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2話 触手生活始めました

☆7日目


小屋を作るための材料を取りに言っている途中、俺は重要なことに気付いた。



・・・そういえば、俺は小屋なんか作ったことないんだよな~。



子供の頃からやたらと動物に嫌われる(たち)だったから、犬を飼って小屋を作ることも無かったし。



そんな根本的なことに気付いたのは、森に材料を取りに来た後の話である。



う~~ん、地震とかあったら怖いけど、そこで寝泊りするわけじゃないから、壊れてもいいつくりにしてみようか?それなら、そう難しくないだろうし。



そう考えて森に行き、木を切ることにした。



とはいえ、丁度良い(のこぎり)(おの)なんかあるはずもない。



それじゃ、どうするのかって?



ふふふ。俺の触手には、色々な奴があってね・・・。何に使うためかは言わないが、表面がやたらとイボイボしたのとか、なんか注射器みたいな針の先から変な液体を噴出すのとか。



一生使う予定は無いが、やたらとバリエーションに富んでるんだ・・・。



コイツもその中の一本なんだが、俺がその触手に力を込めると、案の定、触手の先端にある金属のような光沢の円錐形がギュイイイィィィィィィィンッ!と音を立てながら回転し始める。



フッ・・・、あえて命名するなら、それはドリル触手ッ!



男の欲望と浪漫が合体した、スペシャル器官!



こんな、素晴らしいモノが、俺の身体にあるなんて・・・。



しかもすごく・・・大きいです。



うっとりとしながらその触手を木の幹にあて、ズブズブと押し入れていくと、すぐに幹をくりぬかれた木は倒れた。



・・・凄い威力だ。こいつをくらって無事な女・・・じゃなくて木はないだろう。



十数本の木を倒すと、それを引きずって洞窟まで戻る。



倒したときと同じ要領で木の邪魔な部分を落とすと、上手くドリルを使って木を材木に成形していく。



思った以上に簡単に材料が出来たので、次にそれを組み立てていく。俺の触手は人間よりもかなり力が強いが、なにせ一人でやっているので時間がかかる。それでも、夕方にはちょっとしたログハウスもどきが完成していた。



触手が活躍できる場はエロだけじゃないんだ!



昨今の触手=エロの風潮に、俺は新たな風を吹かせてみせる!



そう思っていた時期が俺にもありました。



勢いをつけてふりあげた手が、俺の意思とは無関係にうねってなんだか白濁色の液体を噴出した瞬間、その熱も冷める。



その触手から噴出した液体は奇妙なほど粘りが強く、でろりと吹き出た穴から垂れ下がっている。



どう見ても○液ですありがとうございました。



謎の液体を噴出しても、何も感じなかったが、しかし確実に何かを無くしたような気もする。不思議なことだ。



ただ、その液体を地面に掘った穴に始末しているときは、無性に人間だったときと同じ感覚を得ていたのは事実だ。あの、わけも無い虚しさとかやっちまった感とか、脱力とかはかなり酷似していると言えるだろう。



・・・さて。明日のために、今日はもう寝よう。なんだか無性に疲れた。




☆8日目


朝、目を覚ますと、相変わらす洞窟内のコケを食べ、その次にラジオ体操を始める。



一人だけで自分でリズムをとりながらする体操は少々恥ずかしいが、雄大な自然を前にしながらやると爽快だ!第一、誰も見てないから恥ずかしがる必要も無いしね!



そういえば、そろそろコケにも飽きてきたところだ。



毎日俺が食べるせいで、生育面積が減ってきているような気もするし、今日は自分が何を食べられるのか調べてみよう!



あと、寂しいからなんかペットとか欲しいかも。



殺したりするのはカンベンだけど、家畜になるならこの先色々と助かるし。



そう思いつくと、触手を駆使して森の中を移動し始める。



・・・2時間経ったが、何も見つからない。



このあたりは動物が少ないのか?河岸(かし)をかえるべきか迷ったが、あまり遠くまで行くと、洞窟の場所が判らなくなってしまうから、断念。



ま、もう少し捜してみよう。



てかどうでもいいけど、この触手、滅茶苦茶素早いな。



今も歩くスピードで動かしてるつもりなんだけど、多分時速60kmくらいでてるんじゃね?



下手に人間にぶつかったらひき殺しそうだ。気をつけないと。



そうして捜し始めて早4時間。



くくく。見つけたぞ。やっと見つけた。



草むらを挟んでだいたい10メートル先。



なんか草を食べてる、白いモコモコの生き物がいた。



見た目は羊っぽい・・・かな?でも、羊よりは首が長そうだし、なんか長い角も生えてる。



草を食べてるってことは、多分、草食獣だろう。



見た目も大人しそうだから、どうにか捕まえてみたいが・・・。



あ、そうだ。



フェイスハガー先輩みたく、問答無用で飛び掛って捕まえれば・・・。



妙案も浮かんだところで、レッツトライ。



触手を使って音も無く地面を蹴ると、それを傘の骨のように広げながら、羊(仮)に飛び掛る。



多分、DMC4のエキドナみたいな感じなんだろうけど、触手の数が圧倒的に多い分、より悪夢的な絵面になっているだろう。



自分の身体に影がさしたことで羊(仮)がこちらを見上げようとするが、遅い。遅いわあ!



蛸が魚にそうするように、触手全部を使ってグワシッ!とキャッチ。



羊(仮)は暴れるが、俺がびくともしないため、数分で大人しくなった。



ふはははは!暴れれば暴れるほど俺の触手は絞まる!貴様は捕まった時点で負けていたのさあ!



そう考えてほとんど触手で身体が埋まった羊(仮)を見ると、そこにいたのは口から泡を吐いて他界寸前の草食獣である。



やりすぎたーッ!



慌てて触手を離すと、どうにか呼吸を整える羊(仮)。



・・・よかった。いきなり動物を殺したとか、トラウマレベルの思ひ出がまた増えるところだった。



それから、どうにか触手を首につないだまま洞窟に戻り、途中で取ってきた蔓を使って簡単な紐を編むと、それで杭に繋いでおく。洞窟の近くは草も多いから、困ることもないだろう。



とはいえ、運動不足は良くないし、でも毎日放牧してそれについていくのも面倒くさい。



・・・明日にでも、(さく)を作ろうか。



害獣が寄ってこないから、一石二鳥だし。



あ、今日朝以外何も食べてねえや。・・・ま、いっか。腹も減ってないし。



とりあえず、今日はもう寝よう。面倒くさいことは明日の俺に任せて、今は寝たい。




☆9日目


いつまでも羊(仮)では可哀想なので、名前をつけることにした。



とりあえず雄雄しく生きるという意味で羊漢(ヨウカン)でいいだろう。・・・雌だけど。



とりあえず午前中、切り出してきた木で羊漢(ヨウカン)の柵を作り、放牧してから森を探索しに出かけた。



この森は色々と実をつける木が多いみたいだが、正直、見たことも無いものばっかなので迷っている。



今、俺の触手が持っているのは、紫色のりんごっぽい果物と、紅いバナナみたいの、それからエメラルドブルーの洋ナシ風の何かである。



どれも果てしなく怪しい・・・。



毒とかあるんじゃ?と思い出すと少々気後れしてしまうが、しかし食べ物が無いと困る。今日も結局コケを食べているのだ。



ええい、男は度胸!なんでも試してみるのさ!



三つ同時に、触手の先に開いた口で飲み込んでいく。



・・・・・・。



あれ?普通に美味いぞ?



てか見た目通りの味なんだが。色が違うくらいで、中身は同じなのか?



でも、なんでこんな類似があるんだろ?



・・・・・・う~~ん、判んね。



ま、いっか。



とりあえず何個かの実をもいで帰ることにした。中心に種もあるみたいだから、洞窟の近くに植えてみよう。うまく植樹できれば、態々家から離れる必要も無くなる。



自分、基本的にインドア派ッスから!



今更な設定を思い出して誰にともなく言ってみる。・・・返答は無かった。



洞窟に帰ると、羊漢は相変わらず草を食べていた。



なんとなく和む。



でも、何故か俺の姿を見ると少し逃げる。



第一印象が悪かったかなあ、と思いながら羊漢を紐で繋ぎ、洞窟に戻る。



明日は魔法の練習でもしてみよう。




☆10日目


空を飛びました☆




☆11日目


色々なことがありすぎたので、順を追って説明しようと思う。



まず、昨日の朝のこと。俺は食事を果物に変えたせいか、体調が今までになく良好だった。



やっぱり、できるだけ洞窟の近くにこの果物の木が欲しい。



食べた後の種は洞窟から少し離れた場所に植え、その周りに肥料を巻く。早く大きくなれよ~~と思いながら水をまいていると、またしても魔法が発動した。



え?どんな魔法だって?



ジャックと豆の木とかを想像してもらえれば、判りやすいです。



雲に突き刺さるほど高くはないのが救いか。それでも樹齢が判らないくらい背が高い。



さらに3本の木が捻れるようにして育っていて、一本に融合しているのだが、それがまた太い。



間違いなく実がなってた木よりも高い。



なんておませさんな0歳児だ!・・・いや、意味判んねえよ。自分で自分が。



う~~ん、どうも俺の魔法って、無意識の部分がかなり大きく関わってきてるみたいだ。



だからどうってこともないんだけど。所詮(しょせん)、にわか触手の考えである。もっともらしいことを言っても、その意味までは考えてないんです!



すくすくと育った木には、いくつもの実がなっていた。



若干テンションがおかしくなっていた俺は、これは行くしかないでしょう!と思い立つと、触手を使ってするすると木を昇っていく。



フッ。木登り=落ちるは前世までの話よ。今なら「WRYYYYYYYY!」とか言いながら幹を垂直に昇っていくことも・・・、あ、発声の部分でアウトか。どこまでも片手落ちだな~。



頂上近くまで上ると、途中でもいでおいた実を食べ始める。



雄大な大自然を眺めながらの食事は中々いいものだ。さっき朝食食べたばかりだけど。



今までで一番高い位置に来たお陰か、西の方に集落が見えた。



いくつかの家屋が並んだ、昔ながらの村といった感じである。



目を凝らすと、突然現れた巨大な木に驚いたのか、何人かの村人がこっちを指差していた。



コッチミンナ。



てか、なんで10km以上離れた位置がしっかり見えるんだろう。いや、触手視力スゲー!とは思うけどさ。



今更だけど、随分人間離れしたモンだ。便利だから別にいいんだけどさ。



さて、あんまり見られるのも嫌だから、降りようか。そう思った瞬間、いきなりドップラー効果を伴った何かが近付いてきた。



何だ?



目をそちらに向けると、青い光に覆われた流星?が割と近くを飛んでいく。



流れ星?でも青いしなあ。



薄々とは感じていたが、どうもファンタジー世界というのは不条理な気がする。便利な分には問題無いんだけど。



流れ星を見送りながらそう考えていると、後ろから突風が吹いてきた。



衝撃波?ってやつか?もしかして、音速超えてた?



直撃を受けても特に俺は怪我もしなかったが、俺が昇っていた木は別だ。



折れはしなかったが、大きくしなり、その勢いで果物がバラバラと落ちる。



それを見て「ああ、勿体無い。」とは思わなかった。それどころじゃなかったのだ。



木がしなったせいで俺は空中に放り出されていたから。



一瞬の浮遊感と共にアイ・キャン・フラーイ!



飛んでる!飛んでるぜエ―――――――!とか言ってる場合じゃねえぇぇ!



ぎゃーッ!死ぬ!死んでしまう!



どうにかしないと・・・!



そうだ!風を・・・、風を掴むんだ!



そう閃き、触手を開く・・・が、落下速度にはまるで変化なし。ですよねー。傘みたいに開いても、骨組みの部分しか無いんだし。



しかしここはファンタジー世界!



都合良く目覚めてくれ!俺の能力(チカラ)!でないと俺が地面の染みになっちゃううぅぅぅ!



ピカ――――――――――ッ!



最終的に魔法に頼った俺の全身から突然あふれ出す意味不明の発光現象。



え、マジで?と思う間も無く、俺の全身は青い光に包まれた。



それと同時に意識は消失。



次に気がついたときには、なんか地面で寝てた。・・・正直、何がなんだか。



薄暗い中周囲を見回すが、見覚えのない木ばかりしか見えない。



とりあえず、生きていたのは嬉しいが、しかし、ここ何処だろ?時間も明け方ってことは、丸一日意識を失ってたのか?



よく見回すと、ここから見える山の向こうになんだかやたらと背の高い木が見えるから、もしかしたらあそこが洞窟のある方向かもしれない。



行ってみるべと思い、そちらに向かって高速で移動を始めた。



そういや、あの木の上からなんでこんな距離を移動してたんだろ?



自分の身体だが、意味の判らない部分が多すぎるな~~と思う。



そんな風にテンションが下がっていたせいだろうか。



鳥が集団で襲ってきました。



さっきからいきなりすぎだろ!と突っ込みたいが。所詮(しょせん)は畜生。



嘴でツンツンされるのはちょっと痛かったが、半分以上を捕まえてやったわああぁぁぁぁぁぁッ!



どうやら鶏と同じく飛べない鳥のようなので、羊漢と同じ柵に放り込めば飼うこともできるだろう。



タナボタだが、しかしこれほどの好機、退かぬ、媚びぬ、省みぬ!



例によって蔓を使って縛ると、触手でそれを落とさないように持ち上げ、走る。



羊漢、今お友達を連れて帰るよぉぉ――――――!



そう叫びながら俺は家路をひたすら走った。



で、今日。



なんとか洞窟まで戻ると、俺は予想外の事態にへたり込みそうになっていた。



あばばばばばばば。



なんで。



なんで人がいるんだよ!



しかも、大勢!



俺が(ねぐら)にしている洞窟の前に、何人かのヒトがいたのだ。多少距離があるから判らないが、洞窟を指差しながら何かを喋っている。



まさか、家捜しするつもりか!



洞窟の中にあるのは精々が果物と数日前に掘り起こした鉱石だが、それでも勝手に入られるのは気分が良くない。



しかし、3人ものヒトの前に出るのは、正直怖い。



悪さをするわけじゃないんだし、放っておいて欲しいが、自分が触手であることを考えると最悪殺されるかもしれない。



元々コミュ能力は低い上、そもそも今は会話することも出来ないので、さらに絶望的だ。



でもここを追い出されたら、行く場所なんて無いし・・・、話しかけるのは怖いし・・・。木の影からじっと様子を見ていると、ふとヒトがもう一人いるのに気付いた。



他の3人と同じように、金髪の男だ。そいつは、こともあろうにウチの羊漢の紐を引っ張っている。そのまま持ってきた袋に入れるつもりみたいだ。



あ・い・つうぅぅぅぅぅぅ!



見知らぬ人間に対する恐怖が、怒りに上書きされる。



見てろ!見てろ!



そうだ!そうする(、、、、)と決めたときには、既に行動は終わっているんだ!心の兄貴もそう言ってたし!



俺は、鳥の紐を木の枝にくくりつけると、正面から姿を現した。



「ぴgjなえjhgあ@おじぇhrt!!」



それは俺の家だ!勝手に入るなッ!



内心はビビりまくっていたが、なんとか触手を振り上げ、自分を強そうにアピールする。



金髪共は最初、意味不明そうにこっちを見ていたが、俺がへっぴり腰のまま走っていくと、慌てて逃げ出した。



・・・良かった。本当に良かった。殺されなくて良かった・・・。



袋に入れられそうになっていた羊漢を出してやると、こいつはすぐに草を食べ始めた。



どうやら俺のことは眼中に無いらしい。



さっきの俺の勇姿を見てくれていないとは、残念なことだ。



ともかく、俺は縛っていた鳥たちを柵の中に放牧すると、洞窟の中に戻った。既に太陽は真上に来ようとしているが、なんだか色々と疲れた。



・・・今日は寝て、明日からまた頑張ろうと思う。

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