迷子
隊長と一緒に部屋に戻ろうと思ったら、メイドさんに別の部屋にと呼び止められた。
「エルは私と同じ部屋でかまわないわ」
「いえ、エルドレッド様の部屋は別にと主人に仰せつかっておりますので、どうかこちらへ」
それでも食い下がろうとする隊長を軽くいなし、メイドさんは私を他の部屋に連れて行った。
そこは隊長の部屋と大した変わりのない、豪華な部屋だった。
「今夜はここに寝なくちゃいけないの?」
ベッドに腰かければずぶずぶと沈み込むし、こんな所に横になったら、きっと溺れ死ぬのではないだろうか。
日頃固いベッドや地面で寝てたのに、こんな所で寝ろだなんて、無理に決まったいる。
「仕方ないな」
ベッドから上掛けを引きずり下ろし、ラグの上で横になる。
これだって、いつもよりかなり寝心地がいい。
「あっ………」
そう言えば、ジョンさん達に何も言っていないや。
きっと今頃心配している。
メイドさんに、”何かあったらお呼び下さい”と言われたけれど、一体どうすれば来てくれるかな。
メイドさんもそう言うなら、呼ぶ方法を説明してほしかった。
まあいい、とにかく自力で行ってみよう。
そう思い、部屋を出た。
所々に明かりが灯り、真っ暗では無いのが心強い。
あてずっぽうで歩いても、運が無けりゃジョンさん達の部屋に辿り着けない。
それは分かっている。
でも時刻はそう遅くもないし、こうして歩いていれば、いつかは誰かとすれ違えるかもしれないじゃない。
そうすればジョンさん達のいる部屋に案内してもらえる…かもしれない。
そんな甘い考えの下、私は今放浪しています。
「月が明るいなぁ……」
その月明かりの下、窓の外を見下ろせば、こんな寒い冬の中でも、美しい花の咲いた庭が眼下にある。
「明日ここを発つ前に散歩してもいいかなぁ」
「ええ、かまいませんよ」
いきなり隣で響いた声に、私は文字通り驚き飛び上がった。
「シャインブルク様…」
「メイドも付けず、こんな所でどうなさったのですか?」
「あの、ここに私と共に来た人達に、今晩は違う部屋で寝る事を伝えておこうと思いまして……」
「なるほど、今まであなたは、あの者たちと一緒に寝ていたのですか」
「はい」
…………………。
これって答えを間違えたんじゃないか?
「あの、やはりミラお姉様は女性ですから、ご一緒する訳にはいきません。だから今まではあの人たちと一緒に寝ていたんです」
「そうですか、だが彼らとあなたは立場が違う。それならルドミラと同じく、もう一つ部屋を取るべきでしょう」
「でも、私は、その、ひ、一人だと眠れなく………、そう、眠れないので一緒に寝てもらっていたんです」
「しかしそれは、あまりにも危機感が足りませんね」
「そ、そんな事ありませんよ。彼らはああ見えて紳士ですし、とても優しい人たちです。それに、えーと」
確かに私が、ミラ姉様の本当の弟だとしたら、新兵に雇われた人たちと一緒に寝るなんて事は絶対にないだろう。
だからって今更取り消す事は無理。
「とにかく今夜も一緒に寝るつもりでしたから、きっとジョンさん達は心配しているだろうと思ったんです。だからそれを伝えに行こうと思ったんですが、ジョンさん達の部屋が分からなくて…………」
「ジョン…?あぁ、あの男か」
彼の事を知っているんですか?
「あの者共を部屋に通した時、挨拶に出向いたのですよ。何せルドミラの下で働いてもらいますから、釘を刺しておかねばなりません。それで、あのグループの代表がジョンと名乗っていた事を覚えています。多分あれがあなたの言う人間なのでしょう」
「そうですか。それで、あの、ジョンさん達の部屋の場所を教えてもらえないでしょうか?」
月明かりが差し込む中、シャインブルクさんは薄っすらとほほ笑んだ。
何でこう、私の周りって、こうイケメン指数が高いんだろう。
「教える事は構いませんが、あなたが出向く事は賛成しかねますね。そのジョンさんとやらには、こちらから知らせておきましょう」
そう言い、手をポケットに入れ、何かを操作している。
すると1分も経たず、メイドさんが現れた。
「ルドミラの率いてきた兵の下に行き、エルドレッド様は別の部屋で就寝すると伝えてくれ」
「あ、あの、エルです。普段はそう畏まった名前を使っていないので」
「なるほど…そのように」
「畏まりました」
礼を取った後、スススと滑るようにメイドさんは階下へ降りていく。
「さて、これでいいでしょうか?ではあなたの部屋までお送りしましょう」
「はい、ありがとうございます」
実は半分迷子になり掛けてましたので、とても助かります。
改めて見れば、シャインブルク様はまだ昼間の服のまま、まだ仕事をしていたのでしょうか?
「実はあなたに聞いてみたい事が有りましてね。かなり沢山。でもあなたにとってはご迷惑でしょうね」
「はい。あっ、いいえ………」
「ははっ、素直ですね。いいんですよ。大方ルドミラに、私と口をきくなとでも言われているのでしょう?」
そこまでは言われてませんが。
「あなたは素直なのか、それとも心が深い所でこじれていらっしゃるのか……どちらでしょうね」
「一体何の事でしょうか?」
それは自分以外の人が下す判断。
素直とか捻くれてるなど口にしたところで、人から見た印象の真偽など、自分では分からないのだから。
「彼も苦労しますね。いっそ哀れにも思われますよ」
「彼?」
「おや、お分かりにならない?なるほど……」
謎かけ遊びをするつもりは無いんですけどね。
そんな曖昧な事を言ってないで、ズバッと言っちゃって下さいよ。
「まあいいでしょう、どうやらもう少し時間を掛けた方がよさそうです。ならば私もその心づもりでいましょう。ただ私の方からも力添えをさせていただきたい」
力添えですか?これ以上面倒な事はお断りしたいのですが。
「それから私からあなたに頼みも一つ有ります。出来ればルドミラの新しい兵たちには、なるべく近寄らないでいただきたいのですが…それは無理でしょうね」
「そうですね、彼らにはとてもお世話になりましたから」
「なるほど」
こんななぞなぞ……私には彼が何を考えているのか、知る由もない。
「さあ、着きましたよ、もし眠れないならば、傍にいるようメイドを付けましょうか?」
「いえ、大丈夫です。お休みなさいシャインブルク様」
「お休み」
そう言い、来た道を引き返していった。
そう言えばメイドさんを呼ぶ方法を、また聞きそびれちゃったな。
それから私は、先ほど作った仮の寝床に潜り込み、目を閉じた。
「あーーー!」
そう言えば、隊長に私の身元バレちゃって、きっとシャインブルク様にもバレていると言われたんだっけ。
それを前提にすれば、先ほどの言葉も、何となく腑に落ちる事も有る。
やっぱりありゃバレてるわ。
明日隊長に、彼に口止めするようにお願いしておかなければ。




