兄を頼ってバスクまで
ようやくバスクに到着しました。
捕らえた盗賊Bを野放しにする事は出来ないので、一緒に引き連れて来て、今ようやく警官にバトンタッチしたところです。
おかげで時間が余計にかかっちゃいました。
食料も人数が増えた分、足りなくなりそうでしたが、私のアウトドア知識を駆使し、何とか乗り越えました。
もちろん食費などは、途中で寄ったBさん達のアジトから徴収しましたけど、なかなかしょぼかったですね。
そうそう、おまわりさんに余計な事を言ってはダメですよ~。
尤も自分達の悪事を言いつけるような真似はしないでしょうが。
いけない、私もだいぶ、ジョンさん達に毒されてる。
「チームAさん、今まで大変お世話になりました」
「いや、AではなくJだ」
聞けばジョンさんの頭文字をグループ名にしていたと。
今更ながら知りました。
「エル、これからどうするつもりだ?兄さんを頼ると聞いてはいる。だが…もし出来ればこのまま俺達と暮らさないか?俺達もエルが納得できる仕事に就くから」
「ジョンさん、女一人と大勢の男性が一緒に暮らすなど、出来るとお思いですか?」
ハッとしたジョンさんが、慌てふためいている。
そりゃぁ最近までそういう生活をしていたけれど、それは止むに止まれぬ理由が有りまして、兄のいるバスクに着いたならそうもいかないでしょう。
「いや、そんな意味ではなく、家族…そうだ、家族として一緒に暮らせないかと思って」
それならきっと、お父さんはルーベンスさんで、ビルトさんがおじいちゃん。
それならさしずめ、ジョンさんは……三男てところでしょうか。
そして私が末っ子かな?
「いや、家族はまずい。家族ではなく例えるなら、ええと……」
一瞬、私の脳裏に、お猿さんの群れが浮かんだのも無理ないですよね?
もちろんボスがジョンさんです。
「とにかくこのバスクには、血の繋がった実の兄がいます。頼るとしたら、普通そちらを優先しますよね」
これだけ言えばわかってくれますか?
「はい……」
ようやく諦めてくれたジョンさんですが、それでも兄様の勤め先まで送っていくと譲らない。
町の中だから安全なのに、どこまで過保護なんだろう。
「仕方ありません、店の近くまで送ってください」
道すがら、いろいろな事を訊ねられた。
「兄様の名前はシルベスタ。この町のファーゴ商会に努めていると聞いています」
「ファーゴ…?かなりのチェーン店じゃないか。身元の確かな人間しか雇わないと言われているのに、よく入れたな」
「はい。兄さんはとても優秀で、頑張り屋さんなんです」
「そうか。それでエルはこれからどうするつもりなんだ?って言うか、エルは今までどうしていたんだ?なぜ家族から離れてバスクに来たんだ?」
そう言えば、詳しい話は全然してませんでした。
「まあそれを話すと長くなりますから、また会った時にでも話しましょう」
とうい訳でタイムリミットです。
ファーゴ商会の看板が見えましたから。
「ではジョンさん、長い間ありがとうございます。この恩は必ずさせていただきます」
「いや、俺たちの方が世話になったから……、あの、もうこのまま会えないのか?」
「いえ、必ずご恩はお返しします。その時は、あのアジトに伺えばよろしいんですか?」
多分ジョンさん達は、暫くあそこへは帰らないだろう。でも腐らない物だったら置いといても大丈夫だと思うから。
「この町の西の外れに、フェネックと言う宿屋が有る。俺達はしばらくそこに厄介になるつもりだし、あそこのおやじとは懇意にしている。もし俺たちに連絡を付けるなら、そこを頼ってくれ」
「フェネックですね、分かりました。では失礼します」
そう言い残し、ファーゴ商会へと歩き出した私の後を、相変わらずジョンさんが付いて来る。
「あのですね、出来ればみんなの所に帰ってくれませんか?」
「ファーゴ商会までまだ距離が有るから」
「距離って、たかだか100mぐらいですよ、もしジョンさんと歩いているところを兄に見られでもしたら………」
理由はどうあれ、お仕置きものです。
「分かった、退散するよ。だが俺たちのいる所は分かっているな。西の外れのフェネックだぞ」
「はいはい、西の外れのフェネックですね。落ち着いたら伺わせていただきます」
「それならいい。必ず来いよ、絶対だからな」
小さな子供ですか。
「ジョンさん、疑り深い人はモテませんよ」
「モテるのはエルにだけでいい!」
何を言うのやら。
ジョンさんの考えが理解できないまま、トコトコと約100m。
ファーゴ商会の前で振り返っても、ジョンさんはまだそこに立っていました。
「すいません、ここに努めているシルベスタ・ゴルティアさんにお会いしたいのですが」
「大変申し訳ありません。店長は所用で留守にしております」
そっかー、出直すしかないか……。
「いつお戻りになりますか?」
「そうですね…、少々お待ちください」
そう言い席を離れた定員さんは、近くに居た女性を呼び止めた。
「申し訳ありません支店長。こちらのお客様が店長にお会いしたいそうなのですが…」
「あぁ、分かったわ」
支店長と呼ばれた女性がこちらに近づく。
「お待たせしました。私はこちらの支店長をしておりますラリサ・マクレーンと申します。あいにく店長は各支店の監査に出ておりまして、戻りはかなり先になると思います」
「かなり先ですか。それはどれほど……」
「もし問題が無ければおおよそ半年ほど、問題が発生したならばそれ以上かかると思います」
半年か………。
待つしかないかなぁ。
「分かりました。半年したらまた伺わせていただきます」
「はい、えっ、いえお客様!」
副店長さんが、慌てて私を引き留める。
「あの…店長にどのような御用でしょう。用件次第では、店長に連絡を付けさせていただきますが」
「そんな、お手を煩わせるほどの事ではありませんから。ですのでここで待たせて頂く事にします」
「えっ?」
違った。
「ちょっと訳ありで家に帰る事が出来ないのです。どのみち仕事先を探すつもりでしたので、ここで就職してシルベスタさんが戻るまでこの町にいる事にします」
「あの…店長と会うためだけに、この町に就職するつもりなのですか!?」
「変ですか?」
他に目指すものが無いならば、このままここに留まり、就職したって同じだから。
……………。
ちょっと待った~~!!
兄様には、きっと家から私が死んだと知らせが来ているはず!
私、ちょっとばかり考えが足りなかった。
でも、いずれ家に帰るつもりなら、今叱られても、後で叱られても同じか。
ならば嫌な事は早めにやっておいた方がいいだろう。
と言う事で、このまま続投です。
「あの~~どうかされましたか?」
私、挙動不審でしたか?
「すいません、少し考え事をしていて。それで、こちらには時々寄らせてもらいますので、もしよろしければ、その時兄様がいつ帰るのか教えていただけますか?」




