第4章 元に戻って
「やれやれ、ようやく戻れた」
アパートのコタツの中で、雪野雄一、平水智弘、加賀彩夏、宮崎幸琥の4人は、まったりしていた。
「何にもないね」
「ああ、このアパートの中だけは、何も変わらないような感覚があるな」
雪野は、今までずっと生活をしているアパートを見回して言った。
「本当に変わらないな。ここは」
平水が言った。台所、居間、和室、洋室…何も変わらない場所はなかったが、何も、変わろうとしなかった。
「結局さ、これが一番じゃないのかな?」
「この状況が?何も変わらないところ、いろいろと変わるところ。いろいろあるこの状況が?」
「そう。何にもないところから、何かを作る。その状況が好きなんだなぁ」
平水が、上を向いて言った。
「そうか…」
その時、何かが空を覆った。
「警報発令、魔法非常事態宣言布告、人類統合会社より、魔法暴走発生。シルフィード社管轄領域区内にて、魔力多重衝突より、魔法暴走発生。4光年に内の全ての惑星に対し避難命令を発令。現在、避難終了確認中」
次の瞬間には、もうどこかへ飛んでいた。
「戻った途端に、これかよ」
ワマラ社本社に向かう地下通路を通っている間、ずっと、悪態をついていた平水は、途中から、話さなくなった。
「来ましたか。ユキノ神、ヘイスイ神、カガ神、ミヤザキ神」
この時の国家元首である人が、彼らの名前を呼んだ。
「この世界は、もうそろそろ滅亡をするのかもしれません」
「いや、そんなことはない。まだ、この世界は滅亡はしない。ただ、これ以上の繁栄も望みようがないだろう」
「この辺りが、引き際かもしれません。ワマラ国憲法も、最初の時と、ほぼ変わらずにここまで来ました。しかし、変革の時がすぐそばまで来ているのかもしれません」
「それを判断するのは、君自身だ。そのために、諮問機関としての議会と言う立場もある。何かあれば、その方に聞くべきだろう。閣議にかけると言うことをする方法もある。まあ、いろいろあるから、とりあえずは、誰か別の人に聞くべきだな」
「そうですか…それと、この状況は、なんなんでしょうか。あなた方がいなくなってから、数年ありますが、この前の魔法暴走の時は、当時あった会社の一つであり、現在人類統合会社の管轄下にある旧サラマンドラ社領土管理機構の前身だったサラマンドラ社がしたと言う話が伝わっているぐらいです。この魔法暴走と言うのは、どのようなメカニズムで起こるのでしょうか」
「メカニズムか…」
雪野が考えている間に、加賀と宮崎が答えた。
「魔法解放をした時に、時々、失敗することがあるよね。あれが、魔法事故と言って、あれが、近い時間、だいたい数秒から長くても10秒の間で、魔法の効力が損なわれないうちに、複数発生する事を、魔力多重衝突と言うの。それがさらに重なった時、魔法暴走がおきるの。それぞれの魔法の有効圏が半分以上重なった時、魔力多重衝突が起こってその有効圏は単純で3倍にまで膨れ上がるの。それだけでも、相当な被害が出るけどね、その有効圏内に3箇所以上の魔力多重衝突が起こると魔法暴走が起こるの」
「よく憶えたな、そんな事」
「そんな事って、雪野、これも重要な事よ。なにせ、これだけで、社屋が一つ消滅することができるんだからね」
「まあ、そりゃ分かるけどさ…」
その時、神が降りてきた。
「あ、スタディン神、クシャトル神」
「お久しぶり。どうだった?この世界は」
「やっぱり、ここが一番ね。どこよりも、落ち着くのね」
「じゃあ、他の宇宙を作ると言う事は、どう思う?」
「宇宙を、作る?」
「そうだ。この世界も存続をする事になる。だが、この世界以外にあの虚数空間から実数空間を導き出し、宇宙を作る事ができるんだ。全世界正史委員会中央評議会に諮問した結果、着工許可が降りた。ようやく、新しい宇宙を作る事ができるんだ」
スタディン神とクシャトル神は、雪野達を見回した。
「君達も、来るかい?」
雪野達は、一瞬悩んだ。国家元首の方向を向いて、言った。
「後のことは、頼んだぞ」
「分かりました。では、いってらっしゃいませ」
そして、雪野達は、宇宙を作る創造神になった。
宇宙は、再び作られた。何世代ものこの終わらない輪廻は、再び、動き出した。