第伍話 【皆んなの職業】
飯綱荘の生活にも慣れ始めた朝、相変わらず銀君と十字さんはバタバタと走り回っている。
この光景にもだいぶ慣れたなぁ……。
「あ、おはよう」
「ああ……」
白くんは相変わらず静かにパンにジャムをぬって食べている。 赤井さんは既に出勤していないし、私も早く食べて学校に行かないと。
「銀君、十字さん、その辺で早く食べないと学校に遅れるよ」
「ん? ああそうか、管理人さんは知らなかったか」
知らない? 何をだろう?
十字さんは銀君の首根っこを掴んだまま私に説明をしてくれた。
「俺は午後から講義だし、銀は何時に行っても大丈夫さ」
「何時に行っても大丈夫なんですか?」
「そ、僕は幻術が使えるからね⭐︎ 遅刻なんてしないよ」
「幻術って……、皆さん出来るんですか?」
「出来るには出来るが、幻術に関しては銀が1番得意だろうな。 だから銀以外の俺達はちゃんと時間守ってるんだから……そのプリンよこせーー!」
「嫌だよ! トモちゃん! 十字をなんとかしてよーー!」
なんとかしてと言われても……。
「私のをあげますから……それに銀君、幻術なんて使わないでちゃんと学校行かないとダメですよ」
「……は〜い」
2人は直ぐに大人しくして、銀君は座ってパンを食べ始め、十字さんは冷蔵庫のプリンを探っている。
「管理人さん、プリン無いけど?」
「あれ? 私食べてないからあるはずですよ?」
不思議に思っていたら十字さんの前にスッと半分以上食べられたプリンを目を逸らした白君が差し出した。
「あ、そのプリン私の……」
「白! 俺のプリンをー!」
元は私のなんだけど……。
「帰りに買って来る……先に行く……」
顔が良く見えなかったけど、なんとなく頬が赤らめていたように見えた。
恥ずかしかったのかな?
……はっ! 私も急がなきゃ!
パンを口に放り込み、部屋に戻って鞄を持つ。
「行って来ま〜す」
「トモちゃん待ってー! 僕も行くよ〜」
銀君も着替えを済ませて学ランで追いかけて来る。
以外と可愛い顔の銀君に似合っている。
銀君の学校は学ランか〜……いいね。
途中までは同じ方向なので話しながら歩いていると、銀君のお友達なのか男の子も女の子も声をかけて来る。
「人気者なんだね」
「そんな事ないさ。 特に女子の相手は面倒くさくてさ、だからいつもは給食の時間帯に行ってるんだ」
「あら、私も女子だよ」
「トモちゃんは別だよ。 僕トモちゃん大好きだし」
「え!? あ、ありがとう……」
「じゃあね、僕はこっちだから! バイバ〜イ!」
「う、うん、バイバイ」
銀君は手をブンブン振って走って行ってしまった。
……おっどろいた〜……急に言うんだもん……銀君は可愛いし私も好きだけど……、そ、そうだよね、一緒に住んでる家族みたいな感じで好きって事だよね……。
うん、そうしておこう……。
学校へ向かって歩いていると、後ろから声をかけて来る友達がいる。
「トモモおっはよ〜!」
「おはよう奏」
今や私の1番の友達深馬 奏だ。
「なになに、今日は年下と登校ですかあ〜?」
また見られてた……。
「えと、あの……」
「この間のイケメンなお兄さんに続いて今度は可愛い年下の男の子、それになんだか同じクラスの白君とも親しげだよね〜……いいなぁ〜、私にも1人ちょうだいよ〜」
「そんな事は無いけど、ちょうだいって……あげられるわけないでしょ」
「あはは〜、冗談冗談。 それより、今日の体育はマラソンって話しよ、私走るの苦手〜」
「私も苦手〜」
「休んじゃおっか?」
「ズル休みはダメだよ」
「トモモは真面目なんだよな〜、それじゃ一緒に走ろ」
「うん」
こうしてマラソンの授業は奏と一緒に最後尾を走り、白君は男子のトップで女子生徒達からキャーキャーと黄色い歓声が飛んでいた。
相変わらずモテる。
1日の授業も終わり下校時間となる。
奏と正門に向かっていたら、皆んなが見つめている人がいる。
「誰だろ?」
「よく見るとカッコよくない?」
そんな声もチラチラと聞こえて来る。
そしてその人が私を見ると、名前を呼んでくる。
「お〜い……えーと……お〜い!」
「……灰さん!?」
呼んでいたのは灰さん。 いつものボサボサの髪では無く、髪をゴムで束ねていて、服装もちゃんとしていた。
それにしてもなんで私の学校に?
「どうしたんですか?」
「わりぃがちょっと来てくれ」
「え!? え!?」
灰さんに手を引っ張られて連れて行かれた。
「か、奏また明日ねーーえ!」
勢い良く連れて行かれた私を奏はポカーンと見つめるしか無かった。
きっと後で色々聞かれるんだろうな……。
「あ、あの灰さん!」
「なんだ?」
「私もう走れないです!」
学校でもマラソンしたと言うのに、そんな体力無いよ。
「しょうがねえな」
「え? ひゃあ!」
灰さんは私をお姫様抱っこして飯綱荘まで走って行く。
「灰さん! は、恥ずかしいからおろしてくださいー!」
「この方が早いんだよ!」
そんなに緊急の用事なの?
飯綱荘に何かあったのかしら?
でも……この状況……見られて恥ずかしいよ〜。
「ほらよ」
「ひゃん!」
ポイっと投げ下ろされ飯綱荘に到着した。
かなり早く着いたけど、もう少し丁寧に下ろして欲しかったな。
「……それで、どうしたんですか?」
「それがよ……、部屋まで来てくれ」
また腕を引っ張られて灰さんの部屋に連れて行かれた。
まさか、襲われて食べられちゃうなんて事は……無いよね?
「やっと来ましたね、先生」
知らない女性が灰さんの部屋で座って待っていた。 それにしても灰さんの部屋、本が散らばっていて、お世辞にも綺麗とは言えない……。
「ほら、こいつがここの管理人でよ、食事とかはこいつが作ってくれるから大丈夫なんだってば!」
「……灰さん、どちら様ですか?」
「申し遅れました。 私は灰先生の担当編集者の【古石川 由香里】と申します」
「担当編集者さん? それに先生って?」
「聞いていませんでしたか? 灰先生は小説家なんです。 そこそこ人気なんですよ」
「そこそこは無いだろう。 これでも30万部は売れてるんだぜ」
「原稿が遅れなければもっといっていたと思いますけど?」
「それはよぅ……」
「あの、それで私になんのようが?」
「はい、締め切りが近い灰先生をホテルに缶詰になってもらい執筆していただこうと思いまして、ご相談に伺ったのですが拒否されてしまいして、なら私が泊まり込みますと申し出たのですが……」
「だから、こいつが食事の世話とかしてくれるから大丈夫なんだよ。 締め切りだって守るさ」
「それは本当ですか?」
「話しが良く見えないんですけど?」
「それでは……え〜と、管理人さん?」
「間宮 智子です」
「それでは智子さん、灰さんの食事と締め切りの世話をお任せしても?」
灰さんを見ると頼むと言う感じで私に目配せをしてくる。 まったくもう……。
「わかりました。 私が灰さんの食事の面倒を見ます」
「食事も大事ですが、締め切りの方がもっと大事なんです! 智子さんを信じますからお願いしますね」
「わかりました」
「では今日は帰ります。 進捗状況を報告してくださいね」
編集者の由香里さんと連絡先を交換して、今日から灰さんの食事番と原稿の進捗状況を報告する事になった。
それにしても灰さんが小説家さんだったなんて……、だから部屋からあまり出てこなかったのか……。
読んで頂きありがとうございます。
不定期連載ですがよろしくお願いします。




