悪徳領主の召喚命令
「アッシュフィールド商会」の評判が広まるにつれ、村はかつてないほどの活気に満ちていた。その穏やかな日常が、ある日、けたたましい蹄の音によって無慈悲に引き裂かれた。
村の入り口に現れたのは、物々しい黒鉄の鎧に身を包んだ騎士の一団。彼らの掲げる旗には、この土地を支配する領主、バルカス辺境伯の紋章が刻まれている。先頭に立つ隊長らしき男は、ぎらついた目で村人たちを見下し、その顔には隠そうともしない侮蔑の色が浮かんでいた。
「聖女とやらはどこだ! さっさと我らの前に姿を現せ!」
傲慢な声が、村の広場に響き渡る。村人たちは恐怖に顔をこわばらせ、静まり返った村に、重苦しい緊張が走った。
俺とエルナが店の前から進み出ると、騎士の隊長は、値踏みするような視線をエルナに向けた後、懐から一枚の羊皮紙を取り出し、高らかに読み上げた。
「――辺境伯バルカス様からの召喚命令である! この村にいるという聖女、並びにその背後で奇跡を操る錬金術師は、速やかにその身を城へと運び、我が主、バルカス様にその技術と忠誠を捧げるべし!」
あまりに一方的で、あまりに理不尽な命令。それは、俺たちに奴隷になれと言っているのと同じだった。
「さあ、来い、聖女。お前のような田舎娘が、領主様に直接お仕えできるのだ。光栄に思うがいい」
騎士の一人が、下卑た笑みを浮かべてエルナの腕を掴もうとした、その瞬間だった。
「お待ちください」
凛とした声が、場に響いた。声の主は、エルナ自身だった。彼女は震えを押し殺し、騎士をまっすぐに見据えて言った。
「私、アッシュフィールド商会代表、エルナは、その召喚には応じられません。私たちは、領主様の所有物ではございません」
商会長としての、毅然とした拒絶だった。
「……ほう。この俺に、領主様に逆らうと申すか、小娘」
騎士の隊長が、柄に手をかけ、殺気を放つ。
だが、その殺気に応えたのは、俺ではなかった。
「聖者様とエルナさんには、指一本触れさせねえぞ!」
村長の声だった。その声を合図に、いつの間にか俺たちの周りには、鍬や、棍棒や、猟銃を手にした村人たちが、騎士たちを取り囲むように立ちはだかっていたのだ。彼らの目には、恐怖よりも強い、守るべきものを守ろうとする、固い決意の光が宿っていた。
「……愚民どもが」
予想だにしなかった村人たちの抵抗に、騎士の隊長は忌々しげに舌打ちした。
「よかろう。この命令に逆らうということが、どういうことか……すぐに後悔させてやる。覚えておけ」
騎士たちは、威嚇するように馬をいななかせると、捨て台詞を残して去っていった。
俺は、自分を守るために、震えながらも武器を構える村人たちの姿を見ていた。追放され、全てを失った俺に、いつの間にかこんなにも大切なものができていた。
この村を、この仲間たちを、俺の持つ力の全てで守り抜く。
俺は、静かに、しかし固く、心に誓った。




