第5話 ヒマワリの熱
インターホンが鳴った。
「来た。」
陽菜は小さく笑って、ドアに向かった。
扉を開ける。
「いらっしゃい、お兄ちゃん。」
「おう。」
直哉は少しだけ周りを見てから、部屋に入った。
「久しぶりだな。陽菜と二人は。」
俺は少し胸が高鳴った。
「そうだね。」
「どこの電球?」
「これだよ。」
「了解。じゃあ、電球とかストックある?」
「あるよ。これ。よろしくね。」
手が触れる。
直哉は電球を替えていた。
「お兄ちゃん、美咲とどう?」
「うまくやってるよ。」
そうだ。俺には美咲がいる。
……わかってる。
直哉は手を動かしながら言った。
「優しいし、何でもできるし。」
「いい嫁だよ。」
「そうなんだ。」
陽菜は少し笑った。
「でも、美咲ってさ。」
「うん?」
「ちょっと放っておけないよね。」
手が止まった。
「……そうか?」
「皆、美咲のこと好きになっちゃう。
高校の時もそうだったでしょう?」
「ああ、そうだったな。
でも、今は俺の嫁なんだけど。」
陽菜はくすっと笑った。
「そうね。お兄ちゃん心配じゃない?」
「別に。大丈夫だよ。」
直哉は少しだけ間を置いた。
「……ちゃんとしてるから。」
陽菜はくすっと笑った。
「ふふ。」
「そうだといいね。」
「何か……あるのか?」
「別に。」
「大丈夫よ。私がついてるし。」
「ね、お兄ちゃん。」
少しだけ間があいた。
「よし、終わったぞ。」
「ありがとう。」
「ねえ。お兄ちゃん。」
陽菜は少しだけ近づいた。
「お兄ちゃんのためにクッキー買ってきたの。
一緒に食べよう。」
「このクッキーお兄ちゃん、好きだよね。」
昔よく一緒に食べていたやつだった。
「これ、美咲も好きなんだよ。」
「そうだったんだ。」
直哉は少しだけ笑った。
「一緒だな。」
「ね。」
陽菜は小さく笑った。
「一緒だね。」
少し間があいた。
「私も好き。」
「美咲と同じっていいよね。」
「え?」
「ねえ、お兄ちゃん。美咲のこと好き?」
「好きじゃなかったら結婚しないと思うけど。」
そう言いながら、俺は視線をそらしてしまった。
「そうだよね。」
陽菜は少しだけ近づいた。
「私も、好きだよ。」
「……美咲のこと。」
「ねえ、お兄ちゃん。美咲と私どっちが好き?」
「え?」
「なんちゃって……。」
陽菜は笑った。
「答えなくていいよ。」
でも、そのまま俺を見ていた。
俺は、即答できなかった。
「美咲とお兄ちゃんと私、
ずっと三人でいられたらいいね。」
「私、結婚する気ないの。だから。」
「ああ……そうなんだ。」
俺は小さく息を吐いた。
「なあ、俺は美咲のこと好きだけど、お前のことも好きだぞ。」
そう言って俺は笑った。
「私もお兄ちゃんのこと好きよ。」
胸の奥が、少しだけ熱くなった。
陽菜は俺の手に触れた。
「お兄ちゃんの手って大きいね。」
少しだけ、握る力が強くなる。
「ヒマワリみたい。」
カチ。
カチ。
カチ。
時計の音だけが響いていた。
――ガシャン。
陽菜は少しだけ顔を上げた。
「……今の音、何?」
「誰か、ぶつかったのかしら。」
「ねえ、見て。」
陽菜は少しだけ近づいた。
「私、少しだけ美咲の真似して花を買ったの。」
手に持っていた花を差し出す。
「鈴蘭。」
小さく笑う。
「かわいくない?」
「かわいいな。」
直哉は鈴蘭を見た。
「俺、鈴蘭好きなんだ。」
「いいよな。」
「うん。」
陽菜は鈴蘭を見たまま言った。
「私も好き。」
少しだけ間があく。
「お兄ちゃんが好きなもの、全部好き。」
少しだけ間があいた。
「……私も、好きになって?」
「お前は……妹だろう?」
「でも、血は繋がってないでしょう。」
陽菜は少しだけ近づいた。
「美咲がいるんだけど……。」
直哉は視線を逸らした。
「……関係ないよ。」
陽菜は俺の顔に触れた。
俺を見つめる。
「……陽菜。」
その手を、払えなかった。
「……やめろ、陽菜。」
その頃、美咲は。
「遅いな。直哉。早く帰ってきたらいいのに。」
カチ。
小さな音がして、コップが手から滑り落ちた。
――パリン。
「あ……」
ガラスが床に散る。
「痛っ。」
指の先から血がにじんだ。
赤い血が、ゆっくりと指を伝っていく。
つーっと。
「……ああ。」
ヒマワリの花が揺れていた。
その隣で、鈴蘭が揺れている。
――どちらも、綺麗だった。




