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泣く女たち

今回のカゼインまでの旅は兄様と馬車で移動です。

またリンデンさんにお願いしようと思ったけれど、ドミニクの山に住み着くと言う事で、何やら巣作りでお忙しい様子。

それを邪魔するわけにはいきませんから。


私の知るカゼインに一番近い場所、確かオルガからなら馬車で一日ほど飛ばせば着くはずだ。

私は当面の荷物を詰め込んだバックを持ち兄様の部屋に向かいます。



私の記憶にある所は、オルガの停車場付近の市街地。

そこはなぜか未だに、鮮明に覚えている。

兄様はあらかじめオルガの詰め所に連絡し、その付近を立ち入り禁止にしてもらったようです。

そして時間ちょうどに現れた私達を、何故か大勢の騎士様が取り囲み拍手で迎えます。


「ようこそいらっしゃいました。エレオノーラ様、イカロス様。話には聞いていましたが、なんと素晴らしい御業でしょう」


お偉いさんと思われる人が、笑顔を湛えこちらに近づいてくる。


「これはニコラス殿。ご無沙汰しております。この度は無理を聞いていただきありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ聖女様のお役に立てて幸いです」


なるほど、ここでの私の立場は聖女か。

でも色々な肩書が有ってそろそろ面倒くさくなってきたな。

何か一つにならない物だろうか。


「言いつけられたものはこちらに用意してあります」


それはきっと兄様がお願いしておいた馬車の事だろう。

しかし案内される道々、私は何故か違和感を感じた。

私は記憶にあるオルガと今が、あまりにもかけ離れているせいなのだろう。

以前のオルガは、大木が茂った山が近くにあり、人々はその僅かな平地をうまく利用し暮らしていた。

広い海岸は入り江のように開き、そこには小さな港があった。

道を利用するより、海を行き来した方が早いらしく、荷物の仕入れは主に航路を利用していたはずだ。

そのせいか、山間の場所にも拘らず、ここには何軒かの店が有り、それなりに賑わっていた。

波の影響が少ない海に生簀を作り、たくさんの魚が放されていたはずだ。

明るく海に開けた地に人々の笑顔が絶えず、子供達は走り回り、海に入り遊び、とても素敵な所だったはずなのに……。


それが今の風景は昔とはひどく様変わりしている。

町の人と思われる人は誰もいない。

山は切り崩され、辺りには軍隊や技術者が多く、労働者が忙しく働き、いろいろな部材や機材が山積みにされている。


「この辺は、昔とはずいぶん変わってしまったのですね…」

「あぁ、ここにいらした事が有ると仰っていましたね。ここは今、隣国との貿易や国防の為に、大きな港を作るため大規模な工事をしているのですよ。船の発着にはこの地形が最適とされましてね。ここからですと高い山脈も無いので、山をいくつか切り崩せば、都市への広い道も容易に出来ますし、その事により近隣の村や町も潤う、一石二鳥でしょう?」


まあ確かにそうかもしれない。

でも昔のイメージを思い出すと、とても寂しくなってくる。

ふと見ると、まだ残されている木々のあちらこちらに、人の姿が見える。

”関係者以外立ち入り禁止”との立て札が有ったけれど、きっとここに住んでいた人が林の中に隠れて、この変わりゆく故郷を辛い気持ちで見ているのだろう。

その証拠に、誰もが涙を流している。

あれ?でもあそこにいる人って全員女性だな。

きっと男の人は、ここの工事に駆り出されているか、他の土地に仕事に出かけているのかもしれない。


「国が発展するために仕方ないのかもしれませんが、やはりここに住んでいた人達は辛いのでしょうね」

「どうかしたのか?」

「兄様…実はあの林の中で泣いている人達が気の毒に思えて……」

「林に人?………どこに?」


えっ、だってあそこに……。

再び林に目を戻すと、今まで何人かいたはずの人達がいない。

きっと私達が感づいたと思って、姿を隠したのだろう。


「いえ、きっと私の勘違いです」


私が騒ぎ立てて、あの人たちが捕まるようなら気の毒だ。

そう思いこれ以上話にすることを私はやめた。



「お言いつけ通り、こちらに馬車を用意しました。なおここにおります者達は口の堅いものばかりですので、どうぞご安心を」

「ありがとうございます」


案内された馬車は、目立ちはしない外見だが、強固な造りの上、乗り心地は最高だった。


「お気遣いありがとうございます。私も皆さまの為になるよう、精いっぱい務めさせていただきます」


まだ何をどうするか、全然決まっていないけれど。



出発してからしばらく先も、あちらこちらで開発を進めているようだ。

きっとこの地域は大規模な港町となるのだろう。

それと伴い、所々で、先ほどのような女性がひっそりと立っているのが見受けられる。

もしかすると国はよほど強引に事を進めたのかもしれない。


「兄様、この開発は本当に正しい事なのでしょうか?それにここが栄えるのならば、カゼインに加護を授けなくてもいいのではと思うのですが」

「あぁ、私もそれを考えていた。ここを寄港地にするとは聞いていたが、まさかこれほどの事だとは聞いていなかったな。まあせっかくここまで来たのだ。取り敢えずカゼインまで行ってみよう」

「はい」


ここからカゼインまで馬車で1日しか離れていないなら、あちらにもかなりの影響があるはずだ。

すぐにとはいかないだろうが、私が何もしなくともカゼインはいずれ開けるだろう。

それよりも気になるのは、時々見かけるあの女性たちだ。

一体どうしたのだろう。


「ここから先は道が悪くなるそうだ」


兄様のその声と共に馬車が止まる。

見ればそこは広い空き地となり、馬車が数台停まれるようになっており、その一角には小さな東屋が有った。


「エレオノーラおいで、あの家で休憩が出来る様だ」


馬車から降りた兄様が、そう言い手を差し出してくる。


「ありがとうございます」


私は兄様の手を取り、馬車の外に降りた。

なるほど、きっと開発はここ迄なのだろう。

ここから先の道は、本来の道のようで細くでこぼこした道が海に沿って続いている。

しかしその道は、ここまでの張りつめた空気は無く、とてもすがすがしい雰囲気に溢れていた。

一体この差はどうしてなのだろう。


見ると東屋の裏手で、あの村人らしき女性が三人ほどで固まり、オルガの方を見つめ声を上げ泣いている。

それを見た私は、居ても立っても居られずそちらに向け走り出していた。

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