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第31話:禍津神

 龍神から放たれる凶撃、それは俺を殺すはずだった。

 だけど、それはいつまで経っても俺に届く事はなく、それどころか――。


「ッ貴様、何者だ!?」


 穣涼の苦痛と焦りを混ざった声を聞いたのだ。

 何が起こったのかは単純で、龍の攻撃が第三者によって防がれただけ……現れた第三者、それは浮世離れした容姿を持つ呪いの神だ。


「私? 私は神綺よ、龍神様――短い間だろうけどよろしくお願いするわ」


 一振りの刀を手に持ってそこに居たのは、(じん)に宿る禍津神。

 どれだけのモノがいくら声をかけても数百年間耳を傾けなかったとされケモノに対する切り札と言われる刀に宿る神格。


「なんで、俺を守ったんだよ神綺?」

「守るつもりは無かったわ、この龍神に用があっただけだから――でもね、貴方が死んだら彼が悲しむの……そんなの許せるわけがないじゃない?」


 飄々とした態度で龍の事を無視しながら彼女は俺の質問に答える。

 他者に一切の興味を示さなかった彼女が、誰かの為に誰かを守るという事自体が信じられないが……起こった事には変わらない。

 刃による影響の大きさに軽く引きながらも救われた俺は術を練る。


「俺、覚悟してたんだけどな」

「知らないわそんな事、死ぬ覚悟なんて犬にでも食わせておきなさい」

「違いない……それよりどうするんだ? めっちゃ怒ってるぞ?」


 少し距離を取って相手を見れば、刀で斬りつけられた龍神がそこにはいる。

 深く斬りつけられたのか、それを起こした相手である神綺を睨んでおり、怒り心頭といった様子だ。


「……もう一度聞く、貴様は何者だ?」

「あら思ったより貴女優しいのね。でももう名乗る気は無いわよ? 一度で覚えない貴女が悪いわ」

「違う、名ではない――貴様なんだ? なぜそこまで死を纏っている? 貴様のようなモノの存在が許されて良いはずがない」

「知らないわよそんな事、私は生まれながらこうだから」


 神であり龍である穣涼だからこそ神綺の存在を認識してしまったのだろう。

 俺も詳しくは知らないが、死と呪いそのものと伝えられてる彼女は生きる者全ての天敵、豊穣と大地を司る龍神である彼女からして神綺という存在を許せるはずがないのだ。


「まぁそれより、貴女に聞かせて欲しい事があるの。質問に答えたのだからそれぐらいは良いわよね? 貴女、直近で呪った相手をどうするつもりなの?」

「無論殺す――吾の龍華に手を出したのだから、その罪を償わせに来た」

「えぇそうよね、私達神のお気に入りに手を出すと言うことは大罪よね――だからね、私も貴女が許せないの? 分かるかしら?」


 その瞬間、空気が死んだ。

 文字通り比喩ではなく、空気に瘴気が満ち始めた。呼吸するだけで苦しくなり、それどころか怨念のみがこの場所に渦巻き始める。

 そして周りから感じるのは数多の視線、鴉だろう鳴き声が響き始め――ここら一帯が異界と化した。


「貴方はそこにいなさい? 動いたら死ぬわよ。私は殺す気ないもの、精々死なないように動かないでおくこと」

「分かった――だけど、お前はどうするんだ?」

「勿論、あの龍を呪うわ――あれ、殺したら駄目なのでしょう? だから死なない程度に祟ってあげる」


 これ、覚悟はしてたが……家無事で済むか? いや元々壊される気ではいたが、まさか神仏大戦争とか起こるとは思わない――刃が呪われた時点で予想しておくべきだったかも知れないが……そこまで神綺が入れ込んでいるというのを予想しろというのは無理だろ。


「ねぇ貴女? 私、怒ってるのよ? ――彼は私のモノなの、血肉一片すら私のモノで、彼を呪うのも呪われるのも私の権利……今までは彼の意志が一番だったから許してはいたわ。傷付くのも成長のためで、彼が頑張る以上傍観者でいたの。でもね? 彼を呪うのだけは許さない、それは私だけが許された事なのよ。だから、だから……私の大切な人に手を出した貴女にはね地獄を見せることにしたわ」


 ……刃、お前まじで何したんだよ。

 やばいな、重いなんてものじゃなねぇよ。

 怖ぇよなんだこいつ、こんな感情豊かだったっけ? 初めて会ったときとか二~四言で素っ気ない態度で呪われたのを覚えてるが、こんなにヤバイ奴だったのか。

 まじでご愁傷様というか……なんかもう、頑張れ刃。


「ぬかせ、貴様のような邪神に吾が遅れを取るわけがないだろう!」

「そう? なら遠慮無く行くわ――起きなさい? 四季」


 彼女の持つ妖刀が名前を呼ばれてか血の雫を垂らす。

 それは地面を侵食しそこら中に彼岸の花を咲かせ辺り一帯を変化させた。


「冬の陣――凍雪銀世界(とうせつぎんせかい)


 刀に霊力が込められる。

 その瞬間に雪が降り、それどころか吹雪き始めた。

 確かに今の季節は冬だが、こんな風に吹雪くなんて有り得ない。あまり雪の降らないこの地域がこんな風になるなど明らかな異常事態だろう。

 一瞬で気温がマイナスに達したのか、吐く息が白くなり――水分を含んでるせいか凍って落ちるほどだ。


「殺しはしたくないから頑張って避けなさい? ――あ、でももう遅いわね」


 吹雪が止む。

 そして視界が開ければそこには穣涼だった筈の氷像があった。

 ただ術の中にいただけ、だけどその影響は有り得ないモノで――あの龍を一瞬で倒してしまった。


「ねぇ龍神様? 次は本体で来なさいね、これじゃあ張り合いが無いわよ?」

「――神綺とやら貴様の名は覚えたぞ。吾の力が満ちる新月の日貴様諸共罪人を処刑しに現れよう――それまでの猶予を楽しむが良い」

「負け犬の遠吠えにしか聞こえないけど、受けてあげるわ。貴女こそ、恥をかかないように準備しておく事ね。さ、刃の所に戻るわよ」


 それを最後に神綺は氷像を切り刻み、俺にそう言い屋敷の中に戻ってしまった。呆気にとられながらも彼女に付いていくことにした俺は、刃の無事を心から願った。

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