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義妹は、私だけを見ていた。―妹に愛されすぎた女の話―  作者: 桐原悠真
第一章 ヒマワリの視線

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第6話 ヒマワリの日常

玄関のドアが閉まった。


「……ふぅ。」


小さく息を吐く。


さっきのことが、頭から離れない。


いや――

考えすぎだ。


花屋の前を通った。


ここか。いつも行くっていう花屋は。

店が閉まるところだった。


若い新人。

あの男か……。


「すみません。」

「ヒマワリ欲しいんですが。」


何故か俺は彼に声をかけていた。


「いらっしゃいませ。プレゼント用ですか?」


「はい。」


さっきのことを思い出していた。


あれは何だったんだ。

妹だろう?

あれは本当に俺の妹なのか?


「ヒマワリ綺麗ですよね。」


「そうですね。」


「彼女さんですか?それとも奥様?」


「家内です。たまにはプレゼントしようかなって。

 花が好きなんです。」


「いいですね。

 俺もプレゼントができるような人がいればいいんですけどね。」


彼はヒマワリを包んでいた。


「相沢さんっていうんですね。」


「はい、相沢湊っていいます。よろしくお願いします。」


若くて、明るくて、ヒマワリのような男だった。


……あいつは、真っ直ぐだ。


少しだけ、目を引く顔をしている。


「こちらこそよろしくお願いします。」


「どうぞ。できました。ありがとうございます。」


お会計をした。


「ありがとうございます。」


……美咲はどう思うのだろうか。


俺は何もしていない。

陽菜とは何もない。


だから……大丈夫だ。


そう思った。


――思わないといけなかった。


「ただいま。」


「おかえりなさい。遅かったね。心配してたんだよ。」


「ごめん、陽菜のところで電球替えてたんだ。」


「それと途中で花屋があったから、これヒマワリ。」


「ありがとう。嬉しい。」


「急にどうしたの?」


「いや……たまにはいいかなって思って。」


俺は少しだけ視線を逸らした。


「美咲、花好きだろ。」


「うん。好き。」


美咲はヒマワリを見て、やわらかく笑った。


「きれい。」


そのまま、少しだけ首を傾ける。


「……ヒマワリ、増えたね。」


「え?」


「この前も飾ったばかりだったでしょう?」


「まあ……そうだな。」


美咲はヒマワリに手を伸ばした。


指先に巻かれた絆創膏が、少しだけ目に入る。


「どうした、その指。」


「ちょっとコップ割っちゃって。」


「大丈夫か?」


「うん。平気。」


美咲は笑った。


ヒマワリが揺れている。


――ふと、鈴蘭の花を思い出した。


スマホが鳴った。


「あ……陽菜からだ。」


「今、直哉が着いたよ。」


「良かった。」


「お兄ちゃん、こっち出たからそろそろ着くと思うよって、

 美咲に言おうと思ってたの。」


「……そうなんだ。」


「お兄ちゃんに、電球ありがとうって伝えておいてね。」


通話が切れた。


美咲は少しだけスマホを見つめた。


「ねえ、陽菜さ……」


美咲は一瞬だけ迷った。


「……何でもない。」


「どうかしたか?」


「ううん。」


少しだけ間があいた。


美咲は少しだけヒマワリに目を落とした。


ふふ。


まあ、陽菜だから。


……そういうこともあるよね。


「ねえ、直哉。ご飯食べましょう。」


「ああ。お腹すいたな。」


「私も。」


美咲は少しだけ笑った。


直哉は小さく息を吐いた。


これが、俺の日常だ。


そうだ。


これでいい。


開けたままのドアに気づく。


少しだけ迷ってから――


それを閉めた。

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