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第7話-別れ-

 次の日の朝、黒猫(和樹)は妙子の部屋のソファの上にいた。

昨日の夜、妙子が「私が寝たら和くんも消えてしまうんでしょ、だったら私寝ない」そう言って、妙子が寝ようとしないので「絶対に黙って消えたりしない」と、約束をして妙子を寝かせた。

だが、いつまでも傍にいられるはずもない。

突然いなくなるのではなく、妙子を納得させてから、離れよう。

黒猫(和樹)はそう考えていた。


 朝、6時を過ぎても、7時を過ぎても妙子が起きてこない、大丈夫か?黒猫(和樹)は、カーテンの向こうで眠る妙子を気にしていた。

妙子の部屋はワンルームで、ベッドの仕切りにカーテンが掛かっていた。

少しすると、そのカーテンの向こうから妙子の声が聞こえてきた。


 「おはようございます飯田です。急で申し訳ありませんが、急用ができてしまって…今日、休ませていただきたいのですが…あっ、はい、はい、はいありがとうございます。よろしくお願いします」

電話が終わると、妙子は静かに歩いてソファの前に来た、そしてソファの前でしゃがみこんで、よかった、和くんいた!

そんな顔で、黒猫(和樹)を見ていた。

妙子はこうして、一晩中何度も黒猫(和樹)を見に来ていた。

黒猫(和樹)は寝たふりをして、一睡もしてはいなかった。


 妙子も4時近くまで、ソファの前まで何度も来ていたので、明け方やっと眠ったようだった。

その妙子も今起きて来て、安心した顔で黒猫(和樹)の寝顔を見ている。


 「ズル休みか?」黒猫(和樹)の言葉に

妙子は「和くん起きてたの?」と、少し驚いたように言った。

そして「ズル休みじゃないよ、急用だよ。それに有休扱いにしてくれたの、普段あまり有休を取ってなかったの」余裕で話す妙子に、


 「妙子、あのな…」黒猫(和樹)が話しだすと、「あっ、そうだ、昨日の夜から何も食べてないよね、そこのコンビニ行ってくるね」

妙子は黒猫(和樹)の話を遮るように話しだす。

妙子は、昨日の夜から黒猫(和樹)の言葉に構えているようだった。


 「和くん何がいい?キャットフードかなぁ?」妙子が黒猫(和樹)に聞いた。

妙子の言葉に黒猫(和樹)は信じられないと言った様子で「妙子、キャットフードはないだろう…」黒猫(和樹)が呆れたよう言うと、

「そっつか…和くんだもんね…」そして「私、昨日から気になっていたんだけど…和くん、和くんはなぜ黒猫のままなの?」妙子が聞いてきた。

黒猫(和樹)は少し罰が悪そうに「俺か…それは…まだ修行が足りないんだよ…」と、横を向いた。

そんな黒猫(和樹)を見て、妙子はクスクス笑い出した。

そして「和くんらしいね」と笑った。

妙子の笑顔を見て、黒猫(和樹)は「妙子、コンビニじゃなくて出かけよう!ハンバーガ食べに行こう」

黒猫(和樹)の思いがけない提案に妙子は、

「えっ、本当に?ほんとにほんと?」

嬉しくてたまらないように、何度も黒猫(和樹)に聞いた。


 部屋の中で、いつ空へ帰る話を切り出すか?

を考えたり、これ以上妙子を悲しませたくない。

そんなことばかり考えるより、外へ出て妙子をいっぱい笑顔にしたい。

妙子が納得してから、妙子から離れよう、黒猫(和樹)はそう考えていた。


 そして黒猫(和樹)は妙子に説明を始めた。

「妙子いいか、外に出たら俺の方ばかり見ないようにな。

何度も言うけど俺、つまり黒猫が見えているのは妙子だけだからな。

それと会話は全て心の中で、できるから『和くん』なんて声に出さないようにな。

それと俺は直接は何も食べない、妙子が食べてくれたのが俺に繋がるんだ」

妙子は、黒猫(和樹)の言葉を頷きながら真剣に聞いていた。

「それと俺が『バニラのシェイクが飲みたいなー』って言ったらバニラを頼むようにな!」と黒猫「和樹」が上から目線で言ってきた。

妙子は「和くんずるい、私がチョコのシェイクが好きなの知ってるくせに」と笑いながら、妙子自身も別れが近づいて来ているのを感じ取っていた。


 黒猫(和樹)が「出かけよう」

と、言ってくれたのは、少しでも妙子が笑顔になれるように、そんな黒猫(和樹)の想いは、充分過ぎるほど妙子に伝わっていた。


 外に出ると黒猫(和樹)の姿が見えなくなった。

妙子は慌てて「和くん、和くん、どこにいる

の?」と、黒猫(和樹)を呼んだ。

「妙子ここだよ、妙子の左肩の上だよ」

そう言って黒猫(和樹)は身を乗り出して妙子を見た。

「よかった」妙子は安心したように言った。

だが、黒猫(和樹)には体重がないので、いるのか居ないのかわからなかった。

妙子が「和くん、私が見える所にいてよ、心配になるよ」そう言うと、黒猫(和樹)は妙子の左腕まで降りて、まるでコアラが木に抱きつくように妙子の左腕につかまっていた。


 妙子は嬉そうにハンバーガーショップへ向かった。

「妙子、顔すごいニヤけてるぞ」黒猫(和樹)に言われ「うそ、そんなことないよ」と、言いながら顔を引き締めて店内に入った。

カウンターでメニューを見てると、黒猫(和樹)はカウンターに飛び降りて、メニュー表の上で「チーズバーガーは妙子も好きだよな、それとポテトにシェイク。シェイクは妙子の好きなチョコでいいよ」と、黒猫(和樹)

妙子は「ありがとう、今日はチョコのシェイクね、次は和くんの好きなバニラのシェイクにしようね」妙子の言葉を聞いて、妙子なりに心の準備をしてるのが黒猫(和樹)には、わかった。

次の約束なんてあるはずないけど、自分に自分で言って、そう思い込ませたい。

そんな妙子が、黒猫(和樹)にはいじらしかった。


 妙子は窓辺の2人がけの席に座った。

周りから見れば、妙子が1人で黙って静かに食べているように見える。

でも、テーブルの上に黒猫(和樹)が座っていて、ずーっと2人で話してた。

2人が子供の頃の懐かしい話。

黒猫(和樹)が、空で妙子のひいおばあちゃんに会った話。

妙子が会社の愚痴を話しても、黒猫(和樹)は

「そうか、そうか」と聞いてくれた。

楽しい時間は嘘のように早く過ぎていった。


 妙子と黒猫(和樹)は妙子の部屋に戻っていた。 

黒猫(和樹)はソファに座って話始めた。

「妙子、人の死ってな、その人がいなくなってしまうんじゃないんだ、目には見えなくなるよ、でもな生きていた時よりも、大切な人の近くにいるんだよ。俺たちが願うのは、残してきた家族、大切な人が幸せでいてくれること、元気で笑っていてくれることなんだ。

それが、俺たちの幸せなんだよ。

妙子の家と俺の家は隣同士で、俺たち子供のころから、家族同士がみんな仲良くてさ、だから俺には大切な家族が二つあるんだ。

それに、話しかけてくれた言葉は全て聞こえてるんだ。

だから妙子、いつでも話しかけてほしい、俺には、妙子の声いつでも聞こえているからな」


 黒猫(和樹)の言葉に、妙子は「和くんごめんね、私…和くんに心配ばかりかけて、和くんを困らせて…」今にも泣き出しそうに言った。

「妙子、違うよ、妙子の気持ち全部伝わってきて『妙子、こんなに…』ってすごく嬉しかったよ、ありがとうな。でもな、俺、妙子には笑っていて欲しいんだ」と、黒猫(和樹)が言った。

「うん、わかったありがとう」と、妙子は頑張って笑って見せた、そして「和くん、和くんの心の声、もう私には聞こえないの?」と、黒猫(和樹)に聞いた。

黒猫(和樹)は「じゃあ、今から俺が心の中で妙子に話しかけるからな、いくよ」

気持ちを込めて妙子に話しかける黒猫(和樹)

黙って目を閉じて集中する妙子。

「………」

「ダメだ何も聞こえない…」一瞬寂しそうな顔をする妙子だが、すぐに笑って見せた。

そして、いたずらっぽい目をして「聞こえない、でもなんとなくわかる。多分私の悪口でしょう」と、妙子が笑った。

「さすがシゲさん(妙子のひいおばあちゃん)のひ孫だね。鋭い!」と黒猫(和樹)も笑った。


 黒猫(和樹)は、妙子の笑顔を見ながら思った。

 妙子ウソついてごめんな、今すぐにでも黒縁和樹の姿に戻れるんだけどな、そうすると、よけいに妙子を悲しませる気がするんだ、だから黒猫のまま帰るな。


 黒猫(和樹)はソファの上に、すくっと立ち「じゃあな妙子、俺帰るな」そう言ってベランダに向かった。

それは黒猫(和樹)が、妙子の家に遊びにきて帰るとき、いつも言っていた言葉だった。

妙子もあの頃のように「うん、和くん、気をつけてね」そう言って、ベランダに向かう黒猫(和樹)の後ろを歩きながら、必死で涙をこらえていた。

ベランダの手すりに飛び乗ると、一度だけ振り向いて黒猫(和樹)は夜空へ駆け上がっていった。

 妙子の目から、こらえていた涙が溢れ出した。「和くん、私、和くんのことずっと大好きだった…これからもずーっとずーっと大好きだからね」妙子は心の中で大きな声で叫んだ。

「もう、この声、届かないんだよね…」妙子は寂しそうに言った。

でも、すぐに慌てて「えっ、違う、私の声は和くんに届くって言ってた」…

「どうしよう…和くんに聞こえたかな…」と、まだ少し寒さの残るベランダで、寒さも忘れて頬を赤らめる妙子でした。

そんな妙子を黒縁和樹に戻った和樹が空から見て「妙子、その言葉、さっき俺が妙子に言った言葉と同じだよ」と微笑んだ。

最後までお読みいただきありがとございました。

「黒猫は案内人」全7話はこれで終わりです。

最後まで楽しく書かせていただきました。

いかがだったでしょうか?お楽しみ頂けましたか?

よろしかったら、コメントなどいただけると嬉しく、ぜひこれからの糧にさせて頂きたいと思います。

今後ともよろしくお願いいたします。

また、次の作品でお会いできたら嬉しく思います。

ありがとうございました、

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