夕焼けの時間に閉じ込められて
「星花!大丈夫か?あとちょっとで朝が来る。やつは朝日に弱いから、あとちょっと踏ん張れば、やつは自滅する!」
「ええ、拓」
真夜中の襲撃から明け方近くまで、はるかな攻防戦が繰り広げられていた。
「モドレ」
その口は言った。
「みて、拓!星空が逆回転してる」
「ばかな」
しゅーんんんん。
キラキラキラ。
赤とオレンジの光。夕方の太陽光に包まれた時空に引き込まれた。
無音。
頬をちりちりと風がさかなでる。
「なんてこったい」
拓が毒づいた。
「つまり、倒さない限り、ここから出られないわけね」
星花はすう、と深呼吸をして、黄色い鳥を呼び出し、呪文を唱えた。
黄色い鳥は鷹になり、その鋭い嘴と鉤爪でそれに攻撃する。
一方、拓はパラジウムの剣でそれに攻撃。
「ねえ、拓」
「なんだ」
「これに弱点はあるかしら?」
「さあな、なにしろ、「口」だから、口喧嘩でもして勝たないとどーしよーもないんじゃないか?」
「ワタシハツヨイ」
そういうと、攻撃が全て弾かれてしまう。
「いいえ、お前は弱い。お前は小さくて力が足りない」
「お前は朝が怖い。本当はもう朝なのに認めたくなくて昨日の夕方に逃げ込んだ」
攻撃に言葉で援護。
相手は怯んだ。
「もう、朝よ。お前の負け」
イヤアアアアアアア。
耳をつんざく声が響いて、夕焼けが青く暮れて行く。
「拓、その調子で心理的に追い詰めて」
「おう」
「ワタシハオマエタチがキライダ」
「そう?私はあなたのこと嫌いじゃないわ」
「ホントウニ?」
「あるべき姿に返ってあるべき場所へ戻りなさい」
「朝の素晴らしさをお前は知らない。怖がっているだけだ」
「アサノドコガスバラシイ?」
「新しい1日の始まり。誕生の瞬間」
「もう一度朝を見直してごらん」
「アサヲミナオス?」
「新しい時間を始めましょう。夜を超えていきましょう」
天が回転する。
夜明けが来て、朝日が昇る。
「アア、ワタシ、カエラナクチャ」
しゅうううう。
一見消滅したように見えた。
「依頼主の容態はどうかな?」
「うまくいってれば、さっきの口が依頼主の顔に戻ったはずよ」
「やれやれ。とんだ仕事だったぜ」
「あんまり呪詛ばかり唱えてると口が嫌気をさして逃げ出しちゃうんだもんねえ」
へとへとになって2人はお祓いをしてからその場を後にした。