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十六夜の月が欠けた後で 

 私達が沼島にやってきたとき、そこでは全てが凍っていた。

 地面からは氷柱が生え、穴が空いた場所は深部までもが凍てついている。

 戦いの中で生まれただろう相手の術が完全に凍結しており、炎の塊が凍るという理解不明な光景さえも広がっている。


「……刃は、どこかしら?」


 そんな中、手分けして刃を探してみるもいつまで経っても見つかることが無い。

 この場の温度は彼が見つからないのにも関わらず下がり続けていて、吐き出す白い息さえも凍る程となったが、いくら探しても彼を見つけることは出来なかった。

 

 痕跡すらなく、いつもなら感じることが出来る暖かい霊力は見つからず……一時間が過ぎたことで一度全員で集まることになったのだが……。


「この様子だ全員駄目だったか」


 集まった皆の顔は暗く、どう見ても彼がいたようには感じない。

 あの火雷に彼が負けたという事が頭に過ったが、それなら別の光景が広がっていただろうと判断されその可能性はなくなっていた。

 そして何より武人気質であったあの雷神が、何も言わずに攫うことが考えられなかったから。


 それに――。


「兄様の気配はもうないぞ」


「――雷神本人がそう言うんだもんな」


 昴さんが監視をしている雷神の一柱だという伏雷。

 彼女の言葉が正しければ、火雷は負けたとのことらしい。


「それよりもういいだろう人間、私の拘束を解け」


「暴れられたら困るから解くわけないだろ。一応聞くが火雷は死んだのか?」


「それこそ答えるはずが無い。それよりどうだ? そっちの迎えがきたようだぞ?」


 そう伏雷が言ったときだった。

 空間が僅かに歪んで白いセーラー服の少女が姿を現したのだ。

 現れたそれは暦を束ねる神無月の主である九曜様、相変わらずの人から外れた気配を放ちながらも、私達の前に姿を見せて珍しく安堵の笑みを浮かべている。


「数百年ぶりね伏雷……相変わらず阿呆そうで安心したわ」


「誰が阿呆だ人外、それよりこの者達を迎えに来たんだろう? はやく帰さないと――」


「誰が喋っていいって言ったのかしら? ――皆その阿呆を離して私の近くに寄りなさい、時間が無いわ」


 今までの九曜様からは感じることが出来なかった圧倒的な圧。

 浮世離れしたどこか遠い存在であった彼女が初めて発したその気配は私達の動きを止めるには十分だった。

 

 そしてその瞬間の事だった。

 ……夜が明け始めていた沼島の空が一気に曇り、雷雲が轟き始めたのだ。

 感じるのはあまりにも濃すぎる瘴気、首を撫でられたような違和感すら覚え空を自然と見上げればそこには紫色の長髪をした和服を着た神がいた。


 整いすぎたその容姿に陶器のように白い肌。背中には雷鼓が浮かび――発するのは悪意そのもののような圧。息が苦しい、動悸が激しくなる。横目で見ればこの中であまり体の強くない撫子は既に地面に倒れていて、呼吸も荒くなっていた。

 火雷と対面した時――いや、それ以上の何かを持つ化け物は私達を見下ろしながらもゆっくりと口を開く。

 

「――久しぶりですね九曜、元気そうで安心しました」


「やっぱり来たのね大雷。翠凰に来る時間を視て貰った甲斐があったわ」


「まだ生きてたのねあの星詠み――それで、来たってことは私と戦ってくれるの?」


「まさか、元々そこの阿呆を迎えに来たんでしょう? 私もそれは同じ、暦の子を迎えに来ただけよ」


「甘くなったのね曼荼羅を宿したあのお姫様が……元々私としてもここで戦うのは消耗が激しいから嫌なの。伏ちゃんを渡してくれないかしら?」


「代わりにすぐ退いてくれないかしら? 貴方の気配は現世にとってあまりに毒よ」


 二つの上位者の視線が交差する。

 数秒にも満たないだろうそのやりとりは私たちからすれば永遠に近いと感じる程に長く――時間が過ぎるごとに周りの瘴気が濃くなってしまう。

 本来なら瘴気に対する防御術を持っている私達すら蝕むそれ。

 私には効かないが、このままだ皆が危ない。


「いいわよ、目当ての子も横取りされちゃったようだし――来た意味がないもの。でもそうね、弱い暦を間引くのは手伝ってあげるわ」


 ぞわっと――本能でそれを感じ取る。

 何かが危ないと生存本能が警鐘を鳴らし、防げと魂が指令を体に下す。 

 そして、大雷と呼ばれたそれが――どこからか刀を取り出して。


神滅(しんめつ)――常世雷(とこよいかづち)


「ッスーリヤ!」

 

 その一撃が振り下ろされると同時に、どこからか炎の塊が出現して私達を守った。

 太陽そのもののようなその気配を感じて目を開けば、氷に閉ざされたこの大地の一部が完全に両断され融解しているという異様な光景が広がる。 


「――皆を飛ばすわ、私はこれを抑えるからシャニの弓で帰りなさい。それと刃生きてるから、安心しなさい」


 それがその時最後に聞いた九曜様の言葉。

 何も出来なかった私たちはそのままどこかに飛ばされ意識が消えた。

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