3話 一人ぼっち生活続いてます
☆12日目
果物の木から落ちてた実は、羊漢と鳥たちにやることにした。
俺は大丈夫だったが、正直動物が喰えるか心配だったけど、杞憂だったらしい。
今、奪い合うように全員が果物の入ったバケツに口を突っ込み、貪っている。
こうして見ると、こいつらも可愛いモンだね~。
そういえば、今日はどうしようか。課題は色々とあるが、どれも急ぎじゃないんだよな~。
考えてると、ふと青狸映画の駄目小学生の科白が頭に浮かぶ。
人間が生きていくうえで必要なものは衣食住である、だったっけ。それは俺も変わらないだろう。
生きていく上で必要なものは衣食住。でも俺は触手だから「衣」は必要無い。「住」も洞窟があるから問題無い。だとしたら「食」か。コケから果物にグレードアップしたとはいえ、あまり偏食もよくないだろう。
とはいえどうしたモンかな~。
一昨日のことで、俺の魔法に植物を一気に育てる力があったことは知ってるけど、しかし作物を育てるための肝心の種が無い。
ここから西の集落の人間なら持ってるかもしれないけど・・・。
う~ん、今更交渉なんかお互いに無理だし、そもそも色んな理由でコミュニケーションなんか出来ないし。
だからって短絡的に奪ったりすれば、一気に退治される魔物コースだ。辺境の村を苦しめる悪いモンスターとして、勇者様ご一行の経験値とゴールドに化けることになるかもしれん。
ああ、なんかそう考えると、俺ってどう考えても踏み台なんだな~。ちょっと凹む。
つっても現時点では村人を追い払ったりスレスレのグレーゾーンなんだから大丈夫。・・・のはずだ。っていうかまだ大丈夫だよね?昨日のアレで退治されたりしないよね?
元はあっちが俺の家を勝手にガサ入れしようとしてたんだから、非は無いはず。
むしろ羊漢なんて拉致されそうになってたんだぞ!正当防衛だ!犯罪者に人権なんざ無えって昔の人も言ってたし!
自己弁護をしてどうにか落ち着くことが出来た。
とりあえず、俺に出来るのは襲ってくるかもしれない外敵に怯えるよりは、自分の生活を豊かにすることだ。
今のところ羊漢はミルクが出ることが判っているし、鳥達は番でとらえているので、卵が期待できるだろう。
・・・って、あ!鳥達の小屋を作るのを忘れてた!
昨日は精神的ショックで放牧したまま寝ちゃったから、一晩中外でいたし・・・・・・、ごめんよぉぉぉ!
自分の所業に感極まって謝罪をしようと近づこうとするが、鳥達や羊漢は示し合わせたように逃げていく。
心なしか、こっちを見る視線がキツい気がする。・・・あ、羊漢が唾をペッて感じで吐き出した。「ようやく気がついたか愚図がっ!」って意味でしょうか?
なんか嫌われ方が半端無い気がすんだけど、前世から引き継いでる動物に嫌われるスキルだよね?その影響だよね?俺の存在が気に入らないわけじゃ、ないんだよね?
そう思ったが、コミュニケーションがとれないので確認が出来ない。
むしろ話が出来たとしても、怖くて聞けない。
・・・今日は、鶏舎と羊漢の小屋を作ろうか・・・。いえ、作らせていただきます・・・。
☆13日目
どうにか昨日完成した鶏舎と羊小屋は、我ながら中々の出来だと思う。
通気性は良く、雨漏りもせず、なおかつ外敵をシャットアウトとか、匠の技なんじゃね?
おかげで羊漢や鳥達も多少は機嫌が良くなったし。・・・相変わらず俺が近付くと逃げられるけどさ。
一人じゃないのに一人ぼっちって不思議だね~~。
・・・全然笑えねえ。
とりあえず、今日は他のことをしてみよう。
具体的には、しようしよう詐欺一歩手前の魔法の練習とか。
今のところ使えるのが判ってる魔法は、今も使ってる日よけと火と作物の生長、あと、謎の発光現象。
この世界の魔法に系統とかがあるかは知らんが、見事によく判らんラインナップだな~。
『日よけ』は一回使ったら未だに効果が残ってるし『火』は威力が阿呆みたいに高い分調整が難しいし、『作物の生長』は色々と条件がないと並の植物くらいまでしか成長しないのは判ってるんだけど。
・・・謎の発光現象がなぁ。
木から落ちてたとき、偶然使えたけど、なんだったんだろ、アレ?
ワープ?・・・でも、なんか時間がやたらと過ぎてたしなぁ。ほぼ丸一日くらい。
意味判んね。まさかキングクリムゾン?いや、ナイナイ。
自分まで能力が効いてたら意味無いし。そもそもスタンドじゃないし。
う~ん。ま、今はいっか。どうでも。
その4つ以外にはなんか使える魔法はないか、試してみよう。
・・・そしてしばらく経って。
無理でした。3時間かけても無理ってど~いうこと?
うんうん唸ってるだけでこんなに時間が過ぎてるなんて、これなんてキングクリムゾン?
『矢』に刺されたわけでもないのに!
・・・冗談はともかく、全く進展が無い。
もっと色々魔法を使ってみたいんだけどな~。
だからって謎の発光現象のときみたいに一か八かの状況に自分を追い込みたくないし。正直、自分が一番大切だもの!
とりあえず、もう一回試してみよう。まずはさっきまでやってた念動力から。
目の前に置かれたりんごもどき。
それを見ながら、『浮け』と念じる。念じる。念じる。念じる。念じる。・・・変化無し。
ぴくりとも浮かないし。段々とムカついてきたので、じっとりんごもどきを睨む・・・が、やっぱり変化は無い。
もしかして、野生モンスターだから覚えられる特技が少ないのか?
う~ん、魔法は使いたいけど他のヒトと一緒に冒険をしないと駄目なら、諦めたほうがいいのか・・・?
そう考えながら、悩んでいると、突然俺の身体が光り始めた。
唐突すぎだろ!相変わらず!
慌てるが、光は収まらないどころか余計に強くなる。あわわわわわわわ。
あ、羊漢、鳥たちも。どうしてそんな柵の真逆の方に走っていくの?俺、ピンチかもよ?主に精神的な理由で。
自分が一番大事なところは清々しいほど俺に似ている畜生どもの姿にがっくりと落ち込み、視線の先にりんごもどきが戻ると、光は徐々に俺の目(多分)の位置に収束。
一瞬の後、そこから極太の光が放たれる!!
意味判らねえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!
なんで目ビームなんだよ!口から怪光線の次くらいにネタ臭がプンプンするぞ!?
しかも光が収まった後の光景・・・。さぞや大きな破壊の痕がある、と思いきや何も変化は無い。
あの演出で破壊力ゼロってどういうことだよぉぉ!
テッテテ~♪触手Aは見た目だけビーム(仮)を習得した!
なんか脳内に嫌なテロップまで出てくるし!しかもAって他にもいるのかよ!
・・・落ち着け、落ち着け。BE COOL。俺は出来る子。今までは充電してただけ。本気出してなかっただけ。余裕を持つんだ。心は紳士で身体は触手。それが俺じゃないか。
自己暗示をかけることでどうにか持ち直す。
・・・ふう。使えない魔法があったとしても、それはそれでいいかぁ。
多少は残念だが、俺が生活するうえでは、別にマイナスにはならないし。まあプラスにもならないんだけど。
そう考えてりんごもどきを持ち上げようとすると、違和感に気付いた。
・・・あれ?重いぞ?
別に持ち上げられないわけじゃないんだけど、さっきよりは明らかに重くなってる・・・?
不思議に思ってよく自分の触手が持っているものを見てみると、りんごもどきが変色している。
青みが強い紫だった色が、茶色がかった灰色になっていた。
なんだこりゃ?
果物程度なら簡単に砕けるだけの力をこめても、びくともしない。
硬いし、重い。見た目だけは果物のままだが、まるで石だな。
う~ん、もしかしなくても、これがさっきの目ビームの効果?
・・・あれか?石化?とか?
えぇ~?マジでぇ~?石化魔法って、金の針で回復できる劣化版即死魔法だろ?
なんでそんな危ないやつを俺が使えるの?
いや、見た目だけビーム(笑)よりはいいんだけどさ。
俺じゃ、使い道が無いんじゃねえかな~。人間相手に使ったりするのなんて無理だし。無理無理。絶対無理。怖いし。使うくらいなら、逃げるし。
一瞬、リアルに自分がこの魔法を使う瞬間を考えて、怖くなってきた。シリアスに路線変更とか、無理だからね、俺!
ガラスの精神は伊達じゃないッ!
・・・とりあえず、この魔法については平和的な使い道を模索する方向で前向きに検討していきたいと考えております。(政治家答弁)
☆14日目
また青い流星が流れてた。しかも、やっぱり昼間に。
どうでもいいけど、こんなに流れ星が多いとありがたみが無えな。もしかしたら、この世界じゃ願い事をする風習なんかは無いかも。あれ?てか、あれって日本だけの風習だっけ・・・?
ま、いっか。
とりあえず、今日は山菜を捜してみよう。果物以外にも野菜があれば、栄養が偏る心配も無いし。
・・・野生動物っぽく、肉を生で食べればビタミンが摂取できていいんだろうけど、ハッキリ無理だしねえ。血とか出るだろうし。そもそもこの身体にビタミンが必要なのか判らんけど。
鶏舎と羊小屋から柵の中に放牧すると、山に向かって出発する。
本当は洞窟からあんまり遠出したくないけど、近くの森は粗方探し終わってるからなあ。
しばらく山を登ると、背の低い木がまばらに生えた草原があった。このあたりで採取してみようか。
さて、ここで問題です。
①元から知識はほとんど無い上に、植生の違う世界なのでどんな植物が食べれるか判らない。
②人間が大丈夫でも、自分はどんなものが毒になるのか判らない。
③情報ソースは皆無。
以上の条件を満たしつつ、山菜を採取できる方法とはなんでしょうか。
・・・答えは、”自分が直接食べて確かめる”でしたー。
俺の目には神農さんみたいにレントゲン機能は無いから、腹痛で調べていくしかないのが嫌なところだけど。今更、古代中国の人よりもアナログな方法を使うことになるとは予想してなかったよ。
ともかく、目についた草を少しずつ触手の先から食べていく。リスクは大きいが、これで食べられるものを見つければ、あとは俺の魔法で量産できるから、心配は無い。
とはいえ。
うげ、渋い。
次は青臭い。
臭いがきつい。
味がしないけど、食べた触手が凄まじく痒い。
痺れる・・・ってこれ毒だよ。多分。
え~と次は・・・、あれ?あれれ~?いつの間にか、お花畑が~。あははははははは。綺麗だな~。蝶々さんもたくさんとんでるし~。太陽さんのひかりはなんか虹色だし~。ぼくのしょくしゅまでエメラルドグリーンになってるよ~。とっても綺麗だな~~~~~。うふふふふふふふふふふふふ。あははははははははははははははははははははは。あはははははははははははははははははははははは・・・。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・ハッ!!!
あれ?なんだか、良くない夢を見ていた・・・、ような。
しかも、いつの間にかまた地面に寝てるし。太陽が真上に来てるから・・・、え?4時間近く経ってるの?おかしいな。今回は魔法を使ってないはずなんだけどな~。
起き上がり、触手を見る。そこにあるのは、いつも通り黒とか茶色の地味な色で、しかし多彩な形状をした俺の手だ。
なんだか。それが凄く違和感があるんだが・・・。何故だろう?
・・・不思議なこともあるもんだ。
とりあえず、今のところ試した草は全部駄目だ。
葉っぱの形とか色を覚えてから、全て捨てておく。
最後に試した葉っぱだけは理由が判らないが、無性に捨てることに抵抗があった。しかしいらないものをいつまでも持っておくのも面倒なだけなのでやっぱり捨てておく。
そうしてまた草を採取して、地道に食べる。
結局そこから4時間くらいかけて、見つかった山菜は5種類。因みに毒草は6種、さらにもう一回意識を失ったことを追記しておく。・・・本当に何があったんだろ?
山菜の内訳は、ニラっぽい草。臭いも味もほとんど同じ。
アロエみたいな草。苦味はほとんど無い。ただし汁がつくと痒い。
山芋的な何か。独特の風味があるが、不味くはない。むしろ美味い。これも汁がつくと痒い。
白菜とキャベツの中間っぽい植物。レタスに似た苦味はあるが、食べれないわけじゃない。
キュウリに似た蔓植物の実。中身は黄色で、味はむしろ南瓜っぽい。
以上の5種の山菜をそれぞれいくつか持ち、洞窟に帰る頃には日も傾き始めていた。やっぱり二回も意識を失ったのが拙かったか。
てか、マジで何があったんだ?
う~ん、よく判らん。
記憶が無いっていうよりは、それを思い出さないように自分で鍵をかけてる感じ。
いつの間にそんな器用なことが出来るようになったんだろ?
ま、いっか。さて。明日は畑を作っていくことにしよう。