第7話 ヒマワリの波紋
俺達はご飯を食べた。
いつものように美咲が作ってくれてる。
愛されてる。
美咲は優しい。
十分だろう。
「美咲、いつもありがとう。」
「どうしたの?」
「いや、ご飯作ってくれてるから。」
「うちってさ……昔、作ってないときもあって、自分で作ってたこともあったからさ。
父さんが再婚する前な。
一人で食べることも多かった。
適当に作って、
適当に食べて。
それで、終わり。
……誰かと食べるって、
こんな感じなんだなって思う。」
俺は、美咲を選んで良かったんだ。
何しろ、楽だし。
色々合う。
そう思っているのに、
少しだけ、熱が残っていた。
「美咲、後で……いいよな。」
「……うん。」
その夜、直哉は布団の中で考えていた。
あれは、何だったのか……。
美咲の髪を、そっと撫でる。
「なあ、美咲。」
「何?」
「陽菜ってさ……変なのか?」
少しだけ間があいた。
「いや、何となくだけど。」
「わからないけど。」
美咲は小さく笑った。
「いつも通りな気はするけどね。」
「陽菜だし。」
直哉はそれ以上、何も言えなかった。
ふと、あの日のことを思い出した。
親が再婚して、初めて会った日。
「陽菜です。よろしくお願いします。」
そう言って、少しだけ笑った。
かわいい子だと思った。
それと同時に――
少しだけ、距離が近い気がした。
「お兄ちゃんって呼んでもいい?」
「……ああ。」
あの時、俺は胸が熱くなった。
あのときから、俺は――
でも同時に、決めたんだ。
――お兄ちゃんでいることを。
……陽菜は妹だ。
そういうことに、したんだ。
何度、陽菜のことを考えただろう。
そんな時だった。
陽菜が、俺に美咲を紹介した。
あの瞬間――
胸が、ちぎれるみたいだった。
それでも。
目の前にいた美咲は、綺麗だった。
学校でも有名な美人で。
明るくて。
どこか、人の懐に入るのが上手い。
一緒にいると、楽しかった。
……楽で。
正直、優越感もあった。
美咲は、学校の中で“特別”だったから。
だから。
俺には、ちょうどよかった。
この気持ちを、隠すには。
でも――
今日の陽菜は、甘い蜜みたいだった。
あのまま、溺れていたら――
どうなっていたんだろう。
……いや。
駄目だろう。
でも。
手に入れたい。
――一度くらい。
触れたら、どうなるんだろう。
……同じように、笑うのか。
――その頃。
陽菜は、小さく笑っていた。
お兄ちゃん。
わかってるよ。
さあ、あとは――
お兄ちゃんが来てくれたらいいだけ。
もう少しね。
ああ、週末が楽しみ。
陽菜は少しだけ目を細めた。
「それと……」
「あの子、どうなのかしら。」
少しだけ考える。
「……邪魔よね。」
――その頃。
湊のスマホが震えた。
『湊、花屋どうなんだ?言ってた美人……。』
『毎日、会えるかなって思っちゃってさ。』
『相当だな。で、会えたの?』
『あれから1回店に来てくれた。この前、店の前を通るのを見た。最高。』
『頑張れ。でも、結婚してたり、彼氏いたりとかないよな?』
『聞けないんだよ。』
『ああ……まあ、さっさと聞いたほうがいいんじゃない?』
湊は少しだけスマホを見つめた。
「……聞かなくても、いいか。」
「来るし。」
「また。」
「美咲さん、また来るよな。」
ヒマワリの花びらが、一枚落ちた。
水に揺れる。
波紋が、静かに広がっていく。
どこまでも。




