第12話 ヒマワリの花びら
美咲さんは、旦那さんと妹さんと一緒に歩いていた。
目が合った。
ああ――あの人か。
ああ……ヒマワリを買いに来た人だ。
きっと美咲さんはあの人のためにヒマワリを飾る。
あの笑顔は――あの人のものだ。
苦い……。
店の前で手を繋いでいた。
旦那さんは愛おしそうに美咲さんを見ていた。
俺が先に会っていたら。
順番は関係ないか。
幸せそうな二人なのに――
何故か、腑に落ちなかった。
――何かある。
そんな気がしていた。
まだ、わからない。
だって……見つめ合っただろう?
美咲さんは俺のことを見てくれた。
はは。
いい。
次の日。
店で。
「店長。どうしましょう」
「美咲さん、やっぱりご主人がいたみたいです」
「ああ……やっぱり」
「どうするの?」
「正直……幸せそうな夫婦を壊すのは、良くないと思うわ」
「……ですよね」
「まあ。万が一……違ったら別とは思うけど……」
「個人的な考えよ」
「どんな形であれ、それぞれが幸せになればいいと思ってるの」
「俺だって彼女が幸せなら……何も壊す気はありませんから、大丈夫です」
「そうよね。安心したわ」
「ただ……まだ諦められなくて」
「まあ、急には諦められないわ」
「仕方ないと思う」
「念のため……リサーチ、続けてもらってもいいですか?」
「了解!」
「私も何引き受けてるんだか……」
「でも、本当に幸せな夫婦だったら駄目よ」
「わかってます」
「そんなところに……入る隙なんて、ないじゃないですか」
「そうよ」
今日は、久しぶりに――陽菜が来ないはずだった。
美咲のスマホが震えた。
「陽菜が――」
「今日は昼から用事があるから、午前中に行くねだって」
「は?来なくていいんだけど」
直哉が電話をした。
「もしもし、陽菜。用事あるなら来なくていい」
「もう出ちゃったから午前中は行くね」
「……」
「来なくていい。今日はデートするんだ」
「もう出たから、無理よ」
「……来るなって言ってるだろ」
電話を切った。
「美咲……陽菜、来るって」
「お預けね」
「くそっ」
「仕方ない。昼から出掛けよう」
「そうね」
ピンポーン
「陽菜です」
「どうぞ」
「お邪魔します」
「ねえ、美咲……お兄ちゃんが、来ちゃ駄目って言うの」
「酷くない?」
「美咲と私の愛を……邪魔するのよ」
「まあ、お兄ちゃんも大好きだけどね」
「でも、美咲が一番よ」
「美咲ー大好きよ」
「はいはい」
「お前、来なくていいから」
「ふふ。酷い」
こいつ……。
わかってて、邪魔してないか?
よく考えたら――
美咲と付き合い始めたときも、デートしようと思ったのに。
あいつ、ついてきたんだ。
そのまま、キスもできないまま結婚した。
デートだって――手しか繋いでない。
今更だった。
……それでも、俺はプロポーズした。
あのプロポーズも……
三人でいるときに、してしまった。
つい――
「結婚して」って言って。
美咲は、ちゃんと考えてくれて……そのまま結婚した。
だから――
デートも、いつも三人で。
触れてない。
……いや。
手すら――
繋いでない。
まさか。
この前が、最初だったのか?
俺――二人でデートしたこと、ない。
……実質、デート未経験?
ありえない。
しかも、夜は寝るだけ。
嫁、だよな?
……これって。
友達、みたいなやつか?
陽菜を見た。
笑っていた。
よく考えろ。
陽菜のことは、好きだった。
忘れるためっていうのもあったけど……
それでも、あいつは――
淡い感じで。
一緒にいると、ドキドキはした。
でも。
美咲のことは、本当に好きだ。
……なのに。
何で、こうなってるんだ?
いや、今からでも遅くない。
今度こそ――美咲と始める。
でも……俺は、本当にどうなってるんだ。
美咲を見た。
……俺の嫁だ。
美人で。
スタイルもいい。
優しくて。
料理もできる。
最高の嫁だ。
……そう思った。
俺は……美咲の何を知ってるんだろう。
……何も、知らないんじゃないか。
美咲……愛してる。
愛している、でいいんだよな?
俺のこと、好きなんだよな?
俺だけの嫁なんだよな?
……本当に、そうなのか。
目の前で、陽菜と美咲が話していた。
楽しそうに、笑っている。
時間だけが過ぎていく。
やがて――
陽菜が帰った。
「美咲……美咲は俺の嫁だよな?」
「当たり前じゃない」
「良かった」
「俺……美咲のこと、愛してるから」
俺は、美咲を抱き寄せた。
「私もよ」
「……良かった」
ヒマワリの花が、揺れていた。
風に揺られて、
一枚、花びらが落ちる。
水面に浮かんで、
ゆらゆらと揺れていた。




