第3章 虚数空間上での戦い
「ムカメイグルだな」
スタディン神が確認した。
「ああ、だったら?」
「お前を、ここで殺さねばならない」
「どうしてだ?神を殺す事が、自らを神にするための最も短い経路だが、それでも、神が神を殺す事は、同族殺しとされ、永久に汚名をつける事になるぞ。それに、スタディン神、クシャトル神、マギウス神、ユキノ神、ヘイスイ神、カガ神、ミヤザキ神、8名の神々ですら、この俺自身を殺す事はできないだろうな。なにせ、最初の神として名高かった、ホムンクルス神の実の息子であり、最初で最後の真実なる神だからな!」
そう言うとムカメイグルは、スタディン神に作っていた何かをぶつけようとした。
「ちょっと待ったー!」
アダムとイブが、船に乗ってやってきた。運転しているのは、オメトル・スタディンとオメトル・クシャトルだった。
「ホムンクルス神は、本当の神ではない!」
アダムが何かを持ちながら言った。彼らを見ながら、スタディン神が答えた。
「いや、それは確かにそうなんだ。元々、人ではない力を身につけていた、ホムンクルスは、他人から、神だと崇められ、当時の政府を革命かクーデターかよく分からないが、さっさと政権から引きずりおろして、本人が神格化を宣言したのをきっかけに、神と言う単語ができたと書かれているのは知っている」
「それ以外にも、あるんだよ。ホムンクルス神が神ではないという証拠が」
「なに?」
「どういう事だ?」
「そもそも、ホムンクルス神は、神ではない事は、スタディンが言ったさっきの理由どおりだ。だが、宇宙は、誰が作った?」
「宇宙?」
「今まで宇宙は、ユキノ神達の出身を除いて、全部、神が創っている。そもそも、ユキノ神の出身のあの宇宙も、神が、オメトルに送られる時の衝撃波によって発生した制御不可能宇宙だから、神が間接的に関係している。それから導かれるのは、全ての宇宙の作られる瞬間には全て神が何らかの関与をしていると言う事で、それから考えると、オメトルも、例外ではなく、何らかの神の力が働いて、生み出されたと推測される。だが、ここでひとつの問題が生まれる。それこそが、その神がどこに行ったかと言う事だ。実際に、全世界正史委員会中央評議会が組織されたのは、ホムンクルス神から時の管理を分割するのを主目的としているので、それから考えても、それ以前の情報は、皆無。だが、ホムンクルス神が、最初の神と言うのは、間違いだと言う結論にはなる」
「では、その神こそが…」
「本当の、虚数時空間上最古の神であるだろう。昔、自分達が、メフィストフェレス神を最古の神と思っていたのと同じように、ここにいる全員が、元々の神を、忘れているか、ただ、知らないだけかとするならば…」
「良くぞ見抜いたな!」
それは、いつの間にか抜け出た、オメトル神族の二人だった。
「オメトル・クシャトルとオメトル・スタディンか」
「そう。私達が、元々の神、オメトルの子孫よ」
「…オメトル神か。種族名であるオメトル神族は、オメトル神の種族と言う事だな」
スタディンが言った。
「その通り。だから、自分達は、これまで隠してきた。何事も言われずに済むために。だが、もうその必要はない。すでに、彼らが自分達の真実を見抜いた」
「そんなことはない!ホムンクルス神こそが、初原の神だ!」
ムカメイグルが騒ぎ立てた。
「ならば、ホムンクルス自身、なぜ、あのような容器に閉じ込められなければならなかった?なぜ、ホムンクルス神から時間の管理する権限を分離できた?なぜ、ホムンクルス神だけが、あのような力を手に入れる事ができた?」
「そ、それは…」
ムカメイグルは、答えに窮した。そして、何事も言わずに、突然切りかかってきた。
「お前らは!いつもそうして!親父を馬鹿にして!」
しかし、その切りかかりは、人差し指一本で止められていた。
「お前は、前から弱い。今でもそうだ。だからこそ、お前は、消えなければならない。発展性が望めないものについては、消え失せろ」
彼らは、オメトル神として、一体化して、何かを産み出して、それが、非常に大きく拡大した。
「我こそが、オメトル神なり!ムカメイグル神よ、いや、神でもないものよ。お前は、消え行く運命だ。さっさと、エネルギーへと換われ」
そして、オメトル神が人差し指でムカメイグルの額に触れると、瞬間的に体が霧状の粒子に変わり霧散した。
「ムカメイグルは、どうなったんだ?」
「虚数空間のエネルギーになった。このエネルギーは、この空間が消滅するまでの間、全てのところに普遍的に存在する事になる」
「ずっと存在を?」
「ああ、そう言う事になる。これから先、全ての物の中に、ムカメイグルの魔力、エネルギー、その他いろいろ入る事になる。結論としては、どうしても、神の力は必要と言う事です」
元に戻りながら言った。
「だとすると、オメトル神にも、父たる存在がいると言う事か?」
「そう言う事です。オメトル神の父たる存在もいますが、ホムンクルス神によって、殺されました。ホムンクルス神以前の神で生き残ったのは、私達のオメトル神だけでした。逆に言うと、オメトル神だけが現存する最古の神と言う事になります」
「…なるほどね。では、オメトル神も全世界正史委員会中央評議会に連れて行きましょう」
こうして、ムカメイグルが消滅し、オメトル神共々、全世界正史委員会中央評議会に連れて行った。