第58話:休み始まるも早速濃くて
車に剣と龍華そして澄玲と俺を乗せる事約二時間ほどが経ち、俺達はけものに襲われることなく富士の樹海まで帰ってくる事が出来た。
正直言うと二三回ほどは襲われる気がしていたのだが、なんとかなったようで……というか最近睦月の一族が開発したとされる霊力を抑える札のおかげらしい。
なんでも一族が総動員して作ったモノのようで、効果はかなり保証されており俺の霊力すら数時間程度なら隠せる代物らしい。
だが量産は難しく、今回父さんが持っていたのも試作品のようだ。
「龍華達は泊まる間は別の部屋使ってくれ、ほら前に龍華が泊まってた部屋」
「分かったわ、モノとかは動かしてないかしら?」
「ああ、どうせまた来ると思ってたから掃除はしてるけど前のままだと思うぞ」
「んーボクはじゃあ刃の部屋に泊まるね」
「……駄目だ。俺の部屋には亮が泊まるから」
「えー別にいいだろ?」
ぶーぶーと顔を膨らませながらも抗議してくる皐月家のお姫様。
その仕草は可愛いが、龍華でさえ俺の部屋に泊まることはしてないので止めて欲しい。まあ龍華は龍華で普通に朝に侵入してくるとかあったけど……。
「え、あれ? 兄様、私も一緒にですよね?」
「いや、今日から一週間は亮が泊まるから龍華と同室だな」
「……兄様、話があります」
「先に言うけど駄目だ」
「……久しぶりに兄様と寝れると思ったのに」
「知ってるか剣、実は三日ぶりだぞ」
「あれは許可取ってないので。ちゃんと許可貰って寝るのとは違います」
じゃあそもそも侵入するな?
普通に一緒に寝たいなら寝るからさ。
そう心底思いながらも俺達は部屋を決めて十六夜家に入る事にした――いつも通りにインターフォンを鳴らして、母さんが出迎えるのを待つだけ……だったのに。
「あ、刃様帰ってきたのですね?」
「――? え……?」
「はて、どうしましたか? 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして」
「あ、あぁただいま? 雫? ……え、なんで居るの?」
「先に待つのは勤めかと」
「うん――えっと、龍華達は知ってたか?」
思わず五度見ぐらいしてから俺は龍華達に聞いたのだが、返ってきた答えは首を横に振った事による否定。
だよな、龍華達でさえ引いてる顔をしているし本当になんでいるんだろう?
正直さ、変な予想はしてたぞ? いつの間にか車に乗ってたよ……的な。
だけどこれは違うだろう。なんで先回りされてるんだ? どういう原理、これワープとか瞬間移動とかの次元じゃないレベルで怖いんだけど……。
「雫ちゃん? 刃達帰ってきたのかしら?」
「えぇ帰ってきましたよ凜様。ではわたくしはご飯の準備に戻りますね」
「あ、おう――じゃあ頑張ってくれ?」
「ええ腕によりをかけ作らせて頂きますね」
そしてとても自然になれたような動きで台所に戻っていく水無月雫。
今世で一番恐怖を感じながらも俺は思考回路を停止してとりあえず手を洗い、丁度夕飯時だしと居間に向かった。
並べられる食事、終業式記念の豪華な食事で和洋の料理が並んでる。
……で、俺の前には前世からの好物である味の濃い料理が置かれていた。
始まる食事、皆がずっと疑問符を浮かべ続けているのでとりあえず味噌汁を飲んでから俺はとりあえず母さん聞いた。
だって父さんまでもがなんでいるんだろうって顔をしてるし、頼りになら無いと思ったからだ。
「なあ母さん、なんで雫がいるんだ?」
「静に頼まれたの、たまには従兄弟同士で会わせてみないかってね。だから学校に帰るまでの間は預かる予定ね」
「……聞いてないけど」
「雫ちゃんが言わないで欲しいって言ったからしょうがないでしょ。私としては龍華ちゃんと皐月の子がいる方が驚きよ? ご飯多めに作ったからいいけど、足りなくなるところだったわ」
「それはごめん?」
思わず反射で謝ってしまったが、不意打ちのように二人が来ることを告げられた俺に非はあるのだろうか? いや、ない……といいたいが、多分本当に俺は悪くない。
「とりあえず、ご飯食べたら寝なさいね。宿題は明日からやること、学園では疲れたはずだし、今日ぐらいはゆっくり休みなさい? 皆も良いかしら?」
それに全員で頷き、今日はとりあえず俺は自室に戻り剣達は空き部屋に泊まることになった。
夜中久しぶりに帰ってきた自分の布団に横になりながらも俺は隣に敷かれた布団に入る亮に声をかける。
「なんか亮とゆっくり過ごすの初めてだな」
「あーそうだね、いつも龍華ちゃん達が刃君の傍にいるし始めてかも」
「せっかくだし話そうぜ?」
「うんいいよ。でも何話そっか」
逆にだけどそう聞かれたので俺は考えた。
……うーん、前世含めて男友達よ泊まるなんて事したことなかったし、何話せばいいか分からないんだよな。
「そうだ亮は最近術の訓練はどうだ?」
「うーんそうだね、僕は最近刃君のアドバイス通りにうり坊達の力だけを降ろせるようになったよ?」
「おっやっぱり出来たか、威力はどうだ?」
「訓練用の上級のけものを破壊できるぐらいには高いかな? それに召喚に必要な時間も減ったし成長できてるんだ!」
「よかったな、友達として嬉しいぞ」
「えへへ、ありがと」
はにかむように笑い亮は喜ぶ。
そんな彼を見て未来の彼の姿であるマッチョな姿が浮かんだが、やっぱりどうなったらあぁなるかが分からない。
とりあえずすぐにその姿を退散させるように頭を振って、会話を続ける。
「ねえ刃君。ずっと気になったんだけどさ、刃君は初めて会ったときどうして僕を信じてくれたの?」
「あーそれか、前も言ったが怯えながらも一緒に戦おうとしてくれたからだな。なんか直感だけどさ、亮なら背中を任せられると思ったんだよ」
「そうなんだね――うん、ありがと刃君」
「えっと、どういたしまして?」
なんか感謝を伝えられたのでとりあえずそう返す。
それから亮は何かを考えるように頷いて決意の籠もった声でこう言った。
「僕ねずっと戦うのが嫌だったんだ。うり坊が傷付くのも別の誰かが傷付くのも嫌で――だからあの試練の時は逃げようと思ってたんだ」
「そうなのか? それにしては頑張ってくれたけど」
「君が僕を頼ってくれたからだよ。僕さ頼られたの初めてだったんだ。あんな真っ直ぐ僕を信じてくれたのも初めてで、すっごく嬉しかった――」
今まで隠していた本音を語っているのか亮は噛みしめながらも言葉を伝えてくる。
それを真剣に聞きながらも俺は次の言葉を待った。
「ずっと悩んでたんだ。刃君と本当に対等な友達でいていいのかって、君はどんどん強くなるのに僕は弱いままでいいのかって……でもさっきの聞いて決めたよ。僕は君の背中を守れる友人になりたい。きっと君はこの先も強くなるから、それを支えられる力を手にしたいんだ――あはは、ごめんね急にこんなこと言って」
夜だからかそんな本音と決意を伝えてくる亮。
いつもあまり本心を話さない彼だからこその今の言葉の重みを知って俺はそれに対してこう答える。
「いや謝るなよ、そう言ってくれて嬉しいぞ。でもな亮、俺はこの先も強くなるから大変だぞ?」
「分かってるよ、むしろそうでないと」
「そっか――じゃあ約束だ。どんどん強くなって俺の背中を守ってくれ、その時は全力で頼るから」
そう言って指切りげんまんと約束をし俺達はそのまま雑談を始めた。
期末テスト難しかったとか、この先生の授業面白いとか……そんな風に他愛なく小学生らしく時間を過ごす。
「クラスの子に聞いたけど、こういう時って恋バナするんだっけ?」
「やめろ亮、その話題は俺に効く」
「あはは、そうだね――やめとこ」




