アームド・ドラグーン
某ゲーム会社のシナリオライターに応募する際に提出したものです。
架空のゲーム企画を設定し、その前日譚として作ったものです。
真夏の太陽が南天に差し掛かり、眩い威光を地上に投げかける。暑さに倦んだ雀がリグルの街の家々の軒下の濃い影に避難する頃、大鉈で断ち切られたような深い山間を覆うブナの森に二十の齢を未だ越えない若い男が一人、身を潜めていた。
炭のような黒い髪が僅かな風に揺れる。眉をきつく寄せ、翠緑の瞳を細め、顎から頬にかけて波打つような火傷痕を汗に濡らし、堅く結んだ脣を不満げに曲げる。若者はしなやかな筋肉を緊張させ、身を屈めて辺りの様子を伺っている。
厚く茂る葉叢の隙間から差す木漏れ日は僅かで辺りは薄暗い。しかし若者の透徹な瞳は森の奥まで見渡し、日に灼けた肌に空気の流れと気温の変化を感じ取り、土と獣の糞の匂いをかぎ分ける。
視線の先には一頭の良く肥えた猪が、鼻を鳴らして土を掘り返し、虫か茸か何かを探している。毛艶から老いた個体であると分かる。しかしながら分厚い毛皮を纏ってなお、その下の肉の隆々と膨れた様が見て取れる。禍々しくねじ曲がった牙には多くの勲章が刻み込まれ、それでいて二振りの剣の如く鋭利であり、これまでの犠牲を想像させる物々しい雰囲気を漂わせている。
若者はツゲの茂みに身を隠しながら、風下から猪へとゆっくり近づき、肩にかけた散弾銃を下ろして握る。旧式ながらよく整備された銃だ。口径が大きく、砲口が広がるような形状をしたいわゆる喇叭銃だ。しかし銃身は短く、射程は貧弱であり、一撃で仕留められる距離まで近づけば再装填の猶予はない。
若者はそれでも躊躇いなく、猪の方へとにじり寄る。さりとて無謀というのでもなく、まるで森やそこに息づく生命の気配と一体化したかのように存在感を押し殺している。猪まで十数歩という距離まで近づくと、若者は予兆も予備動作もなく、流れるような無駄のない所作でもって飛び掛かり、獣の眉間を銃口で指し示すと引き金を引いた。
分厚い緑の天幕に覆われて静寂に満ちていた森に切り裂くような銃声が鳴り響く。猪の頭蓋には無数の弾丸がねじ込まれ、命を絶つのに十分だった。
森の生命が一斉に存在感を示す。姿の見えないヤマシギが鳴き、羽ばたき、身を隠した小動物が先を競うように逃げ去っていく。天を覆う青々とした木の葉までもが若者を非難するように、あるいは称賛するように騒めき始める。
若者は倒れた猪に素早く近づくと懐からぎらつくナイフを取り出し、念のために止めを刺す。そして間を置かず持参したナイフやロープを取り出し、解体作業を始める。
街の屋根々々が黄金色に染まり、西を見つめて瞬く窓が赤から橙、紫へと移り変わっていく。夜が森を斑な暗闇に染め上げ、夜の声に誘われて営みを始める獣たちが巣穴から這い出し始めていた。
半日がかりで解体を終えた若者は、可食部とそれ以外を分けつつもその全てを携えて、山の辺にある高台の家屋、若者の自宅へと戻ってくる。
「おかえり! オスカー!」と声をかけられ、オスカーと呼ばれた若者はびくりと身を震わせる。
「姉さん? どうしたんだ? 旦那と喧嘩でもしたのか?」
「何それ?」台所の暗がりから出てきたオスカーの姉エルマはからからと笑う。「旦那と喧嘩したってあんたに慰めてもらおうとは思わないよ。どうせ肉ばかり食べているんだろうと思って様子を見に来たの。最近、街へ卸しに来ないらしいじゃない?」
食卓の上にはエルマが持参したらしい瑞々しい野菜やごつごつとした根菜が並んでいた。
「単に不猟なだけさ。自分の食べる肉くらいしか捕れてないんだ」
「それとあの子の分でしょ?」
エルマの視線は毛皮に包まれた方の肉屑を指し示す。
それには答えず、オスカーは猪から切り取った可食部を氷室に片付ける。
そして「父さんの所に行ってくる」と言い残すと毛皮と骨と内臓の残骸を一纏めにした塊を抱えて家を出る。
姉が何か言っていたが弟の耳には届かなかった。オスカーは家の裏手へと回り、細い踏み跡道をたどるように再び森へと分け入っていく。
暫く道を行くと開けた場所に出る。木々が距離を置いているだけでなく、下草もほとんど生えていない。そしてリグルの街を見渡せる展望が広がっている。
夕陽に染まる街を背景にして一体の巨大な獣が横たわっていた。龍だ。しかし神秘に接する幻の獣ながらその姿は痩せ衰え、今にも朽ち果てそうな老木の如きだった。巨大な猪であっても一飲みにできる口はだらしなく開かれ、元は太陽か月のように輝いていただろう双眸は色褪せ、黄金の毛皮も白銀の鱗もくすみ、肉厚のナイフのようであるべき牙も爪も毀れ、鞭のようにしなる長い尾は力なく、その巨体をも覆えるほどの二対の翼は頼りなげに広がっている。
龍は乳を与える家畜のように二基の墓石を抱えて寝そべっている。オスカーがやってくると片方の瞼を億劫そうに開き、針のような瞳孔の光なき奥からその姿を見つめる。
オスカーは担いできた猪の毛皮に包み込んだ肉を龍のそばへと放った。地面に落とした拍子に毛皮が開かれると、骨と内臓ばかりの肉屑が現れる。
龍は肉屑を一瞥すると神秘の帳を見通す瞳でまだ若い狩人に視線をやる。
「不満か?」オスカーは冷めた表情のまま龍の眼差しに言葉を返す。「ならここを去って自分で捕って来ればどうだ?」
龍は鼻息で溜息をつくと毛皮も骨も内臓もまるごと啜るようにして咥え、その鋭い牙と強靭な顎で粉々に破砕するように咀嚼する。
オスカーは軽蔑の眼差しを龍に送ると墓石に刻まれた碑銘を指でなぞり、しばらく黙祷する。
太陽は西の山の向こうに姿を隠し、その輪郭に燃えるような銀の光を輝かせていた。徐々に輝きは小さくなって、最後に一際瞬くと暗い闇に呑み込まれる。僅かに昼の光を残す雲も東の空から星々を引き連れた夜の闇によって暗黒に塗り込められた。
不快な龍のげっぷの音と匂いにオスカーは我に返り、父の墓と龍とリグルの街の展望に背を向ける。
家の窓に明かりがついているのが見え、オスカーは家路を急ぐ。しかし姉エルマは既に帰った後だった。光を放つガス灯のそばには姉が作った食事が湯気を放っている。兎肉と数種の野菜のソテーにスープがついている。久しく食べていない温かい料理にオスカーの腹が鳴る。しかしオスカーは揺らめくガス灯の明かりから目を反らし、そっと手を伸ばしてその明かりを消す。そして暗がりの中で姉の用意した食事を味わう。肉の旨味も野菜の味わいもオスカーの舌を喜ばせるが、なによりその温もりに心を癒される。
思い出されるのは父も母も健在で姉と共に暮らしていた幼い頃のことだ。何も欠ける所のない幸福な日々は遠く、色褪せて、しかし今のオスカーにとっては旅人の頭上で瞬く北極星のように輝かしい思い出だ。
病がちな母と幼い二人の子を残して父は戦争に駆り出された。リグルの街の多くの若者を死へと向かわせた戦争は勝利に終わった頃には既に母は帰らぬ人になっていた。それから暫くして父は帰ってきた。
父の帰還はオスカーの瞼の裏に強く焼き付けられた。家の裏手の母の墓のそばで泣き暮れる日々、いつもより帰るのが遅くなったある夜のこと、西の空から流星の如き一筋の光が飛んできて、幼いオスカーの目の前に墜落したのだった。火に包まれたそれこそがまさに父とその騎乗した龍だった。父は幼いオスカーの目の前で何事かを呻いていたが、泣き叫ぶ幼子の声にかき消され、そのまま燃え尽きてしまった。
今でもオスカーは火を見るとその時の光景を思い出し、父の最期の言葉を聞かずに泣き叫ぶばかりの愚かな己に恥じ入り、ナイフを突き立てられるような罪悪感を覚えるのだった。
次にオスカーが気が付いた時には略式の葬式さえ終わっており、家の裏手の母の墓石の隣には父の墓石があり、そのそばから離れようとしない一頭の龍がいた。
その後、人伝てに聞いて初めて、父が龍騎兵として空を駆っていたことを知った。父が銃器の扱いに長けていたことはオスカーもよく知っていたが、龍など戦争が始まるまで見たこともなかったはずだ。しかしその才は人知れずオスカーの父の中に秘められていたのだった。
ふと我に返る。せっかく作ってくれた料理が冷めていたからではない。鐘を叩き割るような恐ろしい獣の鳴き声が聞こえたからだ。家の裏手の方からだ。オスカーは龍の鳴き声など聞いたことが無かったが、この山と森にいる龍以外の鳴き声ならば全て聞いたことがあった。
これまでにない異常なことではあったがオスカーは躊躇う。父を死に追いやった戦争と同じくらい、相棒を守り切れずに生き永らえた龍も嫌いだったからだ。しかしずっと騒がせておくわけにはいかない、と思えるほどに鳴き止む気配がなかった。
オスカーは銃を背負い、家の裏手の父母の墓へと急ぐ。踏み跡道を進むにつれ、それがただの獣の鳴き声ではないと知る。
「オスカー!」とそう呼んでいた。言葉だ。
知識としては知っていた。龍は人よりもずっと賢く、どのような土地の言葉も意のままに操る、と。
しかし父が死んでからこれまで龍は一度として言葉を発したことはなかったのだ。だからオスカーは龍の智慧など迷信であるか、あの龍は他の龍よりも頭が悪いのだろうと考えていた。
「来てくれ!」
オスカーは返事をすることなく呼ばわる声の方へと走る。父母の墓へとたどり着くと上体を起こした龍がオスカーと対峙した。
「お前喋れたのか。一体何のつもりだ?」
しかし龍は問いに答えず、その視線はオスカーの背後、北の空へと向けられている。つられてオスカーもまた北の空を仰ぎ見るが、星の輝きの他には何も見えない。
「何か脅威がやってくる」龍は地崩れのような声でそう呟いた。
「脅威? なんだそれは」
その時、北の空から轟音が降り注ぐ。空気を引き裂くような響きが山にこだまし、黒い影が頭上を飛び過ぎる。
鋭角な輪郭、広げた翼に轟く回転翼、星の光を鈍く反射するそれは航空機だ。三機の影はリグルの街の上空を飛んでいく。
近年、龍にも優る航空戦力として各国で研究開発が進んでいると噂には聞いていたオスカーだが、強靭な翼で鋼の如き鱗に覆われた巨体を浮かせ、鋭い牙に鉤爪を持ち、火や毒の息を吐くばかりか魔法にも通ずるという人を越えた智慧を持つ獣に優る兵器など空想上の存在だと思っていた。もしも龍が邪悪なばかりで、智慧もなく、好奇心や忠誠心もない地を這う獣たちと同様の存在だったならば、人類などとうの昔に滅びていただろうと言われている。
そんな存在にも優るかもしれない、と一目見ただけでオスカーはそう感じた。しかし三機の航空機は街の上を飛んでいくばかりで龍の言う驚異は感じなかった。
「なぜ脅威だと思うんだ? どこの航空機かさえ分からないじゃないか」
「北の帝国だ。所属の印が描かれていた」
夜闇の空高く高速で飛ぶ航空機に描かれた印などオスカーにはとても見えなかったが、厚い雲の向こうも地平線の下も見通すという龍の眼ならば容易に見分けられるのだ。
「だとしてもたった三機だ。偵察か何かだろう。この街には軍需工場もない」
「軍需工場がないことなど奴らは知らない。オスカー。私と共に飛ぼう。奴らを追い返すのだ」
星の運行と金属に隠された秘密に通じる賢者の如き落ち着いた声色から出てきた言葉はとても馬鹿々々しく響いた。
「何を言っている!? どうして俺が!? 飛べるのならばお前が行けよ! いや、不用意に刺激するべきじゃないだろう!?」
「兵装を召喚できるのは人間だけなのだ。召喚したところで引き金を引けるのも人間だけだ。まさかあの鉄の塊に火や毒の息が効くだなんて思わないだろう?」
「いや、ほら見ろ! そのまま飛んでいくじゃないか」オスカーの視線の先で三機の航空機は南の空へと霞んで消えた。「一体何を根拠に脅威だなんて言ったんだ? これじゃあ北の帝国だって話も定かじゃない」
龍は首を揺らして長い髭と鬣を揺らす。
「我々が感じ取る脅威は未来で起きる悲劇が波となって伝わった予兆だ。手をこまねけば時間の流れに沿って収束し、悲劇が現実のものとなる。あの三機も再び戻ってくるだろう。次は低空を高速で飛行する。そうして飛び過ぎて三度戻ってくる時は威力偵察だ」
オスカーにはとても信じられなかった。何より、それを防ごうとした攻撃こそが戦争の引き金になるのではないか、と思われた。
オスカーの見ている前でリグルの街が少しばかり明るくなる。航空機の音に気づいた者たちが起きてきたのだ。
「大体、俺にできるはずがない。龍に乗ったことも機関銃を撃ったこともないんだ、俺は。航空機を三機相手に立ち回れって?」
「ならば誰なら出来るというんだ? 心当たりがあるなら教えてくれ。私が街に降りて説得してみよう」
ここに龍がいることすら街の誰も知らなかった。オスカーと姉のエルマ、あるいはその旦那が知っているかどうかといったところだ。
「何も起きない。何も起きやしないんだ」オスカーは自身に言い聞かせるように呟く。
「頼むオスカー。……テオバルトの故郷を私に守らせてくれ」
「お前が父の名を語るな!」オスカーは龍の焔の如く激昂する。「父の故郷を守らせてくれだと!? その父を守り切れなかったお前が偉そうに、お前にそんなことを口にする資格があるのか!?」
しかし龍は臆することなくオスカーの燃える瞳を見つめ返す。
「だからこそだ。テオバルトが死んでも帰りたかった故郷なんだ。オスカー。頼む」
やりきれない思いを抱えるオスカーの意識を反らせたのは、遠くから夜の空気を伝わってくる回転翼と風を切る翼の音だ。龍の言う通り、北の帝国の鈍く輝く三機の航空機が南から戻って来た。予言していた通り、一度目よりもずっと低空を高速で飛んでいる。しかし予言が当たったのはそこまでだ。三度目を待たずして三機の航空機は、戦闘機は機関銃を掃射し始めた。雷の如き轟きが届き、オスカーのいる山の面に反射してこだまする。翼の脇で火が吹くと光の礫が街に降り注ぎ、リグルの街の屋根を削ぎ落し、火を熾す。黒い煙が方々から立ち昇る。
「嘘だろ!?」オスカーは叫び、龍を責める。「おい! 話が違うじゃないか!?」
「何も違わない。これが、我々が何もしなかった結果だ。今からでも遅くない。オスカー。少しはましな結果に変えられるかもしれない」
ますます明るく、赤い炎に染め上げられるリグルの街を見つめ、オスカーは首を横に振る。思い出されるのは火に包まれ、黒く焦げゆく父の姿だ。
「……俺が飛べる訳がない」
「オスカー!」
「兵装の召喚ってのはどうやるんだ?」
会話の前後が繋がらず、龍は戸惑う。
「何? どうするつもりだ?」
「威力偵察だって、ただの偵察だ。脅してやればこの場は帰っていくだろう」
ようやくオスカーの言いたいところを察したものの、龍は苛立ちを隠さず言葉を返す。
「龍の私に固定砲台になれというのか?」
「プライドが邪魔するか?」
龍は火花を伴った溜息をつく。
「ここからではぎりぎりの距離だ。私に施された兵装は当然高射機関銃などではないからな」
「別に当たらなくてもいいが、そうだな、火を噴けばいい。こちらに近づいてくるかもしれない」
「私の首に乗れ」と龍は迷わず答える。
何もしないよりは少しはましな結果になるという言葉に嘘はないのだ。
オスカーは龍の腕と背を伝い、首に跨る。
「乗った」
「復唱せよ。テオバルトよりオスカーへ、ファーヴニルの名の下に専従騎兵を継承する」
オスカーは噛み締めるように言葉を繰り返す。その呪文に呼応するように、術式の刻まれたファーヴニルの鱗から光が溢れ出し、物質化する。
「第一兵装、キルンベルガー20mm機関砲、召喚手続きを開始。砲身、ボルト式閉鎖機、スプリング式駐退復座機、ベルト給弾装置、照準器、砲架召喚及び固定。弾薬用意、装填。全手続き完了」
今まさにこの世に生まれたかのような、神秘の帳の向こうから現実へと引き上げられた妖精か幽霊のような機関砲だが、見た目には使い古された趣がある。目に見えないまま確かにどこかに存在し、世の全ての存在と同様に時間の軛からは逃れられない物質なのだ。
「まさかお前の力を使う日が来るとはな」とオスカーは忌々しげに呟く。
「私の力ではない。お前の父の使った力だ」とファーヴニルは答える。「さあ、誘き寄せるぞ」
ファーヴニルは大きく仰け反り、暗い夜を焼き尽くさんばかりの豪熱の火焔を星々に向けて噴き上げる。辺りは昼間の如く明るくなり、オスカーの肌はそれだけでじりじりと痛む。そうして再び街を嘲るように弾丸をばら撒く三機の戦闘機に視線を向ける。
反応は直ぐに見られた。二機が散開し、一機が真っすぐに飛んでくる。
ファーヴニルは真っすぐに首を向けるが、呼吸に合わせて照準は上下する。自由に動く頸に固定された機関砲で狙いを定める難しさにオスカーは初めて気づく。空を飛びながらだとなおさら難しいはずだ。
当てる必要などないのだ、とオスカーは自分に言い聞かせる。威嚇射撃のようなものだ。奴らは戦いに来たのではないはずだ。
オスカーは迫りくる戦闘機に狙いを定め、引き金を引く。不断の雷の如き轟きと共に弾丸が放たれ続ける。照準は安定せず、弾丸はばらけた。一つ、二つは当たっただろうか。
しかし思わぬ攻撃を受けて戦闘機は直ぐに機体を持ち上げ、視界から消える。
「まだだ。油断するなよ」
ファーヴニルに言われずとも、オスカーは狩りをする時と同様に耳をそばだて、三機の敵の動向を探る。特に散開した二機が気がかりだったが、杞憂に終わる。その姿は目視できなかったが、空を引き裂く轟音は北の空へと遠ざかって行った。
オスカーは安堵の溜息をつき、方々で煙の上がる街に目をやると竜の背を飛び降り、何も言わずに街の方へと駆け出す。
姉の、嫁ぎ先の家が半壊していた。屋根瓦が通りに飛び散り、破砕した煉瓦が今なお崩れつつある。生々しい弾痕から白い薄い煙が立ち上っている。既に消し止められたようだが焼け焦げた跡もある。
信じ難い気持ちでオスカーは駆けつける。まだ見ぬ現実に対する予感に戦慄し、体が震える。
「姉さん! どこだ!?」
気が動転していたからか崩れた壁を横目に玄関の方へと走る。扉は開いていた。玄関へと飛び込み、各部屋を巡る。丁度表の壁が崩れた部屋の隣室で暗がりの中、姉エルマがへたり込んでいた。飛び込んで来たオスカーに気づいてエルマが振り返る。
「オスカー?」とか細く掠れた声で呟く姉の姿にオスカーは安堵する。
「良かった。無事だったか。旦那は……」
エルマの目の前に倒れ伏す男の姿をオスカーは見止める。確かめずとも事切れていることは明らかだ。広がり続ける血溜まりに浮かぶ男の胴が半ばまでが抉られていた。
「……オスカー。カールが目を覚まさないの」
エルマは震える手でカールの体を揺する。ただ赤黒い血が溢れるばかりだった。
死んだのはカールだけではない。多数の怪我人も出た。他に寝泊まりできる場所もないのでオスカーの家、姉弟の生家へと姉エルマを連れ帰った。
エルマの混乱は収まったが、耐え難い現実に憔悴しきった様子で、ただじっと取り留めもなく渦巻く思考に呑み込まれているようだった。
それでも腹が空けば、眠気もやってくる。少しばかり腹に収めるとエルマは気絶したように眠った。
新たな夜が巡り来て、オスカーは家を抜け出し、龍ファーヴニルの元へ向かう。何を話すつもりだったのかは分からない。どんな話になるにせよ、これまでの日常を壊す何かが迫っているように感じられた。平和や平穏とは程遠い、一介の狩人を戦慄させる何かだ。
家の裏手に回り、踏み跡道を越え、父母の墓とファーヴニルと対面する。星々は変わらず瞬き、静まり返った街の窓の灯は控えめに色づいている。
どちらからも口火を切らず、ただ見つめ合うが、龍の透き通っていながら底の見えない深い泉のような眼差しにオスカーは責められているように感じられた。
「俺が悪いって言いたいのか?」とオスカーは怒りと恐れを込めた言葉を投げる。
「悪い者などいない。誰もがその時その場で最善だと思う選択をするだけだ」
「最善だと思った選択が間違っていることもある。俺は間違ったんだろう?」
「お前が求めた結果ではないというのならば」
「こんな結果を求めるわけがないだろう!」怒るような立場にないことは分かっていたが、オスカーは感情が沸騰するのを止められなかった。「俺は、いや、誰だってそうだろう? ただ平和に暮らしたいだけだ。銃なんて撃ちたくないし、撃たれなくない! 火に包まれて空から落ちるなんて嫌に決まってるだろう!?」
龍は長い首をもたげ、幼子が母を見つめるような眼差しで星々を仰ぐ。
「つまりお前は二つのことを望み、迷っているということだ」
「二つ?」
龍の瞳がオスカーを瞥見する。
「平和と戦わないことの二つだ」
「同じだろう? その二つは」
「多くの場合は。だがそうでない場合もある。戦わねば平和を勝ち取れない時、一方を選べば、もう一方を捨て去ることになる」
オスカーは苦々しい顔で言い返そうとした言葉を呑み込む。代わりに皮肉めいた言葉で返す。
「お前の予言に従って、さっさと迎撃すれば街に被害は出なかったと?」
「いや、そうとは限らない。その選択が今よりも酷い結果になった可能性とて十分にある。私もまたその時その場で私の経験と信念に従って最善だと思う選択をしただけだ。……そうだな。不公平だからあえて言っておこう。私もまた、兵装なしに勇猛果敢に三機に挑む選択をしなかったのだ」
「そしたら死んでいただろう?」
「ああ、だろうな。私とて死は恐ろしい」
姉の憔悴した顔と黒く爛れる父の顔が思い浮かぶ。オスカーは目に映る後悔と恐怖の光景を握り潰すように両の拳を握って見つめる。
「どうすれば、どうすればよかったんだ」
「一つ言えるのは、差し迫る選択を前に、どうすればよかったかなどと過去の選択を反省するのは後にした方が良い」
オスカーは恐る恐る顔を上げ、再び龍の瞳に見つめられる。
「差し迫る選択? また予言か?」
「そんなものではない。三機を逃してしまったではないか。龍がいることも察しただろう。また来るぞ。今度は私を潰しに」
「戦えと?」
「それが私の考える選択だ。飛べば、まだ勝算はある」
「戦わないといったら、お前はどこへ行くつもりなんだ?」
「どこへ? どこにも行かない。死に場所は相棒のそばと決めている」
テオバルトと共に死ぬか、オスカーと共に死ぬか、それが龍ファーヴニルの選択だった。
「どうして俺が、戦わなくてはならないんだ」
龍は初めて躊躇うように言葉を紡ぐ。
「……戦わなければいけないことなどない。お前が戦わないことと、……お前の平和ならば両立する」
「俺の、平和?」オスカーは乾いた笑い声を漏らす。「……ああ、そうだな。つまり逃げるという選択肢か。戦えと言ったお前からそんな選択肢を示されるとはな」
「何もおかしくはない。それが私と、テオバルトの最期の選択なのだから」オスカーが問いかける前にファーヴニルは続ける。「我々は逃げたのだ。死にたくなくて、エルマとオスカーに会いたくて、そう希う彼のために会わせたくて、敵前逃亡したのだ」
どこの世界でも、兵士にとってそれより重い罪はそう多くない。かといってオスカーに父と龍を責める気など微塵も湧かなかった。臆病と言われようが、卑怯と言われようが、愛する者に会いたいという気持ちを否定することはできない。
「私もまた過去の選択を葛藤し、思い悩んでいる」ファーヴニルは悔恨を吐露する。「あるいはあのまま戦い続けることこそが正しかったのではないか、と。あの時、名誉を捨て、テオバルトを守り切れず、私は何を得たのだ、と」
二人の間に沈黙が立ち込めるが、夜の獣と鳥と虫たちは静寂を許さない。
「その時、戦い続けていれば」とオスカーは探り探り口を開く。「今、昨夜、お前はここにいなかった、かもしれない。奴らを威嚇して追い返す、選択肢そのものが無かったかもしれない」
ファーヴニルは沈黙で答える。
「何が正しかったかは、お前が求める結果次第なんだろう? 父さんとお前の選択肢が正しかったことを証明すればいい。お前があの時逃げたから、お前は今ここにいて、だから街を守るために戦えるんだ」
戦う覚悟が決まったというのだろうか。オスカーは自問自答する。心の内を探ってみるが、本当のところは分からない。ただ、今となっては、その選択肢の先にしか自分の求めているものが無いように感じられたのだ。
その日の朝のことだ。起きてきたエルマは未だどこかに心を置いてきたかのような有様で、何をするにもまるで亡霊のように遠くを見つめていた。
朝食を用意したものの上の空で、ほとんど手も口も動いていない。
「そろそろ、戻った方が良い」とオスカーは切り出す。
呆けた表情のエルマは壁の染みでも見るみたいにオスカーを見つめる。
「戻るって? どこへ?」
オスカーは己の考えなしを悔やむ。どこに戻れと言うのか。夫の死んだ半壊したあの家か?
「一体、何を言っているの?」エルマのまなじりがじわりと滲む。「どうして、そんな、薄情なことが」
「違うんだ。姉さん。ここは危険なんだ。そうだ。あちらの義父母の所に身を寄せていてくれ」
「何が危険だっていうの? 義父さん、義母さんにどんな顔をして会えばいいのよ?」
「ファーヴニルが、龍が敵に見つかったんだ」オスカーは説得力のある物語を探して、思いつくままに口にする。「姉さんも知っているだろう? 龍は強力な軍事力だ。偵察に来た奴らはあれを見つけて帰って行った。次は龍を殺せる数の戦闘機が飛んでくるに違いない」
オスカーの話す理屈には納得したようで、エルマの表情が和らぐ。
「そうだとして、どうして私だけが避難するの? オスカー。あなたはどこに逃げるの?」
「俺は……」言い淀み、幾つかの嘘を思い浮かべるが、しかしオスカーはどれも口にできなかった。「俺は逃げない」
「逃げない? どういう意味? ここが危険だって言ったのはあんたよ?」
「ファーヴニルに乗って戦う。あいつは父さんを、相棒を置いて逃げられない。かといってひとりで戦っても勝てないんだ」
「馬鹿なことを言わないで!」エルマは激昂し、拳で机を叩き、椅子を蹴倒して立ち上がる。これほどの怒りで姉に迫られたのは、幼い頃にファーヴニルを殺そうとして軽くいなされた時以来だ。オスカーは大怪我し、エルマは激怒した。「父を失って、夫に先立たれて、その上弟まで亡くせって言うの?」
「死にに行くつもりじゃない」
「皆そうよ! カールも! 父さんも! 死ぬつもりなんてなかった!」
エルマの瞳から止めどなく悲しみの感情が溢れ出す。
「姉さん……」
「そうよ! 龍が狙いだというなら殺させればいいじゃない? そうしたら敵は帰って行くんでしょう?」
「姉さん、聞いてくれ」
「あんた、ずっとあいつのことを憎んでたじゃない!? 一体いつの間に心変わりしたの!? 父さんの仇だって、そう言ってたじゃない!」
「姉さん!」オスカーは姉の怯えた瞳に気づいて、荒げた声と感情を抑える。「……姉さん、俺は、俺も、死なせたくないんだ。誰も死なせたくないんだよ。俺はあいつを死なせたくない」
姉は力が抜けたように膝をつき、床に座り込む。
「一体、何だって言うのよ」
朝食はまだ残っているが、オスカーは立ち上がる。
「とにかく家から、いや、森から離れてくれ」
そう言い残すとオスカーは父の形見の銃を担ぎ、氷室からありったけの肉を抱えて家を出て、父母の墓へと向かう。
黄金の獣ファーヴニルは全ての肉をぺろりと平らげ、二対の翼と三対の肢を伸ばす。
「敵はいつ頃来るんだ?」
「まだ分からないな。昨夜もそうだったろう? ほとんど直後の脅威でないとはっきりと読み取れない。より正確に言えば遠い未来ほど朧なのだ」
「そんなのは人間も同じだ」
笑っているのか、龍は鼻と口から火花を噴き散らす。
「だがいつやって来ようとも我々が勝つ」
「その予言さえあれば十分だ」
「いいや、これはただの願望だよ」
それから一度だけ、オスカーは家に戻り、姉の姿がないことを確認するとファーヴニルの隣でその時を待った。
そしてその時がやって来る少し前、ファーヴニルがその時を予言する。丁度昼を過ぎた時刻だった。
「また北からだ」
オスカーはファーヴニルの首に跨り、機関砲を召喚する。
「何機だ?」
「五機」
「上等だ」
ファーヴニルが翼を広げ、大きく羽ばたくとその重装備の巨体が軽々と持ち上がる。強烈な風が渦巻き、砂塵が巻き上がり、周囲の木の葉が舞い散った。
敵機は未だ山の縁から姿を現さないが、オスカーの耳にも鉄の翼が空気を切り裂く音が迫るのを捉える。
「頂の陰で滞空出来るか?」
「オスカー。一々問うて答えるのは時間の無駄だ。龍騎兵はただ命じればいい」
「分かった」
滞空飛行するファーヴニルの羽ばたき音の合間に何とか敵機の迫る音を聞き分け、タイミングを見計らう。
戦闘機の速度と弾丸の速度を感覚で結びつけ、引き金に伝える。機関砲の轟きと弾丸の閃きが、ほんの少しの間を置いて山の向こうから現れる五機の翼の内の一機を捉える。鉄の翼が貫かれ、エンジンが火と煙を噴いて、錐もみ回転しながら森の方へと落ちていく。
「ここでもう一機やる。地上へ」
ファーヴニルは二度、三度風を打ち据えて翻り、翼を畳む。緑の山に黄金の線が一筋引かれる。隕石のように落下するオスカーとファーヴニルを二機が追ってきた。
「ぎりぎりまで引き付けろ」
ファーヴニルは返事をしなかったが、オスカーの信頼は何も疑念を抱かせなかった。
二機から弾丸が降り注ぐ。ファーヴニルは僅かに翼と尾を動かして狙いを外させる。しかし地上へ迫り、ファーヴニルが翼を開くよりも先に二機が追跡を諦め、体勢を起こす。
その瞬間を見計らってファーヴニルが翼を開き、首を向ける。オスカーの感じたことのない重みが全身を龍の鱗に押し付けた。骨が軋み、内臓が張り裂けそうな痛みが走る。ファーヴニルの判断したぎりぎりとは竜騎兵の耐えられるぎりぎりだったのだ。
それでも何とか狙いを固定したまま引き金を引き、獲物を捉える。新たな鉄塊が森へと墜落し、怨嗟の如き爆発と共に炎上する。
「東の平原へ」
強力な重力のせいか未だ平衡感覚が狂っていた。オスカーはファーヴニルに身を委ね、呼吸を整え、回復を試みる。それも残り三機が背後に迫っていることを察するまでだ。
三機から放たれる無数の弾丸を、ファーヴニルは強力な推進力と機動力とで逃れ続ける。それもオスカーを気遣ってか、加速も旋回も最小限に抑え、まるで弾丸の間を擦り抜けるようにかわしてみせた。
それに応えるようにオスカーも極限の集中力を引き出して反撃する。背後から高みから、ファーヴニルの強靭な翼による急上昇や急降下、急旋回によって得られる有利な位置取りから。しかし中々有効打を与えられない。
「飛びながら火焔は吐けるのか?」
「鉄の塊は焼けないだろう」
「それで構わない」
ファーヴニルは身を捻り、背後に火焔を吹き付ける。たとえ焼けなくとも三機は咄嗟に回避行動に移る。二機は上昇し、一機は降下した。ファーヴニルもまた同時に垂直に急上昇し、二機の背中を取る。オスカーの狙いが一機を確実に仕留めた。
「見ろ」とファーヴニルが驚いて見せる。
龍には見えなかった数奇な未来が目の前で繰り広げられる。墜落する敵機が、ファーヴニルの火焔を降下して避けた方に衝突したのだった。不運な二機は空中でひしゃげ、炸裂し、爆炎となる。
幸運だ。しかしそこで尽きた。弾丸とともに。
「ここまでだな」ファーヴニルは首の後ろの残弾が見えているかのように呟く。「奴は最後まで戦うつもりのようだが、ここは逃げの一手だ。いいな?」
「そう見せかけてくれ」
「どうするつもりだ? 私の爪と牙に頼るつもりなら――」
「頼るのはお前の翼だよ」
オスカーは背中の喇叭銃を握る。
「馬鹿なことを考えるな。死にたいのか?」
「死ぬつもりなんてなかった。俺も、お前も、奴らだってそうだろう」
「それでも、死んでくれるなよ」
オスカーの天地が引っ繰り返り、見上げる先に見上げる敵パイロットと目が合う。オスカーは首から飛んで離れ、コクピット目掛けて喇叭銃をぶっ放した。
「本当にいいのか? 軍事目標がなければ、なんてのは気休めに過ぎないと思うが」
「ああ、姉さんともよく話し合ったんだ。まあ、心から納得している風ではなかったけどな。さあ、やってくれ」
オスカーとファーヴニルは姉弟の生家の前に佇んでいる。オスカーの目には目の前の家が、もはや抜け殻のように感じられた。既に失われた過去になってしまっているのだ。
ファーヴニルが大きく息を吸い、火焔の吐息をぶちまける。瞬く間に引火した家屋は燃え上がり、焼き焦がされていく。
「さあ、行こう。ファーヴニル」
オスカーはもはや慣れた様子でファーヴニルの首へと跨る。
「これからどうするんだ?」
「龍騎兵になって、この戦争を終わらせる」
黄金のファーヴニルは空へと飛び立ち、リグルの街の上空で一度円を描くと、遥か西へと飛び去った。
読んでいただきありがとうございます。
以下は以上の小説のたたき台として設定した架空のゲーム企画です。
「アームド・ドラグーン」
コンセプト:本作は縦シューティングゲームにガチャの要素を加え、なおかつサバイバーライクのような移動のみのお手軽操作で遊べるゲームです。
概要:スマートフォンアプリのソーシャルゲームを想定しています。
基本的には従来の縦シューティングゲームと同様です。見下ろし視点であり、上方を前方、下方を後方とみなし、背景を移動させることで自機の飛行を表現し、前方から迫り来る敵を撃墜し、ステージ各所の関門となるボスを攻略し、ステージクリアを目指します。
独自の要素として、戦闘中にガチャを行います。ステージ攻略中に手に入れられる無償コインか事前に購入した有償コインでガチャを引き、アイテム(パワーアップ、友軍機、僚機)を獲得することが出来ます。無償コインの場合はそのステージのみの一時的なパワーアップ。有償で引いた場合は他ステージに持ち越せる永続的なレベルアップや別機体獲得となります。
こうすることで無償コインガチャの利用が有償コインガチャの試用ともなり、購買意欲を引き立てる効果が期待できます。
操作方法:基本は移動のみで、攻撃は自動で行われます。
敵を倒したり、オブジェクトを破壊したりした際に無償コインを獲得し、一定以上獲得した際はガチャ画面を表示します。その際に無償か有償か選択し、ガチャを引いてアイテム獲得後、使用するか否かを決定し、ステージ攻略へと戻ります。
世界観:兵装を身に着けた龍に跨る龍騎兵が主戦力として空を飛び交っていた時代のある大陸でのこと。龍資源に恵まれなかった北方の帝国が龍を上回る飛行機械の開発に成功し、主人公の故国へと侵攻を開始する。龍騎兵見習いだった主人公は戦場へと飛翔する。
プロット:応募用提出小説として主人公の前日譚を制作します。
1主人公の紹介
銃器が得意。狩りをする。リスクの高い行動は避ける。狩りの際、深追いはしない。
痩せ衰えた龍に、良い部位はほとんど残っていない残りをやる主人公。
良い部位を調理する。火への恐怖。父が焼け死んだ。生活の中でも火を見つめていられない。
龍が騒がしい。
・龍と喋れるようになる。脅威が迫っていると忠告。逃げるために嘘を言っているのだろうと思っていたが、真上を戦闘機が三機通り過ぎる。帝国の技術力や飛行機の説明。
2威力偵察かもしれない、と龍が忠告する。ただの偵察だろうと高を括るが、戦闘機は挑発するように街の上で低空高速飛行し、地平線で折り返して戻ってくると工場目掛けて機銃掃射する。
故郷は守りたい。龍を使わずに。「私の力ではない。お前の父の使った力だ」龍の兵装を召喚し仰角に斉射する。
龍の力と銃器で何とか威力偵察を追い返す。
・威力偵察で死者が出る。故郷を失うかもしれない。
3暗い顔の主人公。街の様子を見に行ったら多数の死傷者が出た。
龍は何も言わないが主人公はその眼差しに責められていると感じる。そう愚痴るとはっきりと龍に言われる。忠告に従い、さっさと迎撃すれば街に被害は出なかったかもしれない。ただの偵察だったのだから。だがいずれにせよ、また来るぞ。我々を潰しに。
平穏に生きたいだけなのに。なぜ戦わなくてはならないのか。
故郷。平和。∵戦争被害と父の死。
戦わなければいけないことなどない。平穏に生きたければもう一つ手段がある。逃げることだ。私とお前の父は死にたくなくて、一目お前に会いたくて敵前逃亡したのだから。
今でも葛藤し、思い悩んでいる。あるいはあのまま戦い続けることこそが正しかったのではないか、と。
その時戦い続ければ今お前はここにいない。父さんとお前の選択肢が正しかったことを俺と証明しよう。
・戦う覚悟を決める。父の死と向き合い、龍は嫌いだが、手を取り合う。
4最後の戦い
五機飛来する。主人公が機関銃で、竜が火焔で二機ずつ撃墜する。最後の一機は魔法を使ってとんでもない加速を見せる。誘導弾も。しかし弾切れ。最後は父の形見の喇叭銃で止めを刺す。
勝利し、家を焼く。ここにはもう何もないと敵に思わせるために。