第11話 ヒマワリの余熱
俺は三人で家に帰ってから、夕食を食べて、それから陽菜を送って行った。
「ねえ、お兄ちゃん」
「ついでだから、WiFiの調子もおかしいから見てくれる?」
「別にいいけど」
家に上がった。
「WiFiルータどれ?」
「これ」
俺は、Wi‐Fiの線を見ていた。
「ねえ、お兄ちゃん」
少しだけ、間があく。
「私、美咲のことも好きだけど、お兄ちゃんのことも好きだよ」
「俺も……お前のこと好きだよ。妹だしな」
陽菜が、後ろから抱きついた。
心臓が、高鳴る。
「ずっと一緒だよね」
「俺は……結婚してるんだぞ」
美咲と、あの男の顔がちらついた。
「……美咲がいる」
陽菜は、思ったよりも柔らかかった。
――離れなかった。
陽菜の指先が、俺の体をなぞった。
「おい。それ以上は……」
少しだけ、間があく。
「お兄ちゃんって……本当は、お兄ちゃんじゃないんだよね」
「繋がってるようで、繋がってない」
ふふ。
「だから、大丈夫よ」
「陽菜」
一歩も、動けなかった。
「好きよ」
「……ああ。」
鈴蘭が揺れている。
鈴蘭の毒が、俺を揺らしてくる。
――甘いな。
蜜だ。
俺は家に帰った。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「ごめん、陽菜の家のWi‐Fi直してた」
「そうだったのね」
少しだけ、間があく。
「ちょっと心配しちゃった」
美咲が俺を見た。
「悪かった。先に言えばよかったな」
「あと、ごめんなさい。お風呂、先に入っちゃった」
湯上がりの美咲は、頬が赤かった。
やっぱり、美咲は美人だ。
――あんなことがあったのに。
胸が、高鳴った。
――変だな。
「俺も入ってくる」
風呂の中で、俺は考えていた。
陽菜のことは好きだ。
でも――美咲も好きだ。
大事にしたい。
……そう思っているはずなのに。
この前まで、美咲は「ちょうどいい」と思っていた。
それで、よかったはずなのに。
――美咲が。
あんなに、綺麗だったか?
いい。
美咲だ。
風呂から出て、
「美咲。一緒に飲もうよ」
「どうしたの?機嫌いいね」
「別に?」
美咲を見た。
少しだけ、陽菜がちらついた。
感触が、まだ残っている。
――でも。
美咲の顔を見たら、それもどうでもよくなった。
「美咲って、かわいいな」
俺を振り回してるのは、美咲だ。
「なあ、美咲。たまにはさ……二人でデートしてくれよ」
「俺、寂しいんだけど」
「うん」
少しだけ、間があく。
「それと」
「たまにはでいいんだけど」
「陽菜の好みじゃなくて……俺の好みも、取り入れてほしいな」
「え?」
「直哉の好みじゃなかったの?」
「……まあ」
「いや……美咲の好みがそれならいいんだけど……かわいいし。似合ってる」
少しだけ、間があく。
「でも」
「陽菜が結構選んでるから」
「陽菜の好み、反映されてるだろうって思ってて……」
「ちょっと、羨ましいっていうか」
自分で言って、少しだけ苦笑した。
「妹と競ってどうするんだよって話だけど」
「それに」
少しだけ、視線を逸らした。
「陽菜のやつ、俺よりくっつく」
「え?そこ?」
「女の子だから……」
少しだけ、間があく。
「俺は、手を繋ぐだけなんだぞ」
「しかも」
「ほとんど、手すら繋がせてもらってない」
小さく、息を吐く。
「……いつも、陽菜だ」
「正直、今日手を繋いでドキドキした」
「嫁だろうって思うけど……」
少しだけ、間があく。
「俺らって、二人で出掛けたこと、ほとんどないだろう?」
「……」
「恋人らしいこと、してないよな」
「だから……駄目か?」
「私も、してみたい」
「じゃあ……よろしくお願いします」
直哉は、小さく息を吐いた。
「……陽菜、断らないとな」
「うん」
「もしかして」
少しだけ、覗き込む。
「機嫌よかったのって……」
「手を繋いだから?」
俺は、真っ赤になった。
――自分でも、分かっていた。
「……言うなよ」
俺は、だんだん美咲にハマっていっている。
それと――
少しだけ、思ってしまった。
俺は、美咲に手を出せないようにされていたんじゃないか。
美咲との関係を、深めないようにさせられていたんじゃないか。
そんな考えが、ふとよぎった。
――いや。
まさかな……。
「なあ、美咲」
少しだけ、間があく。
「今度、花屋に行くときは」
「俺も一緒に行く」
美咲を見た。
「連れていってよ」
少しだけ、笑った。
「いいわよ」
少しだけ、笑った。
「一緒に行きましょう」
「嫉妬してるの?」
「……まあな」
小さく、息を吐く。
「俺のお嫁さんですって、言っておかないと」
負けられない。
――俺は、そう思っていた。
いつの間にか。




