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眠り姫の反撃 ―竜を討つ魔女の鎧―

百年の眠りの果てに、彼女は「目覚め」ではなく、「反撃」を選んだ。

王子のキスも、運命もいらない。

自らの魔力で呪いを打ち砕き、

闇の妖精が変じた竜と戦う“眠り姫ローズ”の物語。

これは、誰にも救われなかった姫が、自分自身を救うまでの戦いの記録。


 世界が止まっていた。


 風も、炎も、声もない。

 城は黒い棘に覆われ、百年もの時を閉じ込められていた。

 塔の先端には漆黒の雲が渦巻き、月光は届かない。

 そんな沈黙の中心で、ひとりの姫が眠っていた。


 ――ローズ。


 彼女の髪は深紅、まるで燃える薔薇のようだった。

 その顔は穏やかで、唇には未だ言葉が宿っていた。

 だが、その心は夢の中で叫び続けていた。


「もう終わりにしたい。

私は、ただ眠る人形じゃない……!」


 ひび割れた鏡のように、空間が軋む。

 目に見えない鎖が切れ、眠りの呪いが崩壊を始めた。

 そして――彼女の瞳がゆっくりと開く。


 赤い光が闇を裂く。

 息を吸い、胸の奥から魔力があふれ出した。

 彼女の体を縛っていた黒い花弁が一瞬で散る。


「……王子のキスなんて、いらない。」

「私は、自分でこの夢を終わらせる。」


 彼女が立ち上がると、空気が震えた。

 百年ぶりの息吹が世界を揺らし、塔の窓ガラスが砕け散る。

 だがその瞬間、影がゆらりと立ち上がった。


「ようやく目覚めたか、私の小さな薔薇よ。」


 低い声が響く。

 漆黒のローブを纏った女――マレフィカ。

 かつて祝福を授けた妖精であり、今は呪いの主。


「お前が幸福を拒んだ日から、私はこの瞬間を待っていた。」


「幸福? それはあなたの都合でしょ。」

 ローズの声は冷たく、そして静かだった。


「私の運命は、私の手で決める。」


 その宣言に、マレフィカの瞳が怒りで燃える。

 闇が爆ぜ、床が崩壊する。


「ならば見せてやろう――お前の反逆がどれほど無意味かを!」


 マレフィカの体が歪み、変化が始まった。

 腕が翼へ、肌が鱗へ、叫びが咆哮へ。

 黒炎が巻き上がり、巨大な竜が姿を現す。


 地を這う尾が柱をなぎ倒し、壁が砕ける。

 天井が落ち、火花が散る。


 ――闇の竜、降臨。


 ローズは怯えない。

 掌を掲げると、そこに魔法陣が浮かぶ。

 光の粒子が集まり、鎧の輪郭を形作る。


 銀の装甲、青白いルーン、紅の宝石が胸に輝く。

 それは古の魔女が遺した「暁の鎧」。


「私の名はローズ。

 “眠る姫”じゃない。“目覚めた魔女”よ。」


 竜が咆哮する。炎が襲いかかる。

 彼女は腕を交差させ、結界を展開する。


「《Crystal Veil》!」


 透明な障壁が火焔を弾き返し、床を焦がした。

 その中で、ローズの瞳は静かに輝いていた。


竜が翼を広げ、空間が歪むほどの衝撃波を放つ。

 ローズは魔法陣を足場に宙を駆け、両手に光槍を生み出す。


「――《Lance Flare》!」


 無数の光槍が空を裂き、竜の胸を貫く。

 しかし竜は笑った。


「その程度か、人間のくせに!」


 竜の尾が一閃し、彼女の鎧を砕く。

 衝撃で吹き飛ばされ、石壁に叩きつけられる。

 血が口から溢れた。


 それでも、ローズは立ち上がる。


「まだ……終わってない。」


 鎧が自己修復を始め、蒼い光が体を包む。

 竜が炎を溜め、天井を崩すほどの火球を放つ。

 ローズは両手を掲げた。


「《Lumina Spiral》!!」


 巨大な光の渦が放たれ、火球と衝突。

 爆音が大地を揺らす。


 だが、炎の中から竜が姿を変える。

 七つの首が現れ、体が膨張していく。


「七つの絶望をもって、お前を飲み込もう!」


「ならば、七つの希望で討つ!」


 ローズの周囲に七枚の光輪が出現。

 それぞれの輪から異なる魔法が放たれる。


 一つ目は炎を切り裂く剣。

 二つ目は時間を止める鎖。

 三つ目は氷の翼。

 四つ目は雷の槍。

 五つ目は浄化の光。

 六つ目は風の刃。

 そして七つ目――命を燃やす最後の魔法。


「――《Eternal Nova》!!」


 全ての光が収束し、閃光が城を包む。

 七つの首が一斉に吹き飛び、竜の体が崩壊を始めた。


 黒い血が雨のように降り注ぎ、夜空が裂ける。

 ローズはその中心で、静かに呟いた。


「闇も呪いも、もう恐れない。

 私は、この世界の“夜明け”になる。」


 竜の体が灰になり、風に消える。

 残ったのは、朝焼けと静かな光だけだった。


ローズは倒れたまま、空を見上げた。

 傷だらけの体。

 けれどその瞳には、確かな輝きがあった。


 朝日が昇る。

 百年ぶりの陽光が、城を照らす。

 魔法の棘は溶け、花々が一斉に咲き誇る。


「これが……本当の“目覚め”なのね。」


 彼女は微笑み、鎧を脱いだ。

 紅い髪が朝日にきらめく。

 静かに一歩を踏み出す。


「さようなら、夢の中の私。

 私はもう、眠らない。」


 その背中には、誰も知らない力と誇りが宿っていた。


***


 後に人々は語る。

 夜明けの空を駆ける一人の少女――

 その名は“ローズ”。

 かつて眠り、そして世界を救った姫の名であると。

ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!

 この物語は「待つ姫」ではなく、「戦う姫」を描きたいという思いから生まれました。

 ローズは、誰にも救われず、それでも前へ進む強さの象徴です。


 もし少しでも心が動いたら、

 評価 ブックマーク 感想 をしていただけると嬉しいです!

 あなたの一言が次の創作の力になります。


 “眠る姫”は終わりました。

 次は、“目覚めた姫”たちの時代を――。


 最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
戦う姫ローズ! すごくかっこいいです(*´ω`*) 竜がすごく強そうなのに怯まずに立ち向かうローズ、迫力があって素晴らしいと思いました。 七つの絶望に七つの希望で戦うところが特に好きです。 ジャクロの…
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