お茶の効力
シルベスタ兄様にも連絡を入れねばという話が出たんですが…。
「兄様は各地の支店の監査に出ていて、帰りは早くて半年後だそうです。そんなに忙しいのに、私の事で手を煩わせたくありません。お知らせするなら、そのお仕事が終わってからの方が良くありませんか?」
と言ったら、その案が通りました。
「そう、あの子はそんなに忙しいのね、大変ね」
「ええ、大変ですよね」
お仕事頑張ってください、シルベスタ兄様。
今夜はトルディアの自宅での3回目のティータイム(とういう名の公開尋問)です。
初日は、どうせ家に行くだけだからと、おしゃれもせず、ジョンさん達と過ごしていた時みたいな恰好をして行きました。
少年の服、それも古着を着て、短くぱっつんと切った髪の私を見て、何故か父様に泣かれてしまいました。
それ以来しっかりとおしゃれして通っています。
「同じ事を二度も話すの、面倒くさくて嫌」
という私の意見を尊重してくれたのか、夜、兄様の手が空いた時間に、私が兄様を連れてトルディアに行きます。
でも今は後悔しています。
確かに嫌な事は一度で済みますが、風当たりが倍になってます。
今夜のお茶は私が入れました。
「美味しくな~れ、元気にな~れ、優しくな~れ」
「エレオノーラ、最後の要らないから」
私はぜひ入れたいのですが…。
それでも皆さん、お茶を大絶賛してくれました。
でもこれって、おまじないによっては、いろいろなバージョンが出来るんじゃね?
事実これだって、ポーションみたいなものだろうし。
「でもほら、いくら私の事を大切に守るから、ずっと傍にいろと言われても、やっぱりジョンさんは盗賊でしょ?仲間に入る訳にはいかないと思って、荷物まとめて逃げ出したの」
「ほ~~傍にいろと…ね」
「盗賊ね~~」
いつも私の見方をしてくれる父様まで、青筋立ててどうしたんですか!?
それと兄様、違います、言い間違えました!
彼たちはとても優しいニートさん達です。
小言は全て白状してからだな…と、物騒な言葉が響きます。
「それで…逃げ出してからどうしたんだ」
「え~と、暗い道を走っていたら、滑って、転がって、谷を流れる川に落っこちて、私、気を失ったみたいです。それから夢の中でミシェルに会いまして、その時ミシェルが旅に行くようなことを言ってたから、私も一緒に行くって言ったら、すごく怒られて、追い返された気がします。気が付いたら私を探しに来たジョンさんに助けられていました~」
三人一同、頭を抱えて深いため息をついています。
お疲れですか?疲労に効くお茶でも入れましょうか?あっ、よく眠れるお茶の方がいいかも。
「せっかく処刑してやろうと思ったんだが、命の恩人か……チッ!」
兄様、ニートさん達を処刑するなら、他のニートさんも処刑する事になっちゃいますよ。
それって凄く大変じゃありませんか?
「それから恩返しのつもりで、ジョンさん達のお手伝いするため、しばらく一緒に暮らしました。それまでジョンさんのベッドで一緒に寝ていたけれど、あの事が有ってからジョンさんの部屋を私専用にしてくれて、自分は他の人と一緒に雑魚寝してくれたんですよ。とても良い人でしょう?」
あらあら母様まで青筋を立てて。ダメですよ、しわが出ちゃいますよ。
でも大した事無いのに、なぜみんな、そんなに怒るんですか?
「一緒に暮らしている間に、万聖節…私の誕生日が来て、母さんの言葉を思い出したんです。あの時は雪がたくさん降って綺麗だったなぁ………」
白い雪が、クルクルと舞うように降り積もって、徐々に周りの木々や地面が覆われていって……。
何て感慨にふけっていると、突然玄関の呼び鈴が鳴る。
「あら、こんな時間に誰かしら?」
「私が出よう」
扉に向かおうとする母様を止め、父様が応対に出ました。
「シルベスタ。こんな時間に一体どうしたんだ?」
そこに立っていたのはシルベスタ兄様でした。
兄様はずっと俯いて、こちらを見ようともしません。
一体どうしたんでしょう?
「……父上、母上、申し訳ありません。エレオノーラの消息を追っていたのですが、どうやらサバストから私のもとに向かったらしいのです。だがあの道はとても危険な場所です。現にエレオノーラに似た人間が盗賊に襲われたという情報が………もしそれがエレオノーラだったとしたら………一体どうすればいいのでしょう……」
「いやシルベスタ、エレオノーラは大丈夫だ………」
「どうしてそんな事を言いきれるのですか!現にエレオノーラは!!」
その言葉に激高したシルベスタ兄様が、いきなり顔を上げ、父様を睨み付け……ようとして、私と目が合いました。
ヤッホー兄様、久しぶり!
そう思いを込め、手を振ります。
「エレ…エレオ…ノーラ?」
「はい、兄様お久しぶりです!」
「エレオノーラ…お前…一体………」
「兄様、お仕事大変そうですね。兄様のお店に行ったら、仕事で当分帰ってこないって言ってましたよ。そうか、こちらの支店に用が有ったんですね」
「違う!いや、違わなくないけれど……」
どうやら、仕事のついでに我が家に寄ったみたいですね。
兄様はよっぽど疲れていたのか、へなへなとその場に座り込んでしまいました。
そんなに疲れているなんて……。
では、私が取って置きのお茶を入れてあげましょう。
「どうして…何で私に連絡してくれなかったんですか!私だけのけ者にして、どうして皆でのほほんとお茶してるんですか!!」
「えっ?だってエレオノーラが、シルベスタは仕事が忙しくて捕まらないような事を言ってたから、帰る日あたりに連絡を入れようと思ったのよ」
「そうですよ。でも思いのほか早く会えてよかった。私、兄様に話さなければいけない事が有るんです。兄様、実は私死んでいないのよ」




