お膳立て
フランツは他人の思考を読む、人を意のままに操る事に長けているから、下手な小細工をしても無駄。
下手な事をすれば、それを逆手に取り、こちらに更なる被害が及ぶ可能性がある。
放って置くのが一番だと隊長は言う。
シャインブルク様との付き合いが長い隊長がそう言うのだ、ならばそれに従った方がいい。
だから私は、夕べの事に関して無視を決め込むことにしました。
今日の朝食のメニューは、厚切りベーコンのステーキと生野菜のサラダミモザ風、オニオンスープと焼き立てのクロワッサン。ブルーベリー・ママレード・ストロベリーなどの色とりどりのジャム。フルーツの盛り合わせ、リンゴのコンポートのクリーム乗せ。ets
昨日の夕食も、見た事の無い豪華なメニューがたくさん並びましたが、今日の朝食もなかなかの物です。
残ったらお弁当にいただいてもいいでしょうか。
昼用の携帯食料は、今調理中だそうで、出発までには馬車に積んでおいてくれるそうです。
「(コソッ)ルドミラ、お昼はエルちゃんの料理の方が良かったわ」
「(コソッ)次の野営の時には特別メニューを作ってあげますから」
「(コソッ)やった、絶対よ」
なんて、私達にとって通常の会話をキャッキャと話していると、シャインブルク様も参戦してくる。
「君達、本当に仲がいいね」
「ええ、とても仲がいいの」
ミラ姉様が私に抱き着き、頬ずりをしてくる。
今朝はアレクシス様のご気分が優れず、朝食は要らないとの事。
こんなご飯を食べ損なうなんて可愛そう。
でも、アレクシス様と顔を合わせないから気は楽。
だけどご気分が優れないなんて、一体どうしたんだろう、ご病気なのかしらと言う心配。
色々な感情が交差して、とても複雑です。
「そうだエルドレット君、夕べの約束通り、出発前に我が家自慢の庭を案内してあげよう」
えっ?私そんな約束しましたっけ??
「あら、いつの間にそんな事になっているの?」
いえお姉ちゃん、私も初耳です。
確かに夕べ、庭の話はしましたが、案内をしてくれるなどと言う話は出ませんでした。
「フランツ、エルドレットは私が案内をします」
「あなたはいつでも彼に会えるでしょう?それに比べ、私は彼と初対面なのですよ。私達はいずれ義兄弟になるのですから、今の内に親交を深めたいのですよ」
「あら、その必要はないわ。この子とあなたは、義・兄弟なのですから、そんなに交流は無いだろうし」
「そうとも言えないでしょう。彼はとても優秀でかわいいと私も思いますよ。出来ればあなたが接するように、私にも親しく接してもらいたいものです」
「だめよ、エルちゃんは私のものなの。大体あなたは…………」
言い合いの応酬。
あのー隊長、出発時間が有りますから、そろそろじゃれ合いは止めて結論を出していただけませんか?
「それでは三人で一緒に行きましょうか」
「そうですね、それでいいですよねミラ姉様」
このままじゃあ、出発が遅くなるばかります。
私なるべく早くここを出たいんです。
ミラ姉様は私と腕を組んで、シャインブルク様の後に続きます。
「この木は椿と言い、冬に花を咲かせると言う大変珍しい植物なのですよ」
「昨日見たのはこの花なんですね」
「ええ、それとあちらの東屋は、よく日の当たるところに作られているので、冬でもとても暖かいのですよ」
それはそれは、とてもエコなんですね。
「行ってみますか?この時間なら、室内も暖かくなっている頃でしょう」
「ええ、ぜひ」
趣のあるそれは、ガラスをふんだんに使っているも、温室とも違う佇まいをしている。
「どうぞ」
扉を開け、中に通されると、中には一人の人間が佇んでいた。
「おやアレクシス様、こちらにいらっしゃたのですか」
そう言われても、彼の目は私を見つめているだけ、シャインブルク様を見ようともしない。
「ちょうど良かった。ルドミラ達は今日ここを発たねばなりません。そうなれば、また暫くは会う事が出来ませんので、少しでも彼女と二人きりになりたかったのですよ。宜しければその間エルドレット君のお相手をお願いできますか?」
嫌です、嫌ですよねアレクシス様。
お願いですからそう言って下さい!
「フランツ、何勝手な事言ってるの!」
ミラお姉様、お願い助けて下さい!!
「あぁ、かまいません」
神様に見捨てられた私…。
「それではよろしくお願いします、ではルドミラ行こうか」
「だめ、エルを残しては行けないわ」
「おやおや、そんな事を言って…。エルドレット君は婚約者同士の間に入り込むなど、そんな無粋な事などしませんよ」
そりゃしませんが、でもおいでと言われれば喜んで着いて行きます!
しかしその言葉は聞く事は出来なかった。
隊長がそれを言う前に、シャインブルク様に、ほぼ強引に東屋から連れ出されたから。
仕方なく私はその場に立ちつくす。
この事は既におぜん立てされていたのだろう。
誰が考えても分かるストーリー。
それならここで、どちらかが折れ、話しかけるのが普通なのだろうが、私はアレクシス様に話す事が出来ない。
と言うか、何を話せばいいのか分からない。
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いつまでやっていればいいのかな。
かれこれ10分以上立ちっぱなしで外を見続けている二人です。
そろそろ疲れたし、緊張のしっぱなしで気が変になりそうだ。
「あなたは……」
おぉ、ようやく口を開いてくれましたか。
何でしょう、何でも答えますよ。
「私の事をご存じですか?」
そりゃぁ、ちょっとは知っていますよ。
「私の仕出かした事を、なにも罪のない一人の女性の命を奪ってしまった事を」
「少しは…でもそれは間違っています」
小説の話が出ているくらいだから、この話はかなり巷に広まっているのだろう。
でもそれは真実に基づいてはいない。
だって私、生きているもの。




