第漆話 【5人目の妖狐】
夜にアパートの扉をノックする人がいるなんて……何か用事かな?
飯綱荘は新しいアパートでも無いし、部屋も全て空いていない事になっている……そんなアパートに何のようだろう?
なんかちょっと怖い……でも管理人の私が出ないとだよね?
「今いきますー!」
玄関の鍵を開けて扉を恐る恐る少しだけ開いてみたが誰もいない……。
「どちら様ですかー?」
一応小声で聞いてみたが返事は無い……私の気のせいだったのかな?
扉を閉めようとした時、何かに押さえつけられるように扉が閉まらない。
「あ、あれ? ん〜!!」
力一杯扉を引いても閉まらない。
いつもなら軽い力でも閉まるのに? 扉が閉まらないので何かつっかえてるのかもと確認しようとすると、そこには黒い影が扉を押さえていた。
「ひっ!」
思わず扉から離れようとするが、黒い影は私の腕を掴んでくる。
怖くて声が出ないよ……。
「しゃがめ!」
声に釣られてその場にしゃがむと、白君が走って黒い影を殴り飛ばしすかさず扉を閉めた。
「ふ〜……大丈夫だったか?」
「あ、ありがとう……白君……」
白君に手を引いて起こしてもらうが、足に力が入らない……ガクガクとまだ震えている。
「さっきのは一体……?」
「それは私が説明しましょう」
玄関には赤井さん、銀君、十字さん、灰さんが集まっていた。
白君の肩を借りていつもの食堂まで来ると、皆んな席に着く。
「赤井さん、さっきのは……?」
「あれは夜行の者です」
「やぎょう?」
「百鬼夜行は聞いた事ありませんか?」
「確か……鬼が行列を作って歩く……でしたっけ?」
「そうですね、さっきのアレは鬼では無いですが、似たような者です」
「赤井さん達と同じ妖怪?」
「それも違いますね。 幽霊と妖怪の間にいる者とでも言いましょうか」
「その夜行の人が何でこのアパートに?」
「恐らくですが、この飯綱荘は私達を封じる程の強い霊力の結界で守られていました……ですが、智子さんに変わってその力が著しく弱くなったからでしょうね」
「私のせい?」
お婆ちゃんは皆んなを封じる程の強い霊力を持っていたけど、私にはそんな力が無いから?
「要するにトモの力が弱いから結界の中に入って来たって事だ」
灰さんはダルそうに話してくれる。
「僕達は結界の中に入って来た異物を感じる事が出来るから今まではさっさと追い出してたけど、今回はトモちゃんが扉を開けちゃうんだもん」
「扉を開けるとダメなの?」
「向こう側からは開けられない。 内側の誰かが扉を開けると招き入れた事になる」
「そうですよ、変だと感じたら決して扉を開けない事です。 今回は白が間に合いましたが、あのままだと智子さん連れ去られてましたよ」
「連れ去られるって……どこに?」
「アイツらの場所、この世とあの世の境だ」
「この世とあの世の境って……」
「狭間の事だよ。 だからトモちゃん気をつけてね」
「わ、わかった……皆んな心配かけてごめんなさい。 白君も助けてくれてありがとう……」
「……これから気をつければいい……」
白君はそっけない返事だが、助けてくれた事には変わりないみたい……狭間とかよくわからないけど……。
「あの……」
「なんですか?」
「私がお婆ちゃんと変わってここの管理人になって結界? が緩んだと言う事は、皆んなここから逃げ出せたんじゃ……?」
「……そうですね……逃げようと思えば流れたかも知れませんが……」
「俺達はここが気に入ってんだよ」
「そうそう、僕達お婆ちゃんの事も好きだし、トモちゃんの事も好きになったからね。 それにここを勝手に出て行くならトモちゃんをーームググーー!」
何かを言いかけた銀君の口を十字さんが押さえている。
「何すんだよ!」
「銀が余計な事を言うからだ!」
「あ……ごめん……」
何だろう……私に言えない事なのかな?
「ま、まあ、皆んなここが気に入ってるってこった。 それじゃトモすけ、これから気をつけてな」
と、ともすけ……?
十字さんに初めて名前を呼ばれたけど、ともすけって……。
皆んなが席を外して部屋に戻る時、白君がそっと肩に手を置いて耳元で囁いた。
「あんま心配させんな……」
私は体がビクッとなりしばらく席から立ち上がれなかった……。
次の日の朝、皆んなの分の朝食を作って並べておいたら銀君が「トモちゃん、僕のご飯が無いよ?」 と言って来た。
「そんなはずは……」
私はちゃんと5人分用意しておいた。
私は別に食べてるし、足りない事は無いはず。
ちゃんと食器も5人分テーブルにある。
「用意したんだけど?」
「あ! まさかまた十字の仕業か〜!? 十字ーー!!」
行っちゃった……。
しょうがない、私のお昼ご飯を銀君にあげるか。
今日はどこかで買って行こ。
「行ってきまーす」
昨晩の事があるからつい恐る恐る扉を開けてしまう。
「朝は平気だぞ」
「ひゃい!!」
突然後ろから声をかけられてびっくりしてしまう。
「あ、白君……おはよう」
「ああ……、……そろそろ玄関開けてもらっていいか? 学校に行きたいんだが?」
「あ! ご、ごめん……」
白君の後に続いて学校へ向かう。
もちろんちゃんと距離を置いて歩く。
「そうだ、お昼ご飯買って行かないと」
コンビニに寄っておにぎりとサラダを購入。
交差点で奏が来るのを待っていると、遠くから手を振って奏が走って来た。
「お待たせー! って……トモモいつの間に子供を作ったの?」
「え? 何言ってんのよ〜」
「だって、ほら……」
いつの間にか私の隣に小学生くらいの男の子が制服のスカートを摘んで立っていた。
「いつの間に……僕、どうしたの? 迷子?」
「僕は迷子ではありません」
「は〜、随分と受け答えがはっきりしてる子ね。 それじゃ何処から来たの?」
「飯綱荘からです」
「え!?」
飯綱荘って……私この子の事知らないよ!?
「帰る場所は知ってるみたいだけど……お母さんかお父さんは一緒じゃ無いの?」
「お父さんはいませんが、お母さんならここにいます」
「え? どこ?」
「この人です」
その子は私を指差して来る……。
「「ええええーー!!」」
2人して驚いた。
「やっぱりトモモ、いつの間にか子供を!」
「そんな訳ないでしょ! ね、僕、名前は言える?」
「黒」
「黒君ね……」
この一文字の名前……まさか!
「ご、ごめん奏、今日は具合悪いって事で休むねー!」
「あ! ちょっと! トモモーー!!」
私は黒君を抱えて走って飯綱荘まで戻った。
「ハァハァ……た、ただいま〜……」
「お、トモすけじゃ無いか、今日は早いお帰りだな」
「十字さん……」
よかった、まだいてくれてた……。
「あ、あの、この子……」
黒君を下ろして十字さんに合わせた。
「ん? ……うおっ! 5人目が顕現したのか!?」
「や、やっぱり……この子も妖狐なんだ……」
「はい、そうです智子お姉ちゃん」
「お、お姉ちゃん?」
お母さんだったり、お姉ちゃんだったり……なんなの?
「まずは上がって、話してやるよ」
食堂では十字さんと私、隣に黒君が座り、黒君はオレンジジュースを飲んでいる。
「さてと……どうやらトモすけの力で顕現したのがこの黒のようだな」
「私の力?」
「そうだ。 俺達は婆さんの力でこの飯綱荘に封印された。 その時に九つに分かれたって話しは知っているだろ?」
「はい」
「分かれた俺達は婆さんの力でこの姿へと顕現したのさ」
「お婆ちゃんの力で?」
「そうだ。 本来なら俺達と同じ位で顕現するはずだったんだろうけど、トモすけの力が婆さんより弱いからこんなちびっ子で顕現しちまったんだろうぜ」
「僕はちびっ子ではありません」
「……やっぱトモすけに少し似てるか?」
「私に似てるって?」
そう言えば黒君最初に私の事をお母さんとか言ってたな。
「トモすけの力で顕現したのだからトモすけが母親みたいなもんだ。 だから少し似てるんだろうよ」
その理屈だと白君、銀君、十字さん、灰さんはお婆ちゃん似って事になるけど?
「僕の性格は元々この性格です。 僕を産んでくれたのは智子お姉ちゃんですが、性格が似る事は無いです。 十字兄さんもその事はわかってるはずでしょ?」
「そうだったな……しかし……そんな喋り方だったか?」
「これは智子お姉ちゃんに似ました」
「やっぱそうか」
私に似たって事はやっぱり私が産んだの? そんな覚えないけど。
「それと十字兄さん」
「なんだ?」
「学校に送れますよ。 講義に間に合わなくなりますよ」
「あ! やべっ! ってなんで黒が知ってんだよ!」
「十字兄さんの部屋で予定表を見ましたから」
「いつの間に……まぁ、そう言う事だから他の連中が帰って来たら新しく顕現したって教えてやってくれ。 それじゃな」
十字さんは学校に行ってしまった……。
どうしよ、黒君と二人きりだ……あ、灰さんがいたっけ。
「智子お姉ちゃん」
「なに?」
「僕は部屋に行ってますから、智子お姉ちゃんは今日休んだ分、勉強しておいた方が良いと思います。 灰兄さんの原稿の進捗は僕が見ておきますから」
しっかりしてるーー!!
「それでは、頑張ってくださいね」
黒君は私の足に抱きついて来て、天使の笑顔をニパー……か、可愛い……。
短髪の黒髪で瞳も黒く、どう見ても小学生……二、三年生って感じだ。
黒君は部屋に戻って行ったが……部屋って何もないんじゃ……。
急いで追いかけて黒君の部屋をノックする。
「どうぞ」
部屋の扉を開けると、やはり何も無い……。
黒君は部屋の真ん中で正座して座っていた。
「く、黒君、私の部屋に来る?」
「智子お姉ちゃんのお邪魔になりませんか?」
「大丈夫よ。 そんなに綺麗な部屋じゃないけどこの部屋よりは良いと思うよ」
「わかりました。 お邪魔させてもらいます」
黒君は私の部屋に来ると、正座して座っているので、ジュースをあげて自由に本を読んで良いと言ったら嬉しそうに本を読んでいる。
漢字読めるのかな?
学校から帰って来た白君、銀君に黒君の事を紹介すると、2人共喜んでくれていた。
白君は軽く頭を撫でて部屋に行ったけど、銀君は弟が出来たみたいで嫌がる黒君に頬擦りしていた。
夜は赤井さんにも説明すると、朝の銀君の朝食を食べた犯人が黒君である事がわかる。
銀君は弟のした事だしと、受け止めていたけど……。
黒君の部屋の準備が出来るまでは私の部屋に泊まる事になった。
初めは他の人の部屋でいいと言っていた黒君も、部屋の中を覗いたら私の部屋がいいと言う事になった……。
皆んなどんな部屋なんだろう……?
こうして飯綱荘に新しい仲間が増えた。
また大変になりそうな予感……。
読んで頂きありがとうございます。
不定期連載ですが頑張って書いていきますので、モチベを上げてあげようと思っていただけるようでしたらブクマや★評価をつけていただけますと作者が喜んで踊りながら遅い執筆も早くなると思いますので、どうぞよろしくお願いします。




