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文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。
この国では王太子殿下の婚約者を選ぶために、候補を数人上げてその中から王太子殿下に選ばせるという伝統がある。
ケイト・ヨ・サンクーネ男爵令嬢は自分は絶対にその候補には選ばれないとわかっていた。なぜならケイトは誰が候補として選ばれるのかを、知っていたからだ。
ケイトは物心ついた頃に、自分にはもうひとつの人生の記憶があることに気づいた。だが、それが普通ではないということを知ったのは、母親に『他の誰にもその事を話してはだめよ』と、固く口止めされたからだった。
母親はケイトをとても心配し、折に触れその記憶がまだあるかケイトに確認してきたため、ケイトは母親を心配させまいとその話はしないことにした。
そんなある日、花を見たくて忍び込んだ宮廷の裏庭で、ある男の子と出くわした。
「君は、ここがどこか知っているのか?」
「ごめんなさい。お花がたくさん咲いていて、どうしても近くで見たかったので来てしまいました」
ケイトはそう答えながらも、この男の子、見たことがある。でもどこで? と、思い出そうとした。そうして気づく。
カリール・デ・ミソシオス王太子殿下ですわ! と。
その瞬間、自分が記憶の中でやった乙女ゲームの世界に転生してしまったようだと気づいた。
なぜ気がついたかというと、ケイトはカリールの顔をゲームで見て知っていたからだ。
そのゲームの中では、宮廷を抜け出した幼いカリールがヒロインと出会って遊ぶ。という回想シーンがあった。
ケイトはこれはきっと、そのときの出会いのシーンに違いないと思った。
そう考えたとき、自分がヒロインを妨害してはならないと思い、カリールが呼び止めるのもかまわず踵を返すと脱兎のごとくその場を逃げ去った。
ケイトは慌ててヒロインを探した。ゲーム内と同じことが起きるのなら、ヒロインもこの近くにいるはずである。すると、運良くヒロインのシャンディ・ガ・ヒロイエン公爵令嬢をみつけることができた。ケイトは近づき頭を下げる。
シャンディはケイトに目を止めると、眉を寄せる。
「貴女、走るなんてどういった教育を受けてますの?」
ケイトはシャンディが記憶の中のゲームのヒロインと大きくことなっていることに驚いた。
もっとおっとりした、優しい女性だったはずである。少なくとも、なぜ走っていたのか原因を聞く前から怒るような女性でないことは確かだった。
だが、この世界はこの世界なのだ、違っていてもおかしくはないだろう。
「も、申し訳ございませんでした。さっきあちらに男の子がいましたので、驚いて走ってしまいました」
シャンディはケイトを上から下まで見ると、見下すように笑った。
「あらそう。ところで、貴女その男の子とお話をしまして?」
「いいえ。恥ずかしくて、走ってきてしまいましたので」
すると、シャンディはそっぽを向いた。
「それはよかったですわ。これで私が選ばれるのが確実ですわね」
うっとり宮廷を見上げると、まだそこにいるケイトに気づき不機嫌そうな顔をした。
「あら、嫌だ。貴女まだそこにいましたの? モブはモブらしく退散なさいよ」
吐き捨てるようにそう言うと、手で払うような仕草をした。
シャンディのあまりにもひどい態度に、ケイトは少し心配になった。
「あの、どうかその男の子に会われるなら、優しくして差し上げてくださいませ。とても心優しい素敵な男の子なんですの」
「ふん、なによ? 貴女この私に指図するつもり? そんなの、うまくやるに決まってますわ。それより貴女はとても邪魔なんですの。不細工ですのに、でしゃばらないでちょうだい!」
ケイトは頭を下げてその場から離れた。すると、背後からシャンディの声がする。
「あら、貴方どなた? なぜここにいますの?」
シャンディが無事にカリールと出会ったようだった。先ほど自分と話したときとは声色も口調も違うシャンディの話し方に、ケイトは驚きながらも自分には関係ないと思いながらその場を後にした。
宮廷から離れながら、シャンディのあの言い方だと、もしかしたら彼女も転生者なのかもしれない。と、そのとき思った。
こうしてこの日ケイトは、自分がゲームの世界に転生したことを知った。
しかし、ゲームに自分は登場しないし、自分の人生とは全く関係のないことだと思い、特に気にせず日常を送ることにした。
そうして月日がたち、ゲームの内容のこともすっかり忘れ、今の生活に慣れ親しんでいたときのこと。
宮廷より使者がやってくると、婚約者候補に選ばれたことをケイトに伝えた。
サンクーネ男爵家にはコネも、賄賂を渡せるほどの資金もない。なぜ選ばれたのか困惑したが、考えてみれば思いあたる要因がひとつだけあった。
以前宮廷の裏庭でシャンディに出会ったとき、シャンディがケイトのことをモブと言っていたのだ。
シャンディも自分と同じく転生者なのだとして、その彼女がケイトをモブと言ったと言うことは、もしかしたら自分は忘れているだけでモブキャラとして、ゲームに登場していたのかもしれないと思ったのだ。
ケイトは前世で、そこまでゲームをやり込んだわけでもなく説明書なども適当にしか読まなかった。
しかも生まれたときからその記憶を持っていたので、どんなに頑張ってもゲームの細かい設定など忘れてしまい、モブキャラでケイトと言う令嬢がいたか思い出そうとしたが、まったく思い出すことができなかった。
選ばれたことにケイトは驚き困惑しガッカリしたが、とにかく喜んだのは両親だった。
父親のヴィッツ・ヨ・サンクーネ男爵は発表後にケイトの両肩をつかむと、言い聞かせるように言った。
「ケイト、お前はこれから宮廷に上がることになる。そこでしっかり己をアピールしてなんとしてでも王太子殿下の心を射止めるのだ」
そして、母親のパルール・ヨ・サンクーネはそんなヴィッツを窘めるとケイトに言った。
「ケイト、気負う必要はないのよ? 自分のしたいようになさい」
そう言って送り出してくれた。
誤字脱字報告ありがとうございます。
※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。