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第2話-世界一小さな社交ダンス-

フラミンゴたちが妙子の前に現れて数日。

突然現れて、ヘッドバンギングして突然消えた。

夢…?

いや夢じゃない!

妙子は自問自答しながらも、自分が子供の頃から他の人には見えないものが、

自分にだけ見えていた事を思い出していた。


 会社で「何かいいことあった?」

なんて聞かれて、フラミンゴとのヘッドバンギングを思い出していた。


 その時「飯田さん」上司が妙子を呼んだ。「あっ…はい。」

それだけで緊張する妙子。

ダメだしは毎度の事。

「仕事が遅い。」

「段取りが悪い。」

「リズムが悪い。」

言い難いことをズバズバ言ってくる。


 帰りの電車の中で、なにを考えるでもなくボーッと考えていた。

電車を降り、自宅マンションについた時、


 マンションの前を黒猫が横切った。

あっ、この前も黒猫に会った気がする。

この辺りに住んでいるのかなぁ…?妙子は何となく黒猫が気になってきていた。


 部屋に入ると異変に気がつく、今度は何?何か音がする。

小さな音だけど、それはキッチンの棚の上の鍋の中から聞こえる。


 鍋をテーブルの上に置いて…何…?


まさかフラミンゴ?そんな訳ないよね…ゴキブリ?

おそる、おそる鍋の蓋を持ち上げた。

妙子は驚いて鍋の蓋を落としそうになった。

鍋の中には二匹のネズミが、社交ダンス…?

二匹のネズミは、小さな手足をスーっと伸ばして流れるように優雅に踊っている。


 前回のフラミンゴで免疫がついたのか、直ぐに冷静になり

しばらく、二匹のネズミのダンスを見ていた。

妙子は上司の言葉を思い出し、リズム感って、こう言うのを言うのかなぁ…?

…………

「私ね、今日上司からリズムが悪いとか色々言われてね…」

と、ネズミたちに愚痴ってた。


 するとネズミたちは、踊るのを止めた。

「あっ…ごめん…邪魔するつもりは無くて……」

慌てる妙子に男性パートを踊っていたネズミが手を差し伸べた。

女性パートを踊っていたネズミは小さな手で拍手をしていた。

妙子は意味が分からず、

………

「えっ…?」

妙子が困った顔をしていると、ネズミは、穏やかな優しい顔でお手をどうぞ!

…と、言っている様だった。

「いやいや無理でしょう!?」

妙子がそう言ってもネズミは手を差し出したままだった。

妙子は静かにネズミの手に人差し指を乗せてみた、


 その時、グラグラ…ッ…大きく揺れた気がした。

地震?

いや、違う。


 次の瞬間、妙子の前には二匹のネズミがいた。

二匹のネズミは何も言わず優しく微笑んでいた。

妙子は、直ぐには状況が掴めず辺りを見渡していた。

妙子が辺りを見渡すと、妙子の周りは三百六十度白いホーローの壁。

天井には見慣れた蛍光灯。

私…いま鍋の中にいるんだ、少し状況が掴めた頃、


 ネズミは妙子の手をとって踊りはじめた。

どこからか音楽が聞こえる。

ワルツだ!

聞いたことがある。勿論踊ったことはない。

妙子は踊りながらも、何度もつまずいたり、ネズミの小さな足を踏んだりした。

「ごめん。…ごめんね。」

妙子がしゃがんでネズミの足をさする。

ネズミは、大丈夫だよ!と言うように妙子の手をとり、また踊りはじめた。

男性ネズミと踊っているあいだ、女性ネズミは

一…ニ…三…一…ニ…三……、

と手拍子でリズムをとっていた。


 妙子は何だろう?この安心感、細い腕なのに力強い。

それに女性ネズミの小さな手の手拍子がハッキリ聞こえる。

優しくて、とても心地いいリズム。

私、いまワルツを踊っている!

すごく楽しい。

さっきまでのぎこちなさは消え、妙子の足はスムーズだった。


 妙子は初めての気持ちだった。

男性ネズミの柔らかで、温かい手。

妙子を見つめる優しい眼差し。

妙子と男性ネズミを側で見守ってくれる、女性ネズミから伝わる温もり。

妙子は泣きそうなくらい幸せだった。

今まで、包まれた事のないフワフワの柔らかい毛布に包まれている様だった。


 どのくらい踊り続けたのか、妙子はベッドで目を覚ました。

嫌な予感がして、急いで鍋の蓋を開けた。

「いたーっ!」

二匹のネズミは、おはよう。と、言うように手を振っていた。

妙子は嬉しくて、冷蔵庫からチーズを取り出し、小さく切ってネズミに渡した。

「仕事が終わったら、直ぐに帰ってくるからね。

待っててね。」

ネズミはチーズを両手で抱えてお辞儀をした。


 会社に着いた途端、妙子はもう帰ることを考えていた。

一日千秋の思いで終業時刻を待っていた。

会社を終えた妙子は、直ぐ近くのデパートに走った。

最高級のチーズを買おう。

帰って一緒に食べよう。

チーズを買って大急ぎで、自宅マンションへ向かった。


 マンションの前で黒猫に会った。

また黒猫…?

黒猫は立ち止まって妙子を見ている。

黒猫が妙子に何か言いたそうにも見える。

妙子は気になったが、急いでネズミの待つ部屋に帰りたかった。


「ただいまーっ!」

「おなか空いたよね、チーズ買ってきたよ!」

そう言いながら鍋の蓋を取ると

ネズミは居なくなっていた。

…………妙子は…座り込んだ…


 次の瞬間、

スマホから聴き慣れた目覚まし用の音楽が流れた。

はっ、と目が覚めた。

スマホの画面が点滅した、そして黒猫が映って消えた。

えっ…いまの何…?

…夢…?

急いで、ベッドの横のテーブルの上の鍋を見た。

中にネズミはいない。

勿論チーズもない


 妙子はしばらく呆然と鍋を見ていた。

そして、妙子は手に残るネズミの温もりを感じ、

名残り惜しむ様に手を包み込んだ。

その時

妙子のセーターの袖口に、小さな白い毛が一筋光って見えた。

妙子は安心した様に「ふふ…」と、小さく笑った。

そして、消えたネズミたちに

「ありがとう、楽しかったよ。

もう上司にリズムが悪い。

なんて言わせないからね。

それと私、何度も足踏んじゃったけど大丈夫?

慰謝料の請求に来てね。

待ってるからね。」


朝日に光るベランダの手すりの上から一匹の黒猫が、妙子を

静かに見ていた。


_____________________


お読みいただきありがとうございました。

よろしければ、感想などいただければ幸いです。




次回予告

妙子が帰宅すると、今度はまさかの「シマウマー

妙子の帰りを待っていたかのように、シマウマは妙子に

静かに会釈をした。

まして妙子を驚かせたのはシマウマは正座をしていた。

フラミンゴ、ネズミ、今度はシマウマ!

そしてシマウマが残していった物は?

次回もお楽しみに!

あとがき


最後までお読み頂きありがとうございました。

前回のフラミンゴに続いて、今回妙子の前に現れたのは二匹のネズミ、

妙子が始めて踊る社交ダンス、それは鍋の中でした。

最初は戸惑う妙子でしたが、

優しさと温もりの中で、幸せな時間を過ごします。

ネズミたちとの優しい時間をへて妙子は、また一歩前に踏み出せたようです。

そしてなんとなく、黒猫の存在が気になって来た妙子です。

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