痴話喧嘩
「エレオノーラ様、年に数回でいいのです。私と会ってお話をして下さいませんか?」
「え?え…ええ、構いません」
「良かった」
アレクシス様が本当に嬉しそうに、とろけそうな笑顔を私に向ける。
あぁ、やっぱりいいな………。
「今はここの復興を優先しますが、これが終わり次第、この魔石でご連絡します。その時はぜひ……」
そう言い、胸に下げた袋から取り出したのは、以前シャインブルク様からもらった物と同じ石だろう。
「一度返した物ですが、やはり持っていろと言われ再度いただきました。それからはお守りのようにこうして肌身離さず持っていたのですが、そうして良かった………」
「それを…見せていただけますか?」
「必ず返していただけるなら」
そう言い、微笑みながら差し出したそれは、やはりあの通信するための魔石だった。
それを握り締め、私は祈る。
”どうかアレクシス様が危険な目に合いませんように”
これは加護などではない。
心からの私の願いだ。
「ありがとうございました」
そう言い、両掌を開き、それをアレクシス様に差し出す。
しかしそこに有ったのは、受け取った時の色ではなく、透き通った深い青色をしていた。
まるでアレクシス様の瞳の色のようだ。
「エレオノーラ様」
両手を包まれるように握りしめられ、じっと私を見つめてくる。
”どうかエレオノーラ様が、毎日を心安らかに過ごせるよう。体を壊す事無く、ケガもせず、危険に合いませんように。もし何か有った時は、私の命をエレオノーラ様の代わりに差し出します。神よ、なにとぞよろしくお願いいたします。愛しておりますエレオノーラ”
アレクシス様の心の声が、私の中に流れ込んでくる。
この人は一体私の何が気に入ったのだろう。
こんなにも素晴らしい人が、なぜ私なんかを好きになったのだろう。
私には理解できない。
この人にはもっとふさわしい人がいるはずなのに、なぜ私なのだろう………。
「ただのおまじないです。と言ってもこれも私の自己満足でしかないのでしょうが。エレオノーラ様、くれぐれもお身体をお厭いください」
「アレクシス様も…」
アレクシス様は私の手の中の石を受け取ろうとし、その変化に少々驚いたようだったが、それでも笑いながら石を自分の手のひらに受けた。
そしてそれにそっと口づける。
私は間違っているのだろうか?
考えを改めるべきなのだろうか?
『ご主人様ーご用は終わりましたかー』
ハルちゃんが私を向こうの方から呼ぶ。
うん、そろそろ行くね。
『全く、そんなものにキスしなくても、実物が目の前にいるのに、何遠慮しちゃってるんだか』
そう言って、ハルちゃんがこちらに向かって突進してくる。
ちょっと待って、何も知らないアレクシス様にぶち当たったら、きっと転んでけがをしちゃう。
そう思い彼を支えようとしたが、時すでに遅し、ドーンと後ろから突き飛ばされたアレクシス様が、予想通り倒れてくる。
「「むぐっ!」」
目のすぐ前には青く澄んだ瞳を大きく見開いたイケメンが………。
ドン、ドン、ドン、ドン。
煩いほど早い鼓動は私の物か、それともアレクシス様の物だろうか。
一瞬目を閉じたアレクシス様から声がする。
”あぁ、もう死んでもいい”と。
「許しません!」
アレクシス様を引き離し、真っ赤になりながらもお説教です。
「あなたはこの国にとってかけがえのない大切な人です。それをそう簡単に命を捨てるなど、冗談でも言ってはいけません」
「あなたは……。申し訳ありませんでした。私は決して冗談で思ったつもりは有りませんでした…しかし自分の迂闊さも思い知りました。私が死んではあなたの盾になる事が出来ない。私は何が有ろうと、あなたが生きている限り生き抜きます」
「そう言う事では有りません、もっと自分を大切にして下さいと言っているのです」
「私にとって、あなたが生きている事が、一番大事な事なのです」
「ですからそれは……」
「その話は、他の者の目の無い所で二人きりでやったらどうだ?」
あきれ顔の兄さまが口をはさんできました。
そう言えば、周りはしんと静まり、皆さんの目がこちらに集中しています。
人の話に聞き耳など建てていないで、さっさと仕事を進めて下さい。
って、多分司令官はアレクシス様ですよね?
私がアレクシス様を独占したので、仕事がはかどらない訳ですよね。
「アレクシス様、お仕事の邪魔をして申し訳ありませんでした。どうか仕事を続けてください」
「エレオノーラ、ここでいきなり話を切るなど、彼が可哀そうだろう。お前だってこんな有耶無耶なままだとスッキリしないだろう?」
「それはそうかもしれませんが、お仕事を邪魔する訳にはいきませんもの」
私情で村の人達待たせるなんて出来ません。
でもそれを聞いた兄様が、頭を抱えている。
私また、何か間違えましたか?
「仕方が無い。私達もそろそろ戻らなければならないので、この話は今回の件が片付いてから、か・な・ら・ず決着を付けなさい。アレクシス様もそれでよろしいですね」
「分かりました。それまでにエレオノーラ様が、ご自身の見解を改めて下さればいいのですが」
「それは私の言葉です!」
売り言葉に買い言葉。
嫌いになられたらそれはそれで悲しいけれど、それでもまだ自分に自信が持てず、矛盾を感じつつ素直になれない自分が何とも歯がゆいエレオノーラでした。




