて作ってたのかな?
こう、魔法でババッと出来たりとか・・・・・・、無いみたいだな~。
無意識の欲求だったはずだけど、今回はいつも唐突に出てくる魔法の光は沈黙してる。どうやら、ダンジョンを作る魔法は無いみたいだ。
残念。簡単に終わるかとおもったのに。
俺の嫌いな言葉は『努力』と『頑張る』だが、こればっかりは手を抜くわけにはいかない。他でもない自分の命がかかってるから。
地道にやってくしかないだろう。
退治されないうちに。
昼を過ぎる頃には、どうにか8階層まで完成した。鉱石はもう数えるのも面倒くさいくらい出てきている。
どうも深い場所ほど出てきやすいみたいだ。使い道が無いからどうでもいいんだけど。
洞窟から出て、料理の準備を開始。
目ビームで作ったかまどに火をおこし、同じく粘土を石化させて造った鍋を置く。
とりあえず水と灰汁ヌキした山菜を色々、隠し味に羊漢のミルクを少し加える。・・・どうでもいいけど今、↑の表記を途中で切って”漢のミルク”って読むと色々と気分の悪くなる映像が浮かぶのは気のせいだろうか。
名前のつけ方を間違えたかも。
・・・とりあえず深く考えないようにしよう。触手だからってソッチ系までジャンル制覇する必要は無い・・・と思いたい。つーか、ソッチで触手の受容があるのか判らんし判りたくもないけど。ネタとして楽しむ分には構わないが、さすがに実演はしたくないんです。
マジで。マジで。
アッ――――――!
いつの間にか料理が完成してたのでお玉ですくってみる。多少、冷ましてから触手の先から呑むと悪くは無い。
っていうか結構美味い。
料理とか作るの初めてだったけど、案外出来るモンだな。
モリモリと食べる俺の横で羊漢や鳥達も食事をしている。
なんだかのどかな風景だ。
最近、本当に余裕が無かったからなぁ・・・。
そう考えると少し泣けてきた。
さて、ご飯を食べたし、少し寝ておこう。起きたらまたダンジョン建設。十階層もあれば、充分でしょ。