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闇に沈み、産声に目覚める

灰色の天井を見つめながら、俺は息を吐いた。

六畳一間の安アパート。散らかった部屋に、積み上げたままの本と埃が舞っている。


俺は、人と関わることがどうしてもできなかった。

相手の視線や一言に過敏に反応し、自分がどう見られているかを考え始めると身動きが取れなくなる。

だから俺は、最初から人を避けて生きるしかなかった。


それでも、世界については知りたかった。

この世界は広大で、一生をかけてもその一端さえ知ることはできない――そう絶望しながらも、知りたいという欲求は止められなかった。

だが同時に、自分に言い聞かせてもいた。

どうせ人は死ぬのだ。孤独で惨めに死のうが、幸福な家族に看取られながら死のうが、あるいは誰もが認めるような功績を残そうが、結末は同じだと。


だから俺は、現実から逃げるように知識にすがり、無駄な妄想を積み重ねて時間を浪費してきた。

もし自分が王国を治められたなら。もしこの世の理を理解できたなら。

起きるはずのない夢想に浸り、気づけば一日が終わっていた。


「……いきなり五億円、振り込まれたりしねえかな」


そんな言葉を漏らして、自分で苦笑する。

馬鹿げているとわかっていながら、心のどこかで本気で願っている。

なにせ、振り込まれた後のマネーロンダリングの方法についてまで想像をめぐらせているのだから。


だが現実は残酷だ。

胸の奥がギュッと締めつけられるように痛み、呼吸は浅く、肺が空気を取り込んでもすぐに漏れていくような感覚しか残らない。

心臓は不規則に跳ねては沈み、全身に血が巡らなくなっていくのがわかる。

冷たさが指先から這い上がり、毛布を握りしめようとしても、力はもう入らなかった。


「……あ、やばいな」


長年の不摂生、偏った食生活、運動不足、そして孤独。

逃げ続けてきたツケが、今まさに押し寄せている。

病院にも行かず、誰にも頼らず、ただ自分を誤魔化してきた結果がこれだった。


視界が滲み、天井が暗闇に溶けていく。

積み上がった本が霞んで見え、果てしなく続く書架のように錯覚した。

俺の人生を埋め尽くしたのは、結局この孤独と知識の山だけだったのか――。


最後に浮かんだのは、くだらない妄想だった。


次の瞬間、世界は完全な闇に沈んだ。



……眩しい。


目を開けた瞬間、強烈な光に包まれていた。

温かい布にくるまれ、柔らかな腕に抱かれている感覚。

耳に届くのは、知らない言葉で優しく語りかける声。

目を凝らすと、俺を抱いているのは若い女性だった。


彼女の髪はダークブロンド――光の加減で金とも茶ともつかぬ色に揺れ、森の奥に差し込む木漏れ日のように柔らかい輝きを放っていた。

汗に濡れて額に張りついているが、その笑みは驚くほど優しい。

彼女の胸元に押しつけられるたび、鼓動と温もりが伝わり、不思議な安心感を覚える。


「……え?」


声を出そうとしたが、喉から漏れたのは甲高い泣き声だった。

自分の声ではない。小さすぎる身体、動かせない指先。

まるで――赤ん坊のようだ。


混乱する俺の前に、扉が軋む音を立てて開いた。

入ってきたのは屈強な体躯の男。

短く刈られた栗色の髪は、陽に焼けた肌と相まって大地の幹を思わせる力強さを漂わせていた。

腰には剣が下げられ、まるで戦士のような雰囲気を纏っている。


男は俺を覗き込み、女性に何かを語りかける。

意味はまったくわからないが、その声音は低く穏やかで、俺を受け入れるように響いた。


彼らが言葉を交わす声を聞きながら、俺はただ混乱に震える小さな身体で泣き続けるしかなかった。



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