表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

第6話-再会-

妙子がマンションに帰り電気をつけると、そこには最近見かけなかった黒猫がいた。

妙子は、ハッとした。

だが、フラミンゴやネズミや、シマウマが部屋にいた時ほどは驚かなかった。

黒猫はマンションの前でよく見かけていたので、他の人からも見える普通の黒猫と思っていた。


 妙子は黒猫を横目に、

「ベランダの窓、開けたままだったのかなー?」

そう思いベランダへ向かった。

すると「いや、ベランダの窓は開いてなかったよ」

妙子の耳にはっきり聞こえた。

妙子は黒猫を見て「今の…声…」と聞くと、

「そう俺だよ」

その黒猫が、妙子に向かって言った。


 妙子はその声に衝撃を受けた。

足元が崩れヘナヘナと座り込んだ、驚きに体がついていけなかった。

その黒猫の声は、妙子が忘れるはずのない声だった。

少し落ち着きやっと口から出た言葉…

「か…ず…く…ん…」

「そうだよ、俺だよ黒縁和樹。今日は来てくれてありがとうな。嬉しかったよ」

黒猫(和樹)の言葉に、今度は身体をふるわせて泣き出した。

「和くん…和くん…和くん…和くん…和くん…」ずーっと声に出して呼びたかった名前。

涙が止まらなくなった妙子の前で、黒猫(和樹)は妙子が泣き止むのをじっと待っていた。


 少し落ち着きをとり戻し「本当に和くんなの?」と、聞く妙子に、

「今日、来てくれた時『和くんだったら教えて』って言ってただろ」と黒猫(和樹)は言った。

その言葉に、妙子はまた泣き出した。

「そうだけど…ずーっとずーっと会いたくて…でも…考えたら苦しくなってきて…」

また泣き出した妙子に黒猫(和樹)は、テーブルの上のタオルを渡して「わかった、わかった。ごめんな。だからもう泣くな、なっ、妙子」黒猫(和樹)は困ったように妙子の顔を覗き込んだ。


 黒猫(和樹)から渡された、タオルで涙を拭きながら、しばらくして「和くんあのね…」と、最近妙子の周りで起きたことを、一つずつ丁寧に話した。


 黒猫(和樹)は「うん知ってる、いつも一緒にいたんだ、だから妙子のヘッドバンギングも、ワルツも、オセロも見てたよ、病院にいた時は、妙子にも俺のことが見えただろ」

黒猫(和樹)の言葉に、妙子は驚きながらも、「和くんはいつも一緒だったんだ…」と、つぶやくように言った。


 やはりみんな関係があった。

そして、周りの人からも見えてると思っていた黒猫(和樹)が和くんだった…


 妙子の考えていることが聞こえたかのように、黒猫(和樹)が言った。

「みなさん、妙子を心配して来てくれたんだよ。フラミンゴのみなさんは、生前プロのダンサーで、チームの名前がフラミンゴ。

社交ダンスのペアのネズミさんもプロのダンサー、ご夫婦でダンス教室をされていたんだ。

教室の名前が「チュートリアル」

シマウマさん、こちらも将棋のプロ棋士。

ナマケモノさんもプロの理学療法士」

黒猫(和樹)がそう言うと、黒猫(和樹)の周りに、フラミンゴ、ネズミ、シマウマ、ナマケモノが浮かび出した。


 妙子は「わァー」と、驚きながらも、再会を喜んでいた。

黒猫(和樹)は、ゆっくり話始めた。

「俺が空の世界に行った時、皆さん本当に優しくて、よくしてもらったんだ。

そのうち、俺も落ち着いてきて『これからは俺もここ(空)から皆んなを見守ろう』そう思っていたんだ。でも、妙子お前がどうしても気になってな、妙子は人見知りが激しくて、あがり症だけど、いつも笑ってたよ。

だけど空から見る妙子は心を閉ざして、笑わないし、毎日疲れた顔をしてて、そんな妙子を見てどうしたら良いのか分からなかった。

そしたら、フラミンゴのみなさんが『私たちが妙子さんを元気づけに行きますよ』って、言ってくれたんだよ」


 黒猫(和樹)がそう言うとフラミンゴたちは一斉に右足。左足。右足。左足。時々クロスと踊り出した。

妙子が「わぁーっ」と懐かしむように拍手していると、次の瞬間フラミンゴたちは、生前の姿に戻った。

周りを見るとネズミも、シマウマも、ナマケモノも全員が生前の姿に戻っていた。


 驚きを隠せない妙子に、黒猫(和樹)は、

「妙子覚えてる?フラミンゴの皆さんと、ペアのネズミのお二人はテレビで…」すると妙子は、黒猫(和樹)が言い終わる前に、嬉そうに「覚えてる!フラミンゴの皆さんのダンスを見て思ったの、それとワルツのペアの男性の言葉で、私が何度も足を踏んだ時の話じゃないかな?ってそう思ったの」

と、やっぱりそうだったのね、と言うような顔で言った。


 妙子がペアのネズミ、今は生前の姿の2人の前に行くと「そちらは宮澤さんご夫婦だよ、妙子が上司からリズム感がないって言われてるのを聞いて、『妙子さん大丈夫ですよ、私たちに任せてください』って言ってくれたんだよ」

と、黒猫(和樹)が言った。

妙子は「ありがとうございました。足を踏んでばかりでごめんなさい。大丈夫でしたか?」と申し訳なさそうに聞いた。

妙子の言葉にペアのネズミ(宮澤夫婦)は「大丈夫ですよ。私たちの方こそ、私たちのために『最高級のチーズを買おう』って走ってくれて嬉しかったですよ」と、言った。

ペアのネズミ(宮澤夫婦)は、夫婦揃って長身でスタイルが良くて、美男美女のご夫婦だった。


 次にチームフラミンゴの前に行った妙子に、黒猫(和樹)が「そちらが…」と言い始めると、チームフラミンゴは20人ほどいて「杉野です」「安藤です」「菅野です」…

と、それぞれが自己紹介をしてくれた。

妙子は「ありがとうございました。楽しかったです」と、微笑んで言った。

「妙子さんダンス上手でしたよ」と、フラミンゴのダンサーの一人(杉野)が言った。

他のダンサーも「ホント、上手でしたよ」「可愛かったですよ」と、妙子を褒めた。

妙子は恥ずかしそうに照れながら「ありがとうございます」と小声で言った。

チームフラミンゴの人たちも、長身でスタイルが良くて綺麗な人ばかりだった。


 そして妙子は、将棋の棋士の前に行った。

棋士は落ち着いた、羽織袴の似合う穏やかな雰囲気の男性だった。

黒猫(和樹)が「そちらは松浦さんだよ、妙子が優柔不断な自分を悩んで落ち込んでるのを見て、『今度は私が行きますよ』そう言ってくれたんだ」

妙子は「ありがとうございました」と言いながら、少し間をおいて「でも私が対戦したのはオセロで、将棋では…」と言った。

すると、黒猫(和樹)が「妙子、将棋わからないだろ、だからオセロにしてもらったんだよ」と笑った。

妙子は「あっ、」と苦笑いをして「ありがとうございました」と言った。

そして「あの…一つ聞いてもいいですか?」と続けた。

「もちろんですよ」と、シマウマ(松浦)が答えると、妙子は「あーっ!やっぱりあの時の声、そうだったんですね」と言った。

「私の声を覚えていてくれたのですね」と微笑むシマウマ(松浦)に、妙子は「はい、心が覚えています」と笑顔で答えた。

「それで、私に聞きたい事とは何でしょうか?」

シマウマ(松浦)が妙子に聞くと、

妙子はチェストの上に置いてあった、オセロ盤を持ってきて「このオセロ盤、以前私の家にあった物で、10年ぐらい前に従兄妹に譲ったものだと思うんです。これどこに…」

妙子が不思議そうに聞くと、シマウマ(松浦)は「ああ、オセロ盤ですね、これは妙子さん、あなたの記憶の中からお借りしました」シマウマ(松浦)の言葉に、訳が分からない妙子は「お母さんにも見せようと思って、今朝家を出るときに、カバンに入れたつもりなのに入ってなくて、何度も確認したはずなのに…」と、言いながら妙子は納得のいかない表情だった。


 黒猫(和樹)は「妙子、オセロ盤は今、松浦さんが言ったように、妙子の記憶の中の物だから、他の人には見えないんだよ」と、言って続けた。「だから整形外科もそうだよ、妙子にだけ見えていたんだ」と、黒猫(和樹)は言った。

その言葉に、妙子が「病院はあったよ…でも一週間後に行ったら、看板が外されて椅子とかが運び出されてて…」と寂しそうに言った。

黒猫(和樹)はナマケモノ(野上)に手を差し向けて「あの病院は、そちらの野上さんが生前経営されてて、今は息子さんが継がれているんだ、今、リフォーム中なんだ」

ナマケモノ(野上)は眼鏡をかけていて物腰の柔らかい男性だった。

「妙子さん荒療治でしたね、ごめんなさいね」

ナマケモノ(野上)がそう言うと、黒猫(和樹)は「俺がお願いしたんだよ、野上さんは元プロの理学療法士で、妙子の心の力になって欲しくて荒療治だと思ったんだけど、お願いしたんだ」黒猫(和樹)がそう言った。

妙子は「でも、どうして私の姉弟とか、私の記憶を知っていたの?」と妙子は聞いた。

妙子の問いに、ナマケモノ(野上)は「私の目に映った妙子さんの記憶のことですね」

ナマケモノ(野上)の言葉に妙子が頷くと、

「それは妙子さん自身の心象風景です、妙子さんの嬉しかった事、悲しかった事が映し出されたのです。だから妙子さんが認めたくない悲しい記憶も見えてしまうのです。辛かったですね、しんどかったですね」と、ナマケモノ(野上)。

妙子は「やっぱりナマケモノ先生の声だ」と涙を浮かべ「いいえ、ありがとうございました。私、あの後目が覚めたら、心が楽になっていたんです。そして和くんの死も受け入れることができました」とお辞儀をする妙子に、黒猫(和樹)は「妙子、ナマケモノ先生じゃなくて、野上先生なっ」と笑いながら言った。

妙子は慌てて「ごめんなさい」と身体を90度になりそうな勢いで深々と頭を下げた。

そんな妙子を見てナマケモノ(野上)は「妙子さん、いいんですよ」と微笑んだ。


 妙子が顔を上げると、チームフラミンゴのダンサーたち、ペアのネズミ(宮澤夫婦)、シマウマ(松浦)、ナマケモノ(野上)から優しさが光のようになって妙子を包んだ。

黒猫(和樹)は妙子の前に行き「妙子、みなさん本当に妙子のことを心配してくれて、妙子が電車の中で泣き出した時も、妙子の気を引くように桜並木の下を走ってくれたんだよ」と言った。

妙子は、あのとき私のために走ってくれてた…

妙子はまた涙が溢れて来た。

なんて言えば、感謝の気持ちをうまく伝えることができるんだろう…

そんな顔で、チームフラミンゴ、ペアのネズミ(宮澤)、シマウマ(松浦)、ナマケモノ(野上)に向いて「ありがとうございました。本当にありがとうございました。私…皆さんにこんなに…思っていただけて…」妙子はそう言って声を詰まらせた。

黒猫(和樹)が「妙子…」と、妙子に寄り添うように言うと、

妙子は「和くん、なんて言えばいいんだろ…?

私、すごく幸せだよ。これから先どんな辛いことがあっても、みなさんのことを思い出したら、頑張れる」

妙子のその言葉を聞いて、シマウマ(松浦)は「妙子さん、妙子さんのその言葉を聞いて私たちも幸せですよ」と言った。

そして後に続いて

「ホント最高の言葉ですよ」

「私たちも妙子さんのことは忘れませんよ」

「ずーっと妙子さんのこと見てますからね」

と妙子に言葉がかけられた。


 そしてナマケモノ(野上)が「和樹さん、そしたら私たちは一足お先に失礼します。妙子さんお元気で」と言ってお辞儀をした。

黒猫(和樹)と妙子は一人一人に感謝を伝えた。

チームフラミンゴとペアのネズミ(宮澤夫婦)、

シマウマ(松浦)、ナマケモノ(野上)は、ベランダの窓を通り抜け、夜空へと浮かんで行った。



 妙子は慌てて窓を開け、ベランダに出て見送った。

4月とはいえ花冷の空気が冷たい夜だった。

見えなくなるまで、夜空に手を振り続ける妙子の隣で、黒猫(和樹)は妙子を悲しませずに妙子から離れることを考えていた。




次回予告

次回は最終話になります。

やっと会えた和樹、見た目は黒猫でも和樹に間違いない。

「妙子、あのな…」黒猫(和樹)が話出すと、話を遮る妙子。

黒猫(和樹)から、別れを聞きたくない妙子。

一緒にいることはできない、でも離れたくない。

次回もお楽しみに!

あとがき

最後までお読みいただきありがとうございました。

黒猫こそが和樹でした。

妙子を心配する和樹を見て、和樹が空で知り合った人たちが、フラミンゴ、ネズミ、シマウマ、ナマケモノに転生して妙子のもとに来ていたのでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ