再会、そして伝説へ
全てを失った私、リディア・フォン・ヴァインベルグは、王都のギルドで酒に溺れる日々を送っていた。仲間も、名声も、信じていた正義さえも、もう何一つ残ってはいない。
そんな私の頭から、なぜかあの馬鹿げた噂話だけが、離れなかった。
「辺境に、錬金術師が作った国ができたらしい」
何かを確かめなければならない。そんな抗いがたい衝動に突き動かされ、私はよろめく足で立ち上がると、噂の地である辺境へと、最後の旅に出た。
長い旅の果てに、私がたどり着いた光景は、信じがたいものだった。
そこは、もはや村などというものではない。王都をも凌ぐほどに整備された街並み、活気に満ち溢れた人々の笑顔、そして中央にそびえる壮麗な庁舎。そこは、理想郷と呼ぶにふうわしい、幸福に満ちた一つの都市国家だった。
私は、あまりの光景に呆然としながらも、吸い寄せられるように中央の庁舎へと向かった。都市の指導者に、一目会わなければならない。
衛兵に案内された先は、豪華だが華美ではない、機能美に満ちた指導者の執務室。やがて、重厚な扉が開き、指導者の椅子に座っていた人物が、ゆっくりとこちらを振り向いた。
その顔を見た瞬間、私の思考は完全に停止した。
そこにいたのは、私が「役立かつ」と罵り、全てを奪ってパーティーから追放したはずの男。
――カイ・アッシュフィールド、その人だった。
かつての卑屈な影は微塵もなく、その瞳には民に慕われ、国を率いる者の、静かで、しかし絶対的な自信が宿っていた。
ああ、そうか。聖女とは、エルナのことだったのか。ゴーレムの軍勢も、悪徳領主の撃退も、全て、全てこの男が。
私が犯した過ちが、どれほど愚かで、どれほど取り返しのつかないものだったのか。そのあまりにも大きな結末を目の当たりにし、私はその場に膝から崩れ落ちた。
*
視界が、ゆっくりと俺の目線に戻る。
目の前で、かつてのリーダーが、今はただの打ちひしがれた一人の女となって泣き崩れている。その姿を見ても、俺の心に、もはや怒りも憎しみも湧いてはこなかった。復讐は、もう終わったのだ。
「……申し訳、ありませんでした」
リディアは、心の底から絞り出すように、謝罪の言葉を口にした。俺の才能を見抜けなかったこと、自分のプライドのために俺を傷つけたこと、その全てを。
俺は静かに彼女の言葉を聞いた後、一つの問いを投げかけた。
復讐でも、嘲笑でもない、ただの問いを。
「リディア。お前は、この都市で、一市民として過去を償い、やり直すか?」
*
――それから、数年後。
俺が興した都市国家「アルケイア」は、その類まれなる技術力と豊かさで、大陸にその名を知られる一大勢力となっていた。
指導者として都市の未来を見据える俺の隣には、公私にわたる最高のパートナーとなったエルナと、相変わらず元気なコア、そして多くの頼れる仲間たちがいる。
そして、発展を続ける都市の高い城壁の上。
一人の兵士が、黙々と警備の任についていた。かつての銀髪は短く刈られ、その表情は厳しいが、どこか晴れやかだった。
リディア・フォン・ヴァインベルグ。彼女は、自らの剣を、今はただこの国と民を守るためだけに振るっている。
追放された錬金術師、カイ・アッシュフィールドの伝説は、まだ始まったばかりだった。




